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海で溺れず楽しむために「昭和のオヤジ」から教わった8つの知恵

2019年08月02日 06時00分更新

文● 木原洋美(ダイヤモンド・オンライン

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夏休みの海水浴は安全に楽しみたい
夏休みの海水浴は安全に楽しみたい(写真はイメージです) Photo:PIXTA

8月に入り、ようやく夏らしくなってきた。家族連れで海に遊びに行く人も多いだろう。かつては夏休みに家族で海水浴に行けば、安全対策や注意点について、父親から学んだものである。そのいくつかを紹介する。(ジャーナリスト 木原洋美)

子どもだけの海遊び
幼い兄弟は海底に沈んだ

 その日、トモキさん(仮名・当時8歳)は弟(当時5歳)と一緒に海水浴場にいた。平日で人影はまばら。大人の姿はない。「子どもだけで海で遊んではいけない」と学校でも家でも言い聞かせられていたが、そんなことを守る子どもなんかいなかった。

 波は沖合から海面を盛り上げるようにしてやってくる。さーっと波が引いて水深が浅くなり、つづいて一気に深くなる。水深が胸のあたりまできたところで海底を蹴って浮き上がり、波の山をやり過ごすと、数メートル浜寄りで波はくだけ、派手な音を立てるのだった。

 海面の高さがピークに達したときの浮遊感が面白く、兄弟は飽きることなく海に身を任せた。

 ふいに、それまでにないほど波が引いた。沖を見ると海面が倍ぐらいの高さに盛り上がって見える。土用波だ。浜に上がる余裕はないと判断したトモキさんは、弟を抱きかかえるようにして、沖に向かった。波がくだけるところにいたら巻き込まれ、もみくちゃにされたまま100mぐらいは沖に運ばれてしまうかもしれない。泳ぎが得意なトモキさんは無事でいられるだろう。しかし、弟は危ない。

 ギリギリ間に合い、水深が一気に増す、「浮かぶぞ」弟に声をかけたときだった。

「兄ちゃん怖いよ」

 怯えた弟がギューッとしがみついてきた。普段の弟からは想像できないほどの強烈な力で締め付けられ、両手の動きを封じられる。パニックに陥った人間の体は石のように重く、2人は水の底に沈んだ。

(まずい、死ぬかも)

 肺とほっぺたに空気をいっぱいに入れたまま上を見ると、海面まで5メートルはありそうで、とても遠く思えた。透き通った水越しに太陽が輝いている。

(父さんがよく言ってた通りだな。溺れる人間の傍にいるのはホントに危ないよ)

 弟をしがみつかせたまま、海底を浜に向かって必死に進んだ。突然水深が浅くなり、次に体が持ち上がり、浜辺に打ち上げられた。

(助かった)

 2人とも、海水を鼻や口からゲホゲホ吐き出す。

「兄ちゃん、怖かった」

「バカ、しがみつくなよ。死ぬかと思ったよ」

 トモキさんは現在50歳。40年以上も前の溺れかけた体験を、今でもはっきりと覚えている。

「昭和の子どもって、相当危ない遊び方をしていたと思いますね。自分の子どもには絶対、真似(まね)してほしくないです。僕らはみんなサバイバーなんじゃないかな。

 まあ、僕の場合は、昭和一桁生まれのオヤジの教えが随所で役に立ちました。海であれだけ遊んだのに生きているのはオヤジのお陰です」

溺れている人を
すぐに助けに行ってはいけない

 トモキさんの亡父は宮城県気仙沼市生まれ。2歳上の兄とともに川と海を遊び場にして育ち、その間に得た教訓を、ことあるごとに子どもたちに伝えていたという。時代が変わっても、夏になるたび、川や海では痛ましい事故が起きるが、トモキさんは、「オヤジの教え」が広まれば、助かる生命は増えるのではないかと感じている。

 この夏の海の安全を祈願して、そのいくつかを紹介する。

◎教え1
海水浴を楽しむなら、古式泳法を覚えるべきだ

 NHKの大河ドラマ「いだてん」では、アントワープオリンピックに古式泳法で出場し、クロールに惨敗した日本選手が、「日本も早急にクロールを習得しなければならない」と叫ぶ場面が印象的だった。

 その後、オリンピックに勝つためにクロール等の西洋式の泳法が普及し、古式泳法は廃れてしまったわけだが、「古式泳法はいいぞ」とオヤジさんは言い、トモキさんに「横泳ぎ」を教えてくれた。

「クロールは速く泳ぐための泳法だが、横泳ぎは、体力を使わずに長く泳ぎ続けるための泳法だ。水泳選手になる人間はごく一握り。海や川に落ちた時に助かるためとか、海水浴を楽しむためなら、絶対にクロールよりも横泳ぎをマスターした方が役に立つ。昔の武士はな、重たい甲冑をつけたまま泳いだらしいぞ。本当かどうかは分からないけどな。そんなこと、クロールではまず不可能だ。古式泳法はすごいんだ」

 しかも横泳ぎは簡単だ。

 体を横向きにして顔を水面に出し、胴体の下になる手は先へ伸ばしてもう片方の手は太ももへ伸ばし、水をすいーっとかく。同時に両足は水を挟み、歩くように動かす。顔を水につけないので、呼吸が楽だし、バシャバシャと水しぶきをあげることもなく、静かに泳げる。

