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京アニ放火事件で関心高まる「防火設備」、学ぶべき教訓は何か

2019年07月22日 06時00分更新

文● 土屋輝之(ダイヤモンド・オンライン

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爆発火災が起きた京都アニメーション
ガソリンを撒かれるという事態はそうそう起きるものではないが、火災自体はどこででも起きる可能性がある。これを機にマンションや会社の防火態勢について、じっくり考えたい Photo:JIJI

34人が死亡、34人が重軽傷という大惨事になった京都アニメーション放火事件。3階建てのビルが丸ごと焼けるという事態に、驚いた人も多いはずだ。京アニの建物の状況がどうだったのかは今後の検証を待たねばならないが、この未曾有の大火災からオフィスビルやマンションが学ぶべき教訓を考えてみよう。(さくら事務所マンション管理コンサルタント 土屋輝之)

ホテルニュージャパン火災を
超える死者が出てしまった

 3階建てのビルが全焼した京アニ。34人もの死者を出すというのは、未曾有の大火事といっていい。過去、とりわけ規模が大きい火災が起きると、それを契機に消防法を見直す、という流れになってきた。例えば死者118人を出した1972年の大阪・千日デパート火災。1982年の東京・ホテルニュージャパン火災(死者33人)、さらに2001年の新宿・歌舞伎町ビル火災(同44人)などだ。

 死者100人を超える千日デパート火災は別格としても、今回の京アニは、ホテルニュージャパン火災を超える死者が出てしまった。

 もちろん、犯人がガソリンを撒いて火をつけるという暴挙に出たわけだから、通常の火災とは訳が違う。おそらく爆風が事務所内を駆け巡り、通常の火災以上に、中にいた人たちはパニックに陥ったはずだ。

 しかし、この特殊要因を考慮に入れても、鉄筋コンクリートの建物で各フロアがあれほどの勢いで全焼するというのは、かなり考えにくい。本稿執筆時点(7月19日)での情報を見る限り、その一番大きな理由は、すでに多くのメディアで指摘されているように、1階から3階までを貫く、らせん階段があったこと、そして「区画」されていなかったため、と考えられる。

 オフィスビルであれマンションであれ、防火シャッターや防火扉によってスペースを区切り、火の手が急激に広がらないような対策をするが、具体的な基準は「建物の用途」や「床面積」によって異なる。

 オフィスビルの場合、不特定多数の人が訪れる場所ではなく社員たちは建物の中をよく知っているから、避難にはさほど手間取らないと考えられる。かつ、危険物を扱うような業務内容ではないだろうし、ごく小規模なビルである。これらを考えると、緩めの基準が適用されたはずで、吹き抜けた形状のらせん階段もOKが出たのだろう。もしもっと大きなビルであったり、用途が異なる場合であれば、こうした形状のらせん階段はNGだった可能性が高い。

 そして、らせん階段部分に防火扉や防火シャッターがあって区画されていればまだしも、それがなかったとなると、らせん階段が炎や爆風の通り道となって、建物の内部全体があっという間に炎と煙に包まれても不思議ではない。

避難階段から屋上に
出られなかったのはなぜか?

 らせん階段や吹き抜けは開放感を演出できるので、戸建住宅でも多く設置されているが、各フロアが区画されず、連続性のある構造というのは、火の手が回るのも、煙が充満するのも極めて早い。防火の観点からは、かなり危険だといえるのだ。

 もちろん、条件さえ満たしていれば、区画されないらせん階段を設置することは法令で認められている。しかし、「法令で認められているから絶対に安心」ではないのだ。ここに防火の難しさがある。

 次に気になるのは、らせん階段とは別に屋上につながる階段が建物内にあったにもかかわらず、屋上に抜けるドアから外に出られなかったこと。各フロア別の死者数を見ると、19人とダントツで多いのは、3階から屋上に抜けるドア前の階段スペースだった。このドアが開かなかった理由は定かではないが、内部からカギが開くようにしていなければならないはずの場所だ。

 そして、この階段は防火扉で区画されていたのか、もしそうなら防火区画として適切に機能していたか、今後検証すべきだろう。というのも、せっかく防火扉などが設置されているのに、扉の前にモノを置いているなどで正常に作動せず、大火災になった例が後を絶たないからだ。2013年に起きた福岡市整形外科医院火災(死者10人)でも、防火扉が閉まらないようにロープで固定されるなどして、作動しなかったことが明らかになった。

 同じく、過去の火災事例では、せっかくの避難通路なのに、可燃性のモノを置いていたばかりに火の手が回ってしまい、逃げられなかったというケースも散見される。

一般家庭や会社では
何に注意すべきか?

