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ANAもJALも「日系初」主張、ウラジオストク便の珍事【&旅行記】

2019年08月20日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,柳澤里佳(ダイヤモンド・オンライン

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ウラジオストク
Photo by Rika Yanagisawa

ANAとJALがロシア・ウラジオストク直行便を同時開設する。それぞれが「日本の航空会社として初」を主張、就航前から早くも火花を散らす。同時開設となった背景とともに、ウラジオストク旅行記をお届けする。(ダイヤモンド編集部 柳澤里佳)

同じ日に同じ路線の開設発表で前哨戦
「日本から最も近いヨーロッパ」を奪い合う

 7月29日、全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)が成田国際空港からロシアの極東都市、ウラジオストクに新しく路線を開設すると発表した。これまで日本とウラジオストクを結ぶのはロシアの航空会社のみだったが、日系2社が揃って直行便を出すことになったのだ。

 ANAとJALが同じ日に同じ路線の開設を発表すること自体、珍しいが、2社とも「日本の航空会社として初めて」同路線を開設すると主張している。

 運航開始日について、ANAは「20年3月(19年ウィンターダイヤ中)」とプレスリリースに記載。「今後は就航に向けて最終調整を行う」としている。JALは「20年度夏期ダイヤより、毎日運航」と発表しており、20年夏ダイヤは3月29日にスタートする。となるとANAが数日先に飛ぶ可能性が高い。

 ANAに対して業界関係者からは「スケジュールも機材もまだ決まってないうちに発表するなんて勇み足が過ぎるが、ロシアへの直行便は初だから気合が入っているのだろう」との声も。乗客の奪い合いに向けた前哨戦といったところだ。

 戦いの舞台となるウラジオストクは2時間半のフライトで着く、「日本から最も近いヨーロッパ」として人気急上昇中の旅行先だ。日本海に面するコンパクトな港町で、レンガ造りの街並みや歴史を感じる建築物、イクラや蟹などのシーフード、おしゃれなカフェや雑貨店巡りがウリで、若い女性を中心に旅行者が増えている。

 追い風となったのは日本人に対するビザの緩和だ。ウラジオストクを含むロシア沿海地方は2017年8月からインターネットによるビザの無料申請を受け付けるようになった。それまでロシアのビザ取得は煩雑で、費用も1万円ほどかかっていた。

 これにより日本からの渡航者は、ビザ緩和前は年間5000人程度だったのが、18年は2万人を超えた。19年上半期(1月~6月)累計で約1万1000人(前年同期比2.3倍)なので、19年は前年を上回る可能性もある。

 ちなみに同地方への19年上半期の外国人来訪者数は約40万人で、うち観光客数は30万人(前年同期比25%増)。中国(約15万人)、韓国(約12万2000人)が圧倒的に多い。14年にロシアと韓国の間でビザを免除してから韓国人の個人観光客も急増している。

ロシア国内線への乗り継ぎは
JALに軍配

 ANAは路線開設の狙いとして、日本とロシアの流動拡大に貢献すること、ANAグループ全体の事業戦略であるホワイトスポット(未就航地)へ進出することなどを挙げる。ウラジオストクへの日本人旅行者が激増しているだけでなく、ロシアからの訪日客も右肩上がりで、18年は約9万4800人(対前年比23%増)で過去最高を記録している。加えて、水産漁業や自動車、造船、エネルギー関連などのビジネス渡航需要も見込んでいるという。

 ANAのロシア路線は1989年~2000年にかけて、成田~ロンドン線、成田~パリ線、関西~ロンドン線、関西~ローマ線における「経由地」としてモスクワに就航したが、直行便の実績はない。ウラジオストクがロシアへの初の直行便となる。「昨年から入念に、路線開設の準備をしてきた。JALよりうちが、『先』に飛ぶはずだ」と複数の関係者が「初」を語る正当性を強調している。

 一方、JALは東京~モスクワ線を50年に渡って運航してきた。ウラジオストクはロシア路線としては2路線目だ。発着時間(成田発11時20分~ウラジオ着14時45分、ウラジオ発16時25分~成田着17時40分・夏ダイヤ中)と使用機材(ボーイング737‐800)、ビジネスクラスとエコノミークラスの設定も決まっている。

