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米国が中国に新冷戦で勝つには「トランプ流戦略の転換」が必要だ

2019年08月14日 06時00分更新

文● 高田 創(ダイヤモンド・オンライン

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米国旗、中国旗
Photo:123RF

米国の「仮想敵国」の転換
対中関税第4弾と為替操作認定

 今や米国と中国との関係は「新冷戦」とされる。

 このところのトランプ大統領の中国に対する制裁関税第4弾実施の表明や「為替操作国」認定は、米国が中国を「仮想敵国」にした戦略を公然と展開し始めたかのようにもみえる。

 かつてソ連との冷戦に勝利し、さらに「経済大国」として台頭した日本の封じ込めに成功した米国だが、中国との「新冷戦」に勝つことができるのだろうか。

戦後、成功体験は
対ソ連と日本「封じ込め」

 前回(6月19日付け)の本コラム(「仮想敵国から普通の国に、日米関係の転換が『令和の新モデル』を作る」)で、筆者は平成と令和での日本が置かれた地政学的条件の大きな違いは、米国からみて日本が仮想敵国であった平成の時代に対し、令和は中国が仮想敵国に転じたことを書いた。

 戦後、米国が仮想敵国に勝利し成功体験を持ったのは、ソ連との冷戦と日本の封じ込めだった。

 以下の図表1は、過去40年に亘る米国大統領とそこでの仮想敵国、日米関係を示したものだ。

 第2次大戦後、米国は常に仮想敵国を想定した外交政策を行なった。その代表的存在はソ連であり、その後、1989年のベルリンの壁崩壊以降、1990年代にかけ一時的に日本が仮想敵国の立場に転じた。

 2000年代は2001年の同時多発テロ以降、北朝鮮」やイラクなどの「悪の枢軸」に移り、今や、トランプ政権になってその座が中国に移った。

 中国への対応も、対ソ連や1990年代の対日戦略を念頭においた戦略にある。

 ソ連との冷戦では、米国を中心にした西側陣営がNATOを通じてソ連に対峙し、1970年代後半以降は西側先進国がG7として緊密に連携したことが大きな勝因になった。

 経済面では、米国中心に、軍事技術や戦略物質の輸出を管理するCOCOM(対共産圏輸出統制委員会)を結成し、技術移転への封じ込めを行った。

 さらに、ソ連の経済力が世界最大の産油国として原油マネーに依存していた状況で、1980年代に、原油価格が急落したことも米国に有利に働いた。

 加えて、米国は90年代以降、自ら推し進めたグローバリゼーションのもとで、世界市場で大きな支配力を確保したことが勝因の1つだった。

「中国異質論」での
封じ込めは成功するのか

 日本の封じ込めでは、為替の円高で脅したことに加え、「日本異質論」を持ち出し、日米構造協議などで日本の閉鎖的な取引慣行などをあげ、「グローバルスタンダード」の名のもとに、市場開放や規制緩和などを求め、日本は体質転換を迫られた。

 さらに市場の圧力を通じてジャパンマネーの源泉になった資産パワーの封じ込めに成功した。

 それから30年、かつての旧ソ連や日本に対するやり方は、今日、中国に向けられた動きと類似する。中国のGDPは米国の60%を超え、すでに「ツキディデスの罠」として米国が強く意識する存在になった。

 90年前後の日本がハイテク半導体摩擦での脅威になったのと同様、中米はいまハイテク戦争の状況にある。注目されるのは「中国異質論」が声高に語られ、国有企業等の存在に焦点が当たっていることだ。

 その象徴が華為(ファーウェイ)に対する規制強化などの強硬策だ。

 90年代を通じて一貫して米国が行った対日封じ込め戦略の歴史を振り返れば、たとえ米国の政権が代わっても戦略は変わらず、「中国異質論」を論拠に中国のパワーの源となる経済構造にメスを入れるとみられる。

