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企業ネットワーク全体の運用自動化やユーザー体験改善を図る「AIドリブンエンタープライズ」

ジュニパー、ミストシステムズ買収による“AIドリブン”戦略を説明

2019年07月22日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 ジュニパーネットワークスは2019年7月19日、4月に買収を完了したクラウド管理型Wi-Fi製品ベンダーのミストシステムズ(Mist Systems)CEOが出席し、今後の事業戦略に関する記者説明会を開催した。ミストが提唱してきた「AIドリブンエンタープライズ」ビジョンにジュニパー製品も連携させることで、企業ネットワークにおいてエンドトゥエンドのユーザーエクスペリエンス最適化を実現していく方針だという。

ジュニパーネットワークス 技術統括本部長の加藤浩明氏ミストシステムズ 共同創設者 社長兼CEOのスジャイ・ハジェラ(Sujai Hajela)氏

「これからのネットワークにAI適用は不可欠」ジュニパーとビジョンが合致

 ミストシステムズは2014年に創業した、クラウド管理型無線ネットワーク製品のスタートアップだ。ジュニパー 技術統括本部長の加藤氏は、同社がミストを買収した理由、狙いは2つあると説明する。1つは「エンドトゥエンドの製品ポートフォリオ拡充」だ。ミストの買収とクラウド管理型Wi-Fi製品のポートフォリオ統合により、これまで“空白”となっていたWi-Fi製品分野を埋めることができる。

 ただしそれだけではないと加藤氏は強調する。もうひとつの、より大きな狙いが「IT(ネットワーク)におけるAIの活用」だ。

 ミストでは創業当初から「AIドリブンエンタープライズ」のビジョンを掲げ、製品から収集した詳細なテレメトリデータ(稼働状態データ)と機械学習モデルを活用して、エンドユーザー体験(UX)の可視化や運用管理の自動化/省力化などを推し進めてきた。ミストの共同創設者であり社長兼CEOを務めるハジェラ氏は、こうしたビジョンを持つに至った理由を次のように説明する。

 「これから10年間のネットワーク設計を考えたときに、AIの重要性は増している。その理由はシンプルだ。ネットワークのコア技術はもう10~15年ほど変化がなく、他方でIT/ネットワークを運用する人員数も横ばい、あるいは減少傾向にある。しかし、ネットワークにつながるデバイス、アプリケーション、そしてユーザーの数は急激に増えている。そうした状況下でネットワークを健全に機能させ続けるためには、AIの力が不可欠なのだ」(ハジェラ氏)

 こうしたビジョンが、製品技術を通じてネットワーク運用管理のシンプル化と自動化を推進したいジュニパーの方向性と合致したと、加藤氏は説明する。ジュニパーではこれまでも“Engineering Simplicity”というテーマを掲げており、“オープンなDNA”を持つJunos OSのAPIを利用した自動化ツールなどを提供してきた。ネットワーク機器の詳細なテレメトリデータ(稼働状態データ)も、標準インタフェース(JTI:Junos Telemetry Interface)を介して取得可能だ。

 こうしたミスト、ジュニパー両社の技術を連携させることで、Wi-Fiのみならずエンタープライズネットワーク全体へAI適用範囲を拡大していく戦略だ。加藤氏は、AI技術を適用することにより、ネットワーク状況の詳細かつリアルタイムな「可視化」、深いインサイト(洞察)や異常、予兆の「把握」、さらに診断/修正といった運用管理作業の「自動化」という3つのメリットが実現すると説明する。

“AIがドライブするネットワーク”というビジョンで両社は合致した

「つながる」だけでは不十分、ユーザーエクスペリエンスに注力

 ハジェラ氏は、ダッシュボードのデモを示しながら、ミストが提供する無線ネットワーク技術は「エンドユーザーのエクスペリエンス改善」という点に主眼を置いていることを説明した。

 エンタープライズのネットワークでは、もはやデバイスが「つながる」だけでは「良い」とは言えなくなっているとハジェラ氏は強調する。たとえ接続できても通信が安定しなかったり、パフォーマンスが悪かったりすれば、ユーザー体験としては落第点でしかないからだ。

