ブログを使って集客し、中身のない高額セミナーを開催しては荒稼ぎをする、“SNS起業家”たち。そんな起業家たちにそそのかされ、大金を投じてしまう女性が後を絶たない。今回は、1人のSNS起業家に傾倒し、借金までした女性の悲惨な顛末を聞いた。(清談社 島野美穂)
SNS起業家に貢ぐため
50万円を借金
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1万6000円のランチ会を皮切りに、どんどん自己啓発セミナーにのめり込んでいった Photo:PIXTA |
「あの頃、私は完全に“信者”でした。費やしたお金は総額50万円以上。カードでキャッシングしたり、夫に借りたりしていました。今振り返ると、本当に馬鹿なことをしたと思います」
松本沙奈さん(仮名・25歳)が、SNS起業家・Aに出会ったのは、今から5年前のこと。「起業家」とはいうものの、その実態はいわゆる自己啓発セミナーの講師。SNSで悩める女性を集め、高額セミナーに誘い込むという手法だった。
沙奈さん自身、Facebookで「お悩み相談」のようなサービスを提供しているAを、偶然見つけたのがはじまりだった。
当時、仕事を辞めるかどうかで悩んでいた沙奈さんは、思い切ってAに相談してみることにした。
「心理カウンセラーの資格を持っているという自己紹介文を読み、さらに年齢も近かったこともあって、『この人なら相談にのってくれるかも』と期待して、メッセージを送りました。実際にAは、とても親身になって聞いてくれて、うれしかったことを覚えています」
ただ、悩みに対するAの回答は、「会社を辞めて、私の弟子にならないか」というものだった。弟子になるためには講座を受ける必要があり、その費用は30万円。とても払える金額ではなかったため、沙奈さんは断った。
しかし、一度接点が生まれると、次々に誘いの連絡がくるようになる。しばらくすると、Aからランチ会に来ないかと誘われた。会場は、都内某ホテルのラウンジで、参加費は1万6000円。ちなみに、ランチ自体の値段は4000円だった。
沙奈さんを含めて9人ほどが参加していたという、そのランチ会は、食事をしながらAの話を聞いたり、参加者の悩みを聞くというものだった。最初こそ普通にランチを楽しんでいたものの、途中、悩みを相談したシングルマザーを、Aが泣かせるという一幕もあったという。
「『悪いことは全部、あなたが引き寄せた』とかなりキツい口調で言っていました。でもそのときの私は、『物事を正しく判断し、バッサリ切るAはすごい!』と思ってしまいました。Aの強さに憧れてしまったんです」
実際には、お金に自由がきく独身OLをターゲットにしたかったAが、専業主婦やシングルマザーを切り捨てていただけだったのだが、沙奈さんはそのことにまだ気付いていなかった。
否定してくる人はすべて
“ドリームキラー”
仕事のストレスから逃れるように、沙奈さんは、どんどんAにのめり込んでいった。Aのブログをくまなく読み、単発のセミナーには可能な限り参加した。Aの思考法により近づけるように、DVDや音声サービスも片っ端から購入した。
「精神的に弱っていた私にとって、Aの言葉はとても心地よかった」と沙奈さんは言うが、それにしても、なぜそんなにお金を支払ったのだろうか。
「Aは講座やブログ、メルマガなどで、『お金は出さなきゃ入ってこない』『これくらいの金額が出せないのでは、これ以上豊かになれない』ということを繰り返し言っていました。Aの言う通りにすれば、私にもお金が巡ってくると本気で思っていました。ほとんど洗脳ですよね」
A自身、講座で「私のしていることを洗脳だと言う人もいる」と、大胆にも言うこともあったという。そのたびにAは、「それは“ドリームキラー”だから無視していい」と伝えた。ドリームキラーとは、夢や目標を邪魔する人のこと。沙奈さんがAに傾倒していることを、家族にも友人にも言えなかったのは、この言葉を信じてのことだった。
「Aにお金をつぎ込んでいると言えば、ドリームキラーである家族は、きっと反対するだろうと思いました。でも同時に、自分が間違っていると認めるのが、内心怖かったんです。誰にも相談しなければ、いつまでもAを信じることができますから」
やがて沙奈さんは、Aが主宰するサロンに入ることにした。参加費は半年間で約15万円。この時点で沙奈さんは、50万円以上のお金を借金していた。
しかし、このサロンに入ったことが、結果的に沙奈さんの洗脳を解くきっかけになる。
似たような内容の高額講座に
突然の路線変更
「サロンメンバーは、毎月1回、Aが登壇する講座に参加できます。私も楽しみにしていたのですが、ふたを開けてみて驚きました。内容が毎回ほとんど同じなんです。それも引き寄せの法則についてなど、そのへんで売られている自己啓発本に書かれているようなことばかり。あとは、Aがどれだけお金持ちかという自慢話。とても15万円の価値があるとは思えませんでした」
さらに、数回目の講座の際に、突如Aが「私はもうお金はいらない。皆さんに教えることもないので、今日の講座は質疑応答の時間にする」と言い出したという。
「それまで、散々、お金を引き寄せることばかり話していたのに、急に『お金はいらない』と、真逆のことを言いだしので、びっくりしました。自分で話すことを辞めたのを見ても、ある程度信者からお金が集まったことで、本人のやる気がなくなったんだと思います」
このセミナーをきっかけに、沙奈さんはAの呪縛から解き放たれた。それまでも、Aに対する批判的な意見がネット上にあふれていることは知っていたが、盲信していた頃は、それらはすべて「ドリームキラー」だと思い拒否していた。しかし、改めてAの情報を調べてみたときに、自分がいかに、稚拙なうたい文句にだまされていたかにようやく気がついたという。
「結局、私に残ったのは50万円の借金だけです。ダメ元でサロン費用の返金を求めましたが、『個人の都合による返金は一切応じない』と言われて以降、返信はありません」
呪縛が解けた沙奈さんは、今もたまに、AのSNSをのぞくという。
「Aは集客する際に、必ずといっていいほど『私に会えるのは、今回で最後』と言います。私もそうですが、そう言われると『最後だから…』とついお金を払ってしまいます。もちろん、最後というのはうそで、また何事もなかったかのように活動を続けます」
現在、借金はすべて返し終えたという沙奈さん。心の弱った女性を食い物にするSNS起業家に、どうかだまされないでほしいと話す。
「1人で抱え込まず、身近な人に相談してください。あなたのお金は、他人に貢ぐのではなく、自分のために使うものです」
誰かにすがりたいという心の弱みに付け込まれた代償は大きかった。
※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら
