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京アニ放火殺人事件、浮かんできた「小説の存在」と「犯行前の足取り」

2019年07月31日 11時55分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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放火された「京都アニメーション」第1スタジオの前で涙ぐむ女性ら=25日、京都市伏見区
放火された「京都アニメーション」第1スタジオの前で涙ぐむ女性ら=7月25日、京都市伏見区 Photo:JIJI

京都市伏見区のアニメ制作会社「京都アニメーション」第1スタジオで35人が死亡した放火殺人事件は発生から13日を過ぎたが、重度のやけどを負ったさいたま市見沼区大和田町1丁目、青葉真司容疑者(41)=殺人容疑などで逮捕状=は依然として重篤な症状で、京都府警は事情聴取などを実施できていない。前代未聞の惨劇を引き起こした動機は、いったい何なのか。身柄を確保された際、青葉容疑者は警察官に「小説を盗まれたからやった」と話したとされるが、具体的に何のことを指しているのかは不明のままだ。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

容疑者と同姓同名・同一住所の小説応募

 京アニの代理人弁護士は7月30日、同社が募集している小説などを調べたところ、青葉容疑者と同姓同名の人物が応募していたことが確認されたと明らかにした。住所も一致したという。

 同社はプロ、アマチュア、年齢を問わず広く一般から小説などの作品を募集する「京都アニメーション大賞」を毎年開催。大賞作品はアニメ化され、文庫本としても出版される。これまで同社は社内の記録に青葉容疑者の名前は残っていないと説明し、応募は確認できないとしていた。

 しかし1次審査を通過せず、社内で青葉容疑者と同姓同名の人物が応募した作品の存在は認識されていなかったとみられる。

 代理人弁護士は「応募した人物が青葉容疑者かどうかは確定していない」とし、時期や内容は明らかにしなかった。ただ内容を確認したところ、同社が手掛けた作品と似たような表現はなかったという。

 京都府警の家宅捜索で、青葉容疑者の自宅から大量の原稿用紙を押収したが、すべて白紙だった。

 府警は同社から情報提供を受けており、何かしらの一方的な思い込みで同社に恨みを募らせた可能性もあるとみて関連を調べている。

 また同社のホームページには昨年9〜11月、特定の個人に対する殺害予告があったほか、「コンサートを中止しろ」「新作アニメの制作を中止しろ」などの脅迫も多数あり、府警に被害届を提出。府警は威力業務妨害容疑で捜査しているが、青葉容疑者との関連は現時点では不明だ。

強盗の前科、近隣住民とトラブル

 青葉容疑者とはどんな人物なのか。

 全国紙社会部デスクによると、青葉容疑者は小学校から高校までさいたま市で過ごし、父親と兄、妹と4人で暮らしていた。

 小学時代は活発で友人も多く、柔道教室にも通っていた。しかし、中学になると登校しなくなり、担任や同級生らもほとんど記憶がないという。高校は埼玉県立の定時制に通いながら、県の非常勤職員として書類の仕分けや集配をしていた。

 20代の頃は同県春日部市のアパートで生活。コンビニなどで働いていたとされるが、5万円前後の家賃を滞納することもあり、生活は楽ではなかったとみられる。

 30代になり、リーマンショックのあおりで派遣社員としての契約が打ち切られて住む場所を失い、ハローワークのあっせんで茨城県常総市の雇用促進住宅の入居を申請。家賃約3万円の3DKに住んでいたが、家賃はほとんど支払っていなかった。

 2012年6月にコンビニ強盗で逮捕されたが、住宅内部は汚れた食器が台所に山積みにされ、衣類やインスタント食品などの容器が散乱。壁には穴が開き、粉砕されたノートパソコンとハンマーが置いてあったという。

 荒んだ生活がうかがえるが、強盗事件の公判では「仕事で理不尽な扱いを受け、社会で暮らすことに嫌気がさした」などと動機を述べていた。

 懲役3年6月の判決を受けて服役し、16年1月に刑務所を出所した後は精神障害があったため、福祉サービスを受けられるように国が支援する「特別調整」の対象になっており、約半年間、更生保護施設に身を置いていた。

 京アニ事件の直前まではさいたま市見沼区のワンルームのアパートに住んでいたが、騒音を巡って近所の住民と頻繁にトラブルになっており、警察官が駆けつけることもあったという。

 まとまった収入はなく、生活保護を受給していたとされる。

 府警が家宅捜索したところ、アパートからは前述の原稿用紙のほか、京アニ関連の書籍やグッズが大量に発見された。

用意周到な計画的犯行

 青葉容疑者は銀行口座から10万円近くを引き出し、15日に新幹線で京都に入った。15、16の両日は京都市のホテルに宿泊。宿泊カードには本名と連絡先などを記載し、現金で支払っていた。

 そして15日から事件前日の17日まで、同社が制作した「響け!ユーフォニアム」の舞台である京都府宇治市のJR宇治駅や宇治川周辺を「聖地巡礼」したり、宇治市や京都市にある同社の関連施設周辺を歩き回ったりする姿が防犯カメラに写っていた。

 16日には京都市のインターネットカフェを約2時間利用。17日には宇治駅近くのホームセンターで20リットル用ガソリン携行缶2個とバケツ2個、台車などを約1万円で購入。事件当日の18日、ガソリン40リットルを約5000円で購入していた。

 17日午後から事件があった18日午前までは、スタジオから南西約500メートルにある公園のベンチで寝ている青葉容疑者に似た男の姿を近くの住民が目撃しており、ここで野宿をしたとみられる。

 そして事件は起きた。

 青葉容疑者はスタジオ1階にガソリン約10リットルをまいて多目的ライターで放火し、35人を殺害、33人に重軽傷を負わせたとされる。

 犠牲者は20〜60代の社員で、半数が20〜30代。司法解剖の結果、死因は焼死26人、一酸化炭素中毒死4人、窒息死2人、全身やけど2人、不詳1人。

 遺体の損傷が激しく身元の特定は難航したが、DNA鑑定で全員分が判明。府警は遺族感情に配慮し、身元をどのような形で公表するか慎重に検討している。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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