 小学校のプールの時間、トモキさんが横泳ぎをして見せると、クラスメートは皆不思議そうに眺め、教師は「懐かしいな」と笑った。

 横泳ぎは確かに楽で、トモキさんは小学校2年生にして、1キロ以上も余裕で泳ぐことができた。お陰で1度、土用波にさらわれて沖合200メートルぐらいまで連れて行かれた際も落ち着いて泳ぎ、無事陸地にたどり着くことができた。

◎教え2
溺れている人をすぐに助けに行ってはいけない

 テレビでも映画でもよく、溺れている人を見ると即、主人公が水に飛び込んで救助する場面が登場するが「あんな危険なことはない。殺されるぞ。しがみつかれて動けなくなり、結局2人とも溺れることになる」と言い聞かされた。

 冒頭のエピソードでも述べたが、溺れている人が無我夢中でしがみつく力はまさに「火事場の馬鹿力」。子どもや女性であっても、信じられないくらいの強い力で自由を奪われてしまう。しかも、泳げない人の体は、泳げる人と違ってなぜか浮かない。

 溺れている最中の人には、たとえ大切な家族であっても近づくべきではない。それは自分だけでなく、お互いの生命をも危うくする。

◎教え3
溺れる者は藁(わら)をもつかむ

 では、溺れている人を救助するにはどうしたらいいのか。

「その時は、ロープか、何か浮くものを投げてやれ。海水浴場なら浮き輪があるだろう。なければペットボトルや板きれ。ビーチボール。空のランドセルでもいい。溺れる者は藁をもつかむから、必死にしがみついてくれるだろう。ひとまず落ち着いたら、後は陸地までひっぱってやれ。

 投げてやるものがなくて、周囲に協力してくれる人もいない場合は、かわいそうだが動かなくなるまで待って救出し、蘇生させること。そのために、人工呼吸と心臓マッサージは、子どもの頃から覚えておかなければならない」

◎教え4
褌(ふんどし)礼賛

 ちなみにオヤジさんは、スイムウェアと救助用品を兼ねて、海水浴時には「赤いふんどし(通称赤ふん)」を着用しており、浜の子どもたちの間では「赤ふんのおじちゃん」と呼ばれていた。

「赤ふんは便利だぞ、溺れている人がいたらすぐ、投げてやれるからな。俺はこれで、3人の生命を救ってやったことがある」が自慢だった(現在の男性が着用するのはかなりハードルが高いと思われるが…)。

◎教え5
鼻と口さえ沈まなければ死なない

 パニックというのは不思議なもので、たとえ泳ぎが得意な者でも、死の恐怖にさらされた瞬間、普段通りには体が動かなくなる。そんなとき、気持ちを落ち着かせて、窮地を脱することができるよう、次のように教えられた。

「足がつったり、疲れて泳げなくなったりしたら、体の力を抜いて上を見ろ。人間は体の2%ぐらいは自然と浮くようにできているらしい。鼻と口さえ水面に出ていれば呼吸ができるから死なない。生きていれば、必ず助かる道は開ける。諦めないで、浮いて待て」

 実際、体の力を抜き、上をむいて大の字になると、体はぷかりと浮く。かつて教わった方法を試みたトモキさんは、大海原に抱かれているような心地よさを感じ、危く昼寝しそうになったこともあるという。

幼児から目を離してはいけない
人は10センチあれば溺れる

◎教え6
海には「深み」しかない

 時折ニュースで「深みにはまって溺れた」という話が出てくるが、そのたびにオヤジさんは「海も川も深みがあるのがあたりまえ。油断するな」と言っていた。

「足がつくところでばかり泳いでいるから、足がつかないだけで慌てるんだ」というわけで、トモキさん兄弟は、足が絶対につかないところで泳ぎを覚えさせられた。

 ボートに小さなエンジンがついただけの小舟で湾の真ん中へ行き、泳いだ。最初は緊張し、怖かったが、慣れれば浜辺より泳ぎやすい。機会があったらぜひ、体験すべき練習法だと思う。

◎教え7
人は10センチあれば溺れる

 この教訓は、特に小さな子どもと遊ぶときに言われた。海でも川でも、自宅のビニールプールでも、倒れて顔を横に向けた場合、水深が10センチもあれば鼻も口も水面下となり、呼吸はできない。高齢者なども、具合が悪くなって倒れた場合、溺れる可能性がある。「だから決して目を離してはいけない」と、繰り返し教えられた。

◎教え8
渦の底は静かな楽園

 溺れない知恵を繰り返し教えてくれたオヤジさんだったが、それは海の面白さを味わうためのほんの基本。泳げるようになったらどんどん、「海中で遊べ」と言っていた。お勧めはなんと、渦の底(※現在の常識では、危険とされるのでお勧めしない)。

「渦の底は静かだし、誰もいかないから大きなアワビとかが採り放題(※今は昔と違って漁業権の問題が厳しい場所が多いのでNG)だ。大きな石を抱いて潜って、アワビを採って、石を置いて浮上する。楽しいぞ」

 残念ながらトモキさんは、渦の下には潜ったことはない。だが素潜りは大好きで、ゴーグルや水中眼鏡をつけて水中に入ると、海面からは想像もつかないほど美しい世界が広がっていることは知っている。

 ◇

 海水浴は、海遊びの入門編。プールでは絶対に味わえない、単に海面に浮かんで移動しているだけでは分からない楽しさが、海にはたくさんある。「昭和オヤジ」の知恵を参考に溺れないコツを学んだら、次はぜひ、海面下の遊びを体験してほしい。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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