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ソフトバンク傘下で噴出した「利益相反」、ヤフーとアスクル対立の行方

2019年07月22日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,村井令二(ダイヤモンド・オンライン

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ヤフーとアスクルの対立の本質は、ソフトバンクグループの「孫」と「ひ孫」にあたる2つの上場会社で発生した利益相反だ。持ち株会社への移行で事業再編を控えるヤフーは、これにどう向き合うか。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

ヤフーは資本の力でアスクルを追い詰める Photo by Reiji Murai

データビジネスで鍵握る
アスクルのEコマース

 「アスクルの成長事業が乗っ取られる」――。

 ヤフーの連結子会社で通販大手のアスクルの岩田彰一郎社長は7月18日の記者会見で危機感を露わにした。2012年にヤフーと共同で立ち上げた電子商取引(Eコマース、EC)サイト「ロハコ」。その成長事業をヤフーに奪われることを警戒したのである。

 ソフトバンク子会社のヤフーには、今年10月に持ち株会社「Zホールディングス」に移行し、事業会社のヤフーとアスクルをその傘下に収める計画がある。ソフトバンクとの合弁会社ペイペイもぶら下げて、決済とEコマースを組み合わせたビッグデータビジネスを実現することを図るものだ。

 背景にあるのは、ソフトバンクグループ社長の孫正義氏が出資した中国アリババの成功体験。アリババモデルを日本で再現するなら、ヤフーが持つネット上のサービスだけではEコマースを発展させるのは難しい。そこで、リアルな物流ネットワークを持つ個人向けECのロハコは重要なパーツになり得る。

 だが、ヤフーがロハコを取り込むことは「ソフトバンクグループにとって良いかもしれないが、アスクルの少数株主の利益にはならない」と岩田社長。“乗っ取り“という過激な表現を持ち出してまで、上場子会社のアスクルは、その親会社のヤフーとの利益相反が発生している現状を訴えた。

ロハコ切り離しは第2位株主が提案
総会で岩田社長の再任否決は必至に

 ヤフーが、アスクルにロハコ事業の譲渡の検討を要請したのは今年1月15日。アスクルにすれば、「宝」のロハコを譲るなど受け入れがたかった。

アスクルの個人向けEC「ロハコ」。法人向け通販で培った自前の物流網を活用していく Photo by Reiji Murai

 アスクルは、文具の通販で培った企業向けの物流ネットワークを個人向けECのロハコでも活用し、相乗効果を引き出すことを基本戦略としていた。アマゾンに対抗せず、物量を追わない戦略を策定したばかり。そのロハコを切り離すことはあり得えず、ヤフーの要請を2月26日付で正式に断った。

 このときすでに、ヤフーとアスクルが12年の提携当時に結んだ「イコールパートナー」の関係は破綻していた。ヤフーの川辺健太郎社長は6月27日に東京・江東区のアスクルを訪問し、筆頭株主として岩田社長に退陣を要求。両社の亀裂は決定的なものになった。

 退陣を要求した場で川辺ヤフー社長は岩田社長に対し「第2位株主のプラスさんも同調しているので、過半数が否決です。きれいに身を引いたらいかがですか」と迫ったという。事務用品大手のプラス(東京都港区)は、アスクルの第2位株主。そこからスピンアウトしたのがアスクルで、生みの親でもある。

 プラスがなぜ、岩田社長の再任に反対するのか。岩田社長はプラスの今泉公二社長に真意を確かめた。ロハコの譲渡を提案したのはなんと、今泉社長自身だったという。

 「赤字のロハコを切り離せば、保有するアスクルの株価は上昇する」。それが今泉社長の持論だった。

 8月2日のアスクルの株主総会で約45%の株式を保有するヤフーと11%強の株を持つプラスの2社が共同歩調をとる方針で、岩田社長の退任は避けられなくなった。すでにヤフーは、アスクルが申し入れた資本・業務提携の解消の協議を拒否している。アスクルの株主総会を待って粛々と議決権を行使し、岩田社長の“解任”を実行する方針だ。

後継社長は内部昇格か
それでも解けない警戒

 もはや“勝負あった”に見えるが、アスクル側の不満は収まらない。岩田社長が捨て身の記者会見で訴えた2つの上場会社の間の利益相反の問題はくすぶり続け、同社長解任後のヤフーとアスクルの関係に火種を残しそうだ。