 同時に、グローバルな観点から「グローバルスタンダード」の受け入れを迫り、中国の経済構造の変革を求め続けると考えられる。

「米国第一」「取引」では限界
いずれ転換を迫られる

 ただし、中国との「新冷戦」は、対ソ連、対日本との場合に比べると、て大変に難しいものだろう。

 米国が中国との覇権争いで過去の冷戦時代などに比べて欠けるのは、対ソ連に対する時のようなNATO諸国での連携が一枚岩でないことだ。

 欧州のなかで、依然、中国との関係を重視する国は多い。しかも、トランプ政権は同盟国との関係は日本を除いて緊密とは言い難い。

 米国が中国封じ込めで勝利を収めるには、現在のトランプ流の「米国第一主義」では困難で、同盟国やグローバルな組織や制度を活用した大義が求められる。

 1970年代以降のG7の結束も弱体化し、国際政治の舞台は中国や新興国も含めたG20の場に多様化した。

 トランプ政権はTPP離脱やイラン核合意離脱に象徴されるように、マルチナショナルな組織での圧力よりも二国間での「ディール」を活用するやり方だ。

 しかし、今後、中国封じ込めの実効性を増すためには、マルチでの枠組みが不可欠だ。

 米中の覇権争いが、2020年の大統領選以降まで続く長期戦とすれば、米国の戦略は再びグローバルな協定や同盟国との関係を緊密化させる対応に舵を切る必要がある。

中国台頭の30年は
フロンティア拡大の30年

 米国が同盟国との関係重視などの必要性を認識すれば、米国の戦略に変化が生じることもあり得るだろう。

 一方でその場合には、本格的な「新冷戦」は固定化し、世界のレジームが米国―中国で分断され、企業の生産体制や貿易の流れが変わるリスクがあることに留意が必要だ。

 89年のベルリンの壁崩壊以降は、グローバルで経済のフロンティアが大幅に拡大する経済成長の30年だった。

 図表2は、ベルリンの壁崩壊以降の世界のフロンティア拡大を示す概念図だ。

 それまでの世界の経済活動は、西側(資本主義)の北(先進国)によるものだった。その象徴的なものが1970年代にできたG7のサミットだ。

 その後、89年のベルリンの壁崩壊以降、東西の壁が消失し、社会主義陣営も参入し経済活動が行われるようになった。さらに2000年代以降、「フラット化する世界」に象徴され、南の新興国(後進国)も同じ土俵での経済活動を行う時代になった。

 東西・南北の4象限に分断されていた「西の北」だけに限定された、G7中心の世界が、30年が経過し、4象限全部が活用される舞台へと広がった。その象徴がG20だ。

 89年からの30年間、図表で4象限を全部活用するフロンティア拡大が世界貿易を中心に経済活動を急速に拡大させ、金融市場の一体化が進んだことで金融のレバレッジも拡大した。

 その最大の恩恵を「世界の工場」として獲得したのが中国だったわけだが、そうした過去30年の潮流が変わる可能性がある。

「米中分断」の時代になれば
生産体制や世界貿易も変わる

 仮に「新冷戦」が固定化した時代にはどうなるのだろうか。

 それは、図表3にあるように、先の図表2で、4象限全体を活用したフロンティア拡大の潮流が転換し、米国陣営と中国陣営とにレジームが分断される恐れがある。

 世界は「新冷戦」のなか、米国陣営VS中国陣営の分断の世界になるのか、それとも単に世界が分断の混乱になるのか、の大きな分岐点にある。

 いずれにしても、平成の30年間の世界的な経済の拡張ペースに曲がり角が生じた可能性がある。

 中国中心にサプライチェーンを構築して「世界の工場」になった状況から、一転し、分散の流れが東南アジア中心に各地で生じやすい。

 その結果、世界貿易も節目を迎え、30年近く続いた急拡大の潮流は変わりグローバル化も減速する「スロートレード」の世界になる可能性がある。

(みずほ総合研究所チーフエコノミスト 高田 創)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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