このページの本文へ

「出版先進国」日本で国際ブックフェアが再開されない不思議

2019年07月18日 06時00分更新

文● まつい きみこ(ダイヤモンド・オンライン

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

日本国内で最大規模の本の総合展示会「東京国際ブックフェア」が消えて3年。当初は休止といわれていたが、主催のリード社が2018年に事業を撤退し、同展の開催は事実上不可能になっている。国際ブックフェアは、出版文化の成熟度を象徴するイベントでもある。だが出版大国と世界的に認知される日本で国際ブックフェアが消滅し、復活できないのはどうしてなのだろうか?

世界的には人気が高い
国際ブックフェア

2015年の東京国際ブックフェア
2015年7月1~4日に開催された「第22回東京国際ブックフェア」。世界20ヵ国から470社が出展。この翌年から9月に開催日が変更された

 自国の出版社や海外の出版社が本を並べ、グローバルに版権や流通の商談が行われる国際ブックフェア。国によっては商談だけでなく、一般来場者に特別価格で本を販売するケースもある。珍しい海外の本を知る機会にもなっており、本好きには楽しみなイベント。2019年は、59ヵ国の71会場で開催される。

 韓国、中国、台湾でも国際ブックフェアへの関心は高く、特に中国では、子どもの本のフェアを含めると年3回も行われている。だが、その国際ブックフェアの開催国リストに日本の名前はない。

 全国出版協会の調査によると、日本の出版産業は、1996年の書籍と雑誌を合わせた売上高2兆6564億円をピークにダウン。2018年は売上高1兆2921億円とピーク時の半分以下になってしまい、業界に元気がなくなっているのは事実だが、それでも新刊の発行点数は世界第7位の出版先進国なのである。

 にもかかわらず、本を国内外にアピールする総合的な国際ブックフェアは2016年を最後に消えたままだ。

 日本で2016年まで行われていた国際ブックフェアは、「東京国際ブックフェア(TIBF)」と呼ばれ、その前身は日本の主要な出版社が集まり組織する日本書籍出版協会(書協)が、出版事業の発展と出版文化の向上を目指して1984年に始めた本の総合展「日本の本展」だった。それを1994年から産業見本市などの運営に携わるリードエグジビションジャパン(リード社)が書協と連携した実行委員会とともに、大規模なTIBFへと発展させたのである。まさに出版社に勢いがあった時代を象徴する国際ブックフェアのスタートだった。

 その後、出版全体が斜陽産業といわれ始め、出版社の出展ブースは縮小傾向になったものの、本の割引販売や作家との交流などを目当てにした一般来場者は増加し、本と読者をつなぐブックフェアとしても注目され、盛り上がりを見せていた。

主催者側も努力したが…
出展社減少は止まらず

 2016年も470社が100万冊の本を一斉に展示し、来場者4万人という出版業界最大の本の祭典としてその盛り上がりが報道されていたため、翌年の休止に驚いた人も多かったはずだ。

日本書籍出版協会事務局長の樋口清一さん。他国の国際ブックフェアが好調なのは国の補助が大きい。だが、出版は国の思想とは離れた位置で表現の自由を重んじる文化で、国の補助金を丸々当てにした開催には問題があるという

 TIBFのスタートから実行委員として携わっていた書協の事務局長、樋口清一さんに、TIBFの何が問題だったのかについてお話を伺った。

「一番は個々の出展社にとっての費用対効果の意識の問題です。出展者の数が東日本大震災以降、急激に減ってきました。主催側は来場者を大々的に呼び込むことで出展のメリットを感じてもらう努力をしたのですが、大手をはじめとするブースの数は増えませんでした。海外との関係でも、中国など他国の国際ブックフェアが成長し、東京まで来て出展する海外の出版社が減りました。そうなると、国際ブックフェアの目的でもある版権商談も活性化しなくなります。元気のある日本の出版社は海外のブックフェアのほうに流れ、TIBFは経費削減で規模を縮小したり、参加を取りやめたりとなっていきました」

 インターネットやメールの利用で、商談など海外とのやりとりは昔に比べ格段にハードルが低くなった。また、海外渡航もLCCや格安航空券の一般化、ホテルもネット予約で安価になった。日本の国際ブックフェアでは壁になる英語の対応も、海外では人材が豊富で日本よりも通訳の負担が少ない。事業拡大を目指す出版社が直接海外の国際ブックフェアに出向く傾向は、これからも強くなっていくだろう。

 その環境変化について樋口さんは「主催者側としてもTIBFには大胆な改革が必要だと感じ、2016年はこれまでの出版社のビジネスに重心を置いたBtoBの事業モデルではなく、出版社と消費者をつなぐBtoCにコンセプト変更をしました。それまでの7月の平日開催だった日程を、一般消費者が来場しやすい土日を含めた『読書の秋』の9月にし、大きな方向転換を行ったのです。国際見本市の機能も残しつつ、時代にあったTIBFを目指したのですが、イメージ的には大きなディスカウントブックショップの誕生と捉えられてしまったことも否定できません。結局それだけではあまり出展のメリットを感じてもらえず、出展規模の拡大にはつながりませんでした」と言う。

新しいブックフェアの
可能性はどこにある?

 日本の出版社数は約3200社、その中の約8%が売上高10億円以上の会社だが、この8%の会社だけで業界の総売上の80%以上を占めている。TIBFの思い切った挑戦は、本のプロモーションに課題を抱える中小規模の出版社には朗報だったはず。読者への直接販売に手ごたえを感じたことだろう。しかし、残念ながら出版不況の中で大規模な国際ブックフェアを業界として盛り上げていくような余裕がないことは想像に難くない。出版社の興味がTIBFから離れてしまえば、休止に打つ手なしということなのだ。

 国際的な出版ビジネスは海外のブックフェアに出向いて行う傾向が強くなったと書いたが、それ以外にも新しい流れが生まれつつある。

「東京版権説明会」という形式で、中国、台湾、ベトナムなどアジアを中心とした海外の出版社や関連エージェントを日本に招いた版権商談会を、2015年から毎日新聞出版とダイヤモンド社が開始。次第に規模を拡大して、2018年は出版社だけでなく、IT系のベンチャーなど約50社が参加した。

 また、作家個人が出版事業を始め、国際的に版権のやりとりを行うケースも今では珍しくない。そのような流れを見ると、出版社という従来の企業だけが出版産業を支えているとはいえない時代になったと感じる。

 だからこそ、アートや絵本などジャンルや業界といった横つながりで開催するブックフェアだけでなく、縦横につながったTIBFのような総合的なブックフェアが日本全体の出版文化の成熟度を高め、出版をメディア産業として社会が認識するためにも必要ではないかと、樋口さんは言う。

 そして、書協としても国際ブックフェアの開催を諦めたわけではなく、新しい構想をいろいろと考えて関係者と交渉を続けているそうだ。書協の取り組みには期待をするものの、現実的には出版各社が、かなり厳しい経営状況であることは変わっていない。

 日本に国際ブックフェアは不要なのか?もしかしたらその答えを、出版社ではなく、国際ブックフェアの本の山をめがけてやってくる人々に求めることもあってもいいのではないか。その方法のひとつとして、本に熱い思いを抱く人々を主軸にした新しい国際ブックフェアの実現を、クラウドファンディングで呼びかけてみるというのはどうだろう。

 出版社にとっても、一般読者のリアクションを知ることは新しい国際ブックフェアの再開だけでなく、出版産業の本質的な在り方を考え直すことにもつながるはずだ。

(まついきみこ@子どもの本と教育環境ジャーナリスト/5時から作家塾®)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