 加えて、同じ航空アライアンスのワンワールドに加盟するS7航空(シベリア航空)とのパートナーシップを通じて、ウラジオストクから先のロシア国内線、ハバロフスクやユジノサハリンスク、イルクーツクなどに接続する。「極東ロシアは日本から近いわりにアクセスの選択肢が少なく、不便だった」(エネルギー関連関係者)。こうしたことも踏まえると、航空会社のネットワークの拡充という意味では、JALに軍配が上がるといえよう。

フライト2時間半の「安近短」
家族で2泊3日旅に行ってみた

 そんなウラジオストクだが、実際どういう場所なのか。安近短旅行(費用が安く、距離が近く、日程が短い旅行)の行先として、楽しめるのか。

 記者は17年のビザ緩和と「2時間半で行けるヨーロッパ」の評判にひかれ、18年9月末にウラジオストクを家族(30代夫婦+2歳の子供)で訪れた。

 18年9月上旬にウラジオ旅行を思い立ち、旅行予約サイトのエクスペディアで検索。成田~ウラジオ線が最も安かったオーロラ航空(現在は同路線は運休)を予約した。9月末の金曜日に出発し、3日後の日曜日に帰国するフライトスケジュールで、家族3人の航空運賃は合計約16万円だった。海外旅行にしては直前予約だったので、早目に計画すればもっと安い航空券があっただろう。ホテルは立地を重視し、1泊1万円程度の、地元の中級ホテルを予約した。

 ビザもインターネットで申請手続きできる。「ロシア電子ビザ申請サイト」には日本語があるので、順を追ってパスポート番号などを入力すればいい。顔写真のアップロードは写真サイズを指定通りに合わせる必要があったが、何とかクリアできた。

オーロラ航空のプロペラ機
Photo by R.Y.

 出発当日、午後2時発のオーロラ航空に乗った。飛行機はボンバルディアのDHC8-Q400。ターボプロップエンジンのプロペラ機だ。国際線をプロペラ機で飛ぶのは初めての経験で胸が高鳴った。機内は70人乗りでほぼ満席。小型機なので、背の高い客室乗務員の帽子が天井についていた。

 現地時間の午後6時に到着した(日本と1時間の時差がある)。ここでウラジオ旅行の「注意点」の一つにぶち当たる。空港~市内をつなぐ鉄道「アエロエクスプレス」の最終便が午後5時台のため、乗れなかったのだ。1日5往復程度と本数が少ないので飛行機の時間によっては利用しにくく、ミニバスかタクシーの選択肢になる。ミニバスは所要1時間20分。タクシーを選択し、40分ほどで市内に着いた。

Photo by R.Y.
ウラジオストックの教会
Photo by R.Y.

 翌日は朝から観光に繰り出した。前評判通り、レンガ造りの街並みや歴史を感じる建築物が並び、緑が多く、近代的な高層ビルはほとんどない。まさに「ヨーロッパ」である。キリル文字や、街中に銅像が多いことに、「ロシアらしさ」を感じた。ロシア正教の教会はとても美しかった。

 観光の合間に立ち寄った海辺の小さな遊園地は、子連れにぴったりだった。デザインや色使いが日本には無い雰囲気だ。

ウラジオストク 遊園地
Photo by R.Y.

 ウラジオ旅行の魅力の一つが、本場のバレエやサーカスを観られること。ロシアを代表する劇場でサンクトペテルブルクにあるマリインスキー劇場の支部ステージがウラジオにあり、バレエやオペラを観劇できる。旧ソ連時代から40年続くウラジオストク国立サーカスの常設劇場もある。

ウラジオストク 人形劇
Photo by R.Y.
ウラジオストク 人形劇
Photo by R.Y.

 サーカスは残念ながら日時が合わなかったので、人形劇を観ることにした。数人の俳優と人形がコミカルに動き、大人も子供も約1時間、言葉が分からなくても飽きることなく楽しめた。

ウラジオストク イクラクレープ
Photo by R.Y.