 このような痛ましい大火災が起きると、自宅マンションや会社の防火態勢がどうなっているのか、気になる人は少なくないはずだ。

 そこで、3つのことをご提案したい。

 まずは日々の点検。これは建物の防火管理者を中心に行うものだが、避難経路や防火扉・防火シャッター前にモノを置いていないかをチェックするのだ。

 前述したように、ここにモノが置いてあるばかりに防火扉が作動しなかったり、避難経路に可燃物が置いてあって火が燃え広がり、避難できなかった、という悲劇は繰り返されている。

 そもそも防火扉や防火シャッターがどこに設置してあるのか、無頓着な人も多いはず。デパートなどでは、防火シャッターの下のスペースは赤いビニールテープなどで囲ってあったりする。「ここにモノを置くな」と注意を促すためである。防火管理者のみならず、社員や住人全員が、こうした意識を共有すべきである。

 そして半年ごとの点検。これは、消防法など、法令に基づく設備の点検であり、必須であるのはいうまでもない。

 さらに年に1度の避難訓練。避難経路を自分の目で確かめ、実際に通ってみたり、防火扉、防火シャッターの場所を確認するいい機会である。また、建物の防火システムがどのように作動するか、皆さんはご存じだろうか?

 例えば、あるマンションでは、あるフロアで火災が起きた場合、火災報知機が鳴るのはそのフロアと、1つ上のフロアのみ。そしてエレベーターは避難階で停止し、エントランスの自動ドアは開かなくなる、という仕組みとなっている。これは外部から入ってくる人を食い止めるためで、住民は非常用出口(誘導灯で表示されている)から外に出られる。

 こういう仕組みを知らないまま火事に遭遇した場合、エレベーターが止まったとパニックになった挙句、避難階段で転んで怪我をする、というような事態になりかねない。火災など災害時には、誰もが慌てて正常な判断が難しくなる。だからこそ、避難訓練で非常時のシミュレーションをすることはとても大切なのだ。

隣戸に逃げる経路は
確保できているか?

 また、マンションでは、非常時にはベランダに出て、隣戸との仕切りの板(「隔て板」と呼ぶ)を蹴破るなどして逃げるという避難経路が設定されているが、実はこの隔て板、意外と硬くて、非力な女性や高齢者、子どもの力では容易に蹴破れないことをご存じだろうか?

 ぜひ、避難訓練の際には、隔て板を蹴破ってみる機会も設けて、実際にどれくらい硬いかを、住民の皆さんで確かめていただきたい。最近では、蹴破るタイプではなく、レバーを回して板を外せるタイプも発売されている。大規模修繕に合わせて隔て板を交換するのも手だろう。

 そして最後に煙対策。いざ火災に遭遇した場合、焼かれる以前に煙を吸い込んでしまい、一酸化炭素中毒で亡くなる方が少なくない。火災現場でもうもうと立ち上がる黒い煙で、人間はわずか1〜2分で簡単に意識を失い、死に至る。

 もし不幸にしてそんな現場に遭遇してしまった場合には、ぜひビニール袋を口にあてて、袋の中で呼吸していただきたい。これで数分間は持ちこたえられるから、逃げるための時間稼ぎに有効だ。私は不測の事態に備えて、いつも財布の中にビニール袋を折りたたんで持ち歩いている。

 京アニのケースのように、ガソリンを撒かれるという事態は、そうそう起きるものではない。しかし、火災の危険性はどんな建物でも少なからずある。「あのケースは特殊だった」で終わらせず、この事件から得るべき教訓を得ていただきたいと願う。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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