 「しかしこれまでのネットワーク運用管理ツールを見ると、そこで表示されるのはネットワーク装置が稼働しているかどうか、デバイスが接続されているかどうかだけだ。肝心のユーザー体験についてはまったく把握できていない」(ハジェラ氏)

 そこでミストがゼロからデザインしたのが、Wi-Fi環境のユーザー体験をエンドトゥエンドで把握できる新しい仕組みだ。すべてのアクセスポイントから詳細なテレメトリデータを収集することで、「デバイスの接続性」「ローミング」「スループット」「カバレッジ」といった“Wi-Fi環境の健全性”をリアルタイムに可視化する。さらにはこれらのデータに機械学習技術を適用することで、特にどのデバイスやユーザーが大きな影響を受けているか(快適に利用できていないか)も判断可能にする。

MistのWi-Fi管理ダッシュボード。「接続までにかかる時間」「接続の成功率」「ローミング」「スループット」など、ユーザー体験に影響を与えるのデータも可視化されている
機械学習の適用で、たとえば「とりわけ接続に時間のかかっているデバイス」など影響の多いユーザーも自動的にピックアップできる

 もうひとつ特徴的な機能として紹介したのが、ネットワーク運用を支援するバーチャルアシスタントの「MARVIS(マーヴィス)」だ。MARVISに自然言語(英語)で質問すると、質問内容を理解してクエリ言語に変換したうえで、該当する情報や障害原因調査のアドバイスなどを返してくれるという。

 デモでは、MARVISを使って接続障害のトラブルシュートを行う様子が披露された。MARVISは、過去のデータから障害原因を分析して切り分け、さらに原因調査の手順やさまざまなデータも可視化して表示した。

バーチャルアシスタント「MARVIS」を使ったトラブルシュートのデモ。原因の切り分けや調査手順のガイダンス、情報提供などを自動的に行う

 そして前述したとおり、今後はこの“AIドリブンエンタープライズ”の適用範囲を、Wi-Fi環境だけでなく有線ネットワークやWAN、さらにセキュリティまで拡大していく戦略だとハジェラ氏は説明した。

 「すでに幅広いネットワーク製品のポートフォリオを持つジュニパーと一緒になったことで、AIドリブンエンタープライズの取り組みを加速できるようになった」(ハジェラ氏)

ミスト+ジュニパーの「AIドリブンエンタープライズ」ビジョン。可視性とポリシーベースの管理を企業ネットワーク全体に拡大していく

「AI for AX」内蔵のWi-Fi 6 AP、AIベースの“事前対応型サポート”など

 説明会では6月に国内発表された新製品、新サービスも紹介された。これらの製品/サービスは今年第4四半期(10~12月期)からの提供予定だ。

 まずはWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応の新しいアクセスポイント「Mist AP43」だ。クラウド型の運用管理やBLE対応、センサー内蔵といった従来モデル同様の特徴があるが、特に強調されたのは「AI for AX」というAP内蔵の技術だ。RF(無線電波)制御周りにAI技術を適用することで、Wi-Fi 6特有の複雑さを排除し、そのポテンシャルを最大限に引き出すものだという。

 「新しい標準(Wi-Fi 6)で技術的な複雑さが増し、ネットワーク部門におけるプランニングの難易度が上がった。人間の力でプランニングしようとしても、11axのポテンシャルをフルに発揮させることは難しい。AI for AXは、AIでRF周りの調整を自動的に行う支援機能だ」(ハジェラ氏)

Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応の新しいアクセスポイント「Mist AP43」

 2つめの新製品は、ミストがクラウドで提供しているマイクロサービスをオンプレミスにも拡張(配置)できる「Mist Edge」だ。現在のところ、拠点間をセキュアに接続するトンネルの終端機能を提供するサービスが用意されており、今後さらに幅広いマイクロサービスをラインアップしていく予定としている。

 もうひとつが「AI駆動型サポート」だ。テレメトリデータがリアルタイムにクラウド収集され、機械学習に基づいて異常な動作を検知できる仕組みを生かした“事前対応型”のサポートサービスになるとハジェラ氏は説明する。ミスト側で先に問題を発見してユーザーに連絡したり、ユーザーがチケットを作成するとミストのAIがトラブルシュートに必要なデータを自動収集したりする機能を備え、問題を短時間で(あるいは発生前に)解決することができるようになるという。

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