 旅の楽しみといえば食事。港町なのでシーフード(グリルやボイルした盛り合わせ)が名物であり、その他ボルシチやピロシキ、ビーフストロガノフ、サーモンやニシンのマリネ、ペリメニ(ロシア風餃子)など、ロシア料理をひと通り食べた。街には中央アジア料理のレストランも多く、観光客向けの中華や韓国料理屋もあるので、食事に困ることはない。イクラやキャビア、ウォッカやジョージアワインが安いので、ホテルの部屋で楽しむのもオツだ(ただし、イクラの「醤油漬け」はない)。

 ウラジオならではのイクラの食べ方としておススメなのが「イクラ・ブリヌイ(ロシア風クレープ)」。イクラの塩気とクレープの甘味が絶妙にマッチして、ロシアンティー(ジャムや蜂蜜入り紅茶)にもよく合う。人によって好みは分かれるだろうが、記者は美味しく食べた。

シベリア横断鉄道の始発駅
Photo by R.Y.

 ウラジオストクにはシベリア横断鉄道の始発駅がある。シベリア横断鉄道はロシア帝国時代の1890年代に建設された、モスクワまで9288kmの世界一長い鉄道である。ウラジオからモスクワまで乗ると6泊7日の旅になるが、隣の都市であるハバロフスクまでなら1泊2日で夜行寝台列車の旅を体験できる。

 ここで注意しなければならないのが、沿海地方限定の電子ビザでウラジオ入りした日本人はハバロフスクに入ることができない点だ。ハバロフスクも観光したければ、従来通りロシア観光ビザを取得する必要がある。

 ロシアにはこの「ビザが州ごとに違う」問題があり、旅行者は不便に感じることが、ままある。現地の報道によると、観光政策を強化中のプーチン政権は、近くサンクトペテルブルクを含むレニングラード州も電子ビザを導入し、21年までにはロシア全土に電子ビザを広げる検討をしているという。

 旅行市場ではウラジオにポテンシャルを見いだしている。「安近短旅行における目新しさではピカイチ。沖縄とも韓国とも台湾とも違う、異国情緒を感じられる」と旅行業界関係者。「見所の大半は市内中心部に集中しているので徒歩で移動可能。2泊3日あれば楽しめる。物価は日本よりやや安いくらいで、治安もいい。若者からシニアまで、興味をひくのでは」と期待する。

 ちなみにダイヤモンド・ビッグ社発行、小社発売の「地球の歩き方Platウラジオストク」(2018年5月初版)の売れ行きは当初想定以上に良く、担当者によると、「Platシリーズ23タイトルのうち、4番手か5番手に付けるスマッシュヒットになっている」。これを受けて19年3月に改定予定だった「地球の歩き方 シベリア&シベリア鉄道とサハリン」を、「極東ロシア シベリア サハリン ~ウラジオストク ハバロフスク ユジノサハリンスク~」という都市名を散りばめたタイトルに変更したところ、改定前のものに比べて2.5倍も売れているという。

 もっとも、「ホテルの絶対数が少ない」「リピーターが生まれるかは疑問」「ANAもJALも直行便を飛ばすなんて、正直びっくり」「夏場はいいが、極寒の冬場に観光客は来ない」といった厳しい声もある。

 ウラジオストクは旧ソ連時代、軍港であり外国人は立ち入り禁止だった。そのような“閉鎖都市”だったため、外資の大手チェーンはほとんどなく、今でも「ZARA」(アパレル)と「バーガーキング」くらいしかない。だからこそローカルな飲食店や雑貨店がたくさんあり、そこが大きな魅力でもある。ホテルはローカルな中級ホテルばかりで、名の知れた高級ホテルとなると、「ロッテホテル(旧ヒュンダイホテル)」くらいである。

 新たな名所として、(サンクトペテルブルクにある国立美術館で世界遺産でもある)エルミタージュ美術館の「分館」をつくる計画や、2つのハイアットホテルの開業プロジェクトもあるが、どちらもスムーズに進んでいない。

 韓国や台湾、沖縄も長い年月をかけて人気旅行地に育った。さて、ウラジオストクもリピートしたくなる観光都市になれるか。ANA、JALは寒々しさではなく、熱い戦いを繰り広げられるだろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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