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一般向け「CRISPR本」が続々、次のベストセラーはどれ?

2019年08月19日 17時09分更新

文● Antonio Regalado

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現代の奇跡「クリスパー(CRISPR)」を大々的に伝える物語が揃いつつある。このDNA切断テクノロジーに関する、少なくとも4冊の一般向けの書籍が出版へ向けて進行中なのだ。

いまのところ限られた情報しかないが、どの本も科学者が人間の遺伝子を変える能力を持つようになったいま、人間の進化自体が危機ににさらされているという考えを揶揄しているようだ。

クリスパーを使った遺伝子操作赤ちゃんが昨年中国で誕生したことで、クリスパーはこれまでになく差し迫った論題になった。そんな中、この4冊の著者は誰が最初に出版に漕ぎ着けるのか? 独自のクリスパー・レースを繰り広げることになるだろう。これらの書籍の概要を判明している範囲で紹介しよう。

タイトル未定(ウォルター・アイザックソン著)
情報筋によると、作家のウォルター・アイザックソンがクリスパーの物語を詳しく調べている。アイザックソンは、アルベルト・アインシュタイン、レオナルド・ダ・ビンチ、そしてスティーブ・ジョブズの伝記を手がけた人物だ。クリスパーの共同開発者であるカリフォルニア大学の生化学者ジェニファー・ダウドナ教授の視点を通して語られる可能性がある。ダウドナ教授は、クリスパーを発明した後、技術がいかに悪用される可能性があるかを世界に警告している。

書籍に仮タイトルがあるかどうかは分からない。だが情報筋によると、アイザックソンは欧州に滞在してクリスパー関連の科学者を取材している。取材対象には、ダウドナ教授とともにクリスパーを共同開発したエマニュエル・シャルパンティエ博士も含まれているようだ。クリスパーの開発は単独の科学者の研究というよりは、研究グループによる成果だったので、アイザックソンお得意の「天才の伝記」として描くのは難しいかもしれない。

アイザックソン本人や、エージェントの「ビンキー」ことアマンダ・アーバンに問い合わせたものの、返答はなかった(アーバンはマンハッタンを拠点とするICMパートナーズ(ICM Partners)に所属する著名エージェント)。明らかなことは、アイザックソンの知名度と壮大なスケールで描く彼の執筆スタイルで、クリスパー物語がベストセラー入りする可能性があるということだ。数百万部の売上が期待される。

『Editing Mankind:Humanity in the Age of CRISPR and Gene Editing(人類の編集:CRISPRとゲノム編集時代のヒト)』(ケヴィン・デイヴィス著)
ケヴィン・デイヴィスは学術誌『CRISPRジャーナル』の編集者で、DNAシーケンシングの高速化と低廉化の競争について著した『 The $1,000 Genome』(2010年刊、未邦訳)の著者だ。デイヴィスはクリスパーに関する新刊の権利をすでにペガサス・ブックス(Pegasus Books)に売却している。来年発売の新刊は、中国と米国での遺伝子編集研究に注目し、科学者が「神のように振舞っている」かを問う内容になるようだ。

宣伝文によると、「患者のために研究の最前線にいる科学者たちを追い、科学者たちの力強い物語から研究の意味をヒューマン・スケールで感動的に描き出す」。

デイヴィスは、昨年中国で起こった遺伝子編集の大失敗を含めて、クリスパーを最前線で見つめてきた。CRISPRジャーナル誌は、フー・ジェンクイ(賀建奎)が執筆した遺伝子組替え人間の倫理的問題に関する長ったらしい論文を掲載した。フーはゲノム編集によって双子を誕生させたと発表した中国の科学者だ。結局、その論文は深刻な倫理と利益相反の矛盾で撤回せざるを得なかった

『Mutants(ミュータント)』( イーブン・カークシー著)
文化人類学者のイーブン・カークシー博士は、来年度からプリンストン高等研究所で勤務する予定だ(現在はオーストラリアのディーキン大学の准教授)。カークシー博士は遺伝子編集と社会的不平等の交差部分に注目するだろう。出版社の目録によると、カークシー博士は「クリスパーによって人類を作り変える科学者、ロビイスト、起業家、そして活動家の国際的な事例について深く掘り下げる予定」。

この本の版権をセント・マーチンズ・プレス(St. Martin’s press)が買い取ったという情報を得たため、カークシー博士とセント・マーチンズ・プレスに問い合わせたが、どちらからもいまのところ返事はない。

タイトル未定(マイケル・スペクター著)
ザ・ニューヨーカー誌のマイケル・スペクター記者がクリスパーの書籍を執筆中だという話はしばらく前からあった。マサチューセッツ工科大学(MIT)の遺伝子ドライブの専門家であるケビン・エスベルト助教授を、スペクター記者が追っていることを私たちは突き止めている。エスベルト助教授は、たとえば、アフリカでマラリア感染を媒介する蚊を駆除するなど、ある環境下で遺伝子編集ツールを自由に使うことに関して率直な発言をしてきた。スペクター記者は以前、ザ・ニューヨーカー誌でエスベルト助教授の特集をしている。スペクター記者へコメントを求める電子メールを送ったが、まだ返信はない。

もしかしたら、私も本を書けばいいのかもしれない。メアリー・シェリーと「サルでも分かるクリスパー」の出会いをテーマにしたらよさそうだ。

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