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アサヒ、豪ビール事業を1.2兆円もの巨額買収に踏み切る「勝算」

2019年07月20日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,重石岳史(ダイヤモンド・オンライン

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アサヒビール本社
浅草の本社から「スーパードライ」の世界展開を進めるアサヒグループホールディングス Photo by Takeshi Shigeishi

国内ビール最大手のアサヒグループホールディングスが19日、ベルギーのアンハイザー・ブッシュ・インベブから豪州のビール事業を約1兆2100億円で買収すると発表した。改善傾向にあった財務体質を毀損してまで、彼らが巨額買収に踏み切った理由は何か。(ダイヤモンド編集部 重石岳史)

「ビール市場世界戦略のピースが揃った」

 「プレミアムビール市場でプレゼンスを高めていく世界戦略を進める上で、ようやくピースが揃ったということだ」――。

 19日、豪州ビール最大手のカールトン&ユナイテッドブリュワリーズ(CUB)買収を発表したアサヒグループホールディングスの幹部は、こう打ち明ける。

 CUBは、親会社でビール世界最大手アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ベルギー)の豪州事業だ。アサヒは同日、インベブと株式売買契約を結び、約1兆2100億円を支払うことで合意。インベブからは16年に西欧ビール事業を約3000億円で、17年に東欧ビール事業を約8900億円で買収しているが、今回はそれらを上回る過去最大の巨額投資となる。

 欧州でのM&Aでアサヒが手に入れたのは、イタリアの「ペローニ」やチェコの「ピルスナーウルケル」といった高級ビールブランドである。

 これらに「スーパードライ」を合わせて世界展開する“プレミアム戦略”がアサヒの基本戦略だ。今回の買収により、アサヒは豪州ビール市場のトップブランドである「カールトン」や同国販路を押さえることになる。

 関係者によれば、アサヒは「基本的にはビール事業で買えるものがあればとりあえず検討する」のがスタンスだという。実際、世界中から数多の案件が持ち込まれ、水面下で検討を続けていた模様だ。そうした中でなぜ、彼らは豪州を選んだのか。 

 本来、狙うべきは世界最大市場の米国だろう。だが、インベブや米モルソン・クアーズといった世界大手に流通網を押さえられ、今から外資が参入する余地は少ない。

 新興国では一筋縄ではいかない政府系や財閥系のビール会社が多く、インドやアフリカまで兵站をのばす余裕もない。

 またアサヒは09年に中国で青島ビールの株式を取得したが、18年に売却。想定した相乗効果を得られなかったことが原因で、中国市場では自立成長の戦略に転換している。

 そうした中、アサヒがこの10年間にわたって足場を築いてきたのが豪州だ。

 09年に炭酸飲料のシュウェップス・オーストラリアを約770億円で買収し、スーパードライの現地生産も行っている。日本に近い“欧米国家”の豪州は移民の流入で人口が増加しており、ビール消費量も安定的だ。冒頭の幹部は「長年にわたる市場への知見もあり、リスクは非常に少ない」と自信を見せる。

 装置産業であるビール事業は、収益の見通しも立てやすい。今回の買収により、アサヒはEBITDA(金利・税支払い前、固定資産の償却費控除前の利益)で1000億円規模の欧州と豪州、さらに2000億円規模の日本という「3極体制」を確立したことになる。

財務体質悪化も「チャンスを逃せば次はない」

 一方、今回の巨額買収により懸念されるのは財務体質の悪化だ。

 欧州事業の買収後、アサヒの有利子負債/EBITDAは17年に4倍を超えていたが、債務削減を進めて18年には3.1倍に改善した。

 だが、今回の買収により再び4倍を上回り、自己資本比率なども悪化する。そのため、株式などを使って資金調達手法を分散化し、金利コストのリスク低減を図る。

 アサヒが改善傾向にあった財務状態を再び毀損してまで、今回の買収に踏み切った背景には、「チャンスを逃せば次はない」(幹部)という強い意志がうかがえる。

 日本国内のビール市場は縮小を続けるジリ貧状態にあり、世界の市場も大手による寡占化が進む。アサヒが打った一手に、日本のビール会社の海外M&Aが再び加熱する可能性もある。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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