退任が必至のアクスルの岩田社長が訴えたのは「上場会社の利益相反」。記者会見には、後継候補の吉田・吉岡の両最高執行責任者(COO)も並んだ Photo by Reiji Murai

 岩田社長の「乗っ取り」発言に対し、ヤフーは「ロハコ事業の譲渡を申し入れる方針はない」と同事業の切り離しを否定している。ロハコの切り離しが持論のプラスと足並みを揃えて岩田社長の再任に反対するものの、「ロハコはアスクルが運営するのが最良」との判断に傾いた。

 ヤフーは、岩田社長の再任に反対するものの「新社長を派遣する考えはない」との方針も表明した。新社長は、アスクルの新しい取締役会が決めればよいとの立場で、最高執行責任者(COO)を共に務める現取締役の吉田仁氏、吉岡晃氏のいずれかが昇格することになりそうだ。

 いずれも岩田社長の記者会見に反応したコメントで、ヤフーとしては、事業も会社も“乗っ取る”考えはない、との立場を慌てて表明した格好だ。

 もっとも、アスクルが反発しているのは、同社の社外取締役らで構成する指名・報酬委員会の取締役選任案を覆して、ヤフーが社長に退任を迫ったことにある。「上場企業の独立性とガバナンスを踏みにじった」というアスクルからの批判に対し、ヤフーは答えを示していない。このままでは仮に次の社長がアスクル内部から昇格しても、いつでも資本の力で解任できるというフリーハンドを与えたに等しい。

 ヤフーによる社長退陣要求でアスクルが最も問題視しているのは、ヤフーとアスクルの資本・業務提携の契約に違反している疑いがあることだ。契約には、「アスクルとロハコの独立性を担保する」との条文があり、アスクルの取締役選任は同社の指名・報酬委員会の決定を尊重すると明記されている。この契約に著しい違反があった場合は、ヤフーの保有株の買い戻し請求をする権利があり、アスクルは最後の手段として、この権利行使を検討していることを明らかにしている。

 つまり、岩田社長だけを“切った”としても、内部昇格した後継者が資本提携解消の方針を継続すれば両社の対立は終わらない。ヤフーの社長交代要求が契約違反に該当するかどうかは法廷闘争にもつれ込む可能性があり、そうなれば対立は長期化する。

「ひ孫」の悲鳴で表面化した
ソフトバンクグループ内部の利益相反

 ヤフーにとって、アスクルの猛反発は想定外だった。岩田社長が訴えたように、この対立の本質は二つの上場会社の利益相反にありそうだ。資本の力で強引に対立関係を解決しようとするヤフーをアスクルが「乗っ取り」という過激な表現で痛烈に批判し、問題が表面化した格好だ。

 ヤフーは8月2日のアスクル株主総会で、岩田社長の再任に反対し、4人の社内取締役の再任には賛成する方針だ。5人の社外取締役の再任については「賛否を決めていない」(広報)として、取締役会の過半をヤフーが握る可能性を示唆している。

 ヤフーが株主総会当日に修正動議を出して、会社提案の社外取締役候補に代わる役員を送り込めば、アスクルが叫ぶ利益相反の主張を資本の力で封じ込めることは可能だ。ヤフーとアスクルの提携契約には、ヤフーが株式を買い増しできない規約があるが、取締役会の過半を押さえてこの規約を見直せば、アスクル株のTOB(株式公開買い付け)によって非公開化する選択肢も生まれる。

 社長の首をすげ替えるだけでは利益相反は解決されそうもないが、資本の論理を突き詰めれば、最終的には株式の非公開化、つまり上場廃止が選択肢に浮上する。ソフトバンクグループにとって、ソフトバンクは子会社、ヤフーは孫会社、ヤフーの連結子会社であるアクスルは「ひ孫」会社であり、それぞれが上場している。ヤフーはアクスル株の上場廃止にまで踏み切るか。それとも、アスクルの申し入れに応じて保有株を手放すか。

 持ち株会社への移行を進めるヤフーには、グループ内部で発生した利益相反問題が立ちはだかっており、その問題から目を背けることはできない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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