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「MaaS」は世の中の移動と物流をどう変える?

2019年度「豊洲の港から」第1回定例会レポート

特集
「NTTデータ 豊洲の港から」イベントレポート

「豊洲の港から」の2019年度第1回定例会が開催された

 7月17日、「豊洲の港から」の2019年度第1回定例会が開催された。

NTTデータ オープンイノベーション事業創発室 室長の残間 光太朗氏が、豊洲の港からの立役者だ

 「豊洲の港から」は、NTTデータが取り組むオープンイノベーション事業創発プロジェクト。コンテストの開催などを通じて、最先端の技術とアイデアを持つ世界のベンチャー企業、同社顧客の大手企業、金融機関、公共機関、NTTデータの技術とビジネスソリューションを「掛け算」し、3者が「Win-Win-Win」の関係となる持続可能なビジネスの創発を目指すというものだ。

 現在は参加企業を募集しており、日本予選は12月2日、1月24日には本選が実施される。第1回定例会のテーマは「MaaS(Mobility as a Service)」。テーマに則り、移動や物流にかかわる応募企業によるプレゼンが実施された。

エアーモビリティー社会の実現を目指す
A.L.I. Technologies

 株式会社A.L.I. Technologies 代表取締役社長 片野 大輔氏のプレゼンからスタート。同社は「エアーモビリティ社会」の実現を目指し、ドローンやホバーバイクを自社開発している。室内での利用を想定した小型の球体ドローンや、最高時速120km で、地上数十センチを走る1人乗りのホバーバイクなどが代表作。「人が乗れて、問題なく走れるモデル」(片野氏)の2020年の発売を目指している。

A.L.I. Technologies 代表取締役社長 片野 大輔氏

 また「ホバーバイクがナンバープレートを付けて公道を走れる世の中になるかもしれない」と片野氏が話すように、次世代のインフラ構築まで見据えた活動を続けている。

 「豊洲の港から」を通し、大手企業との協業で産業用ドローンの共同開発をしたいと片野氏は語る。「エアーモビリティーを事業に取り入れると、スピードアップのインパクトが出せると思います。ホバーバイクはR&D(研究開発)の段階ですが、一緒に取り組んでいただける企業があるなら、ぜひ協業したい」(片野氏)。

人工衛星でデータ収集、プラットフォーム化
アクセルスペース

 株式会社アクセルスペースの取締役 最高技術責任者 (CTO)宮下 直己氏によるプレゼン。

 同社は2008年に創業し、来月で11年期を数えるスタートアップ企業。もともとは人工衛星を作っていたが、11年目のいまでは、衛星が取得するデータを活用したプラットフォームビジネスも手がけている。JAXAからの受託で人工衛星を開発した実績も持つ企業だ。

アクセルスペースの取締役 最高技術責任者 (CTO)宮下 直己氏

 宮下氏によれば、いま「北極海航路」による貨物輸送に注目が集まっているという。北極海航路は、太平洋と大西洋を北極海で結ぶ航路。北極海の海氷が減少したことで、近年航路として利用可能な期間が長くなったことや、治安のよさから、将来性のある航路とされているようだ。

 船による輸送は、到着日数が1日ずれただけで燃料代が数百万円変わってしまう(宮下氏)。人工衛星を使って事前に航路の様子を把握しておくことで、よりスケジュールに正確な輸送が実現できれば、大幅なコスト削減につながるのだという。

 宮下氏の言葉で印象的だったのが、「地球の様子は1日のリズムで変わっているから、毎日記録をとることに意味がある」というもの。人工衛星を用いて地球の情報を毎日収集し、そのデータを活用したソリューションを作っていきたいと話した。

タクシー配車を低コストでアウトソーシング化
電脳交通

 株式会社電脳交通は徳島県徳島市に本社を置くスタートアップ企業。タクシー配車のアウトソーシングサービスを展開している。

 取締役COOの北島 昇氏によれば、地方タクシーにおいては、電話配車が75%を占め、インターネットによる配車はまだ少数派。さらに法人タクシーのうち75%が、所有台数115台までの小規模事業者だという。こうしたタクシー会社は、去年だけで80社が倒産しているといい、財政的にも厳しい現状があるようだ。

電脳交通の取締役COOの北島 昇氏

 同社では主に、こうした地方のタクシー会社が利用できるクラウド型の配車代行コールセンターと配車システム、タクシー向けのアドシステムを開発。

 企業にとってはコストを抑えながら機会損失を減らし、ユーザーにとってはより利便性の高い、タクシーを取り巻く環境を実現することに尽力している。

 2019年の2月にはJR西日本、日本交通、篠山市と協業し、観光客向けにタクシー乗り放題サービスの実証実験を実施しているなど、タクシー業界の改革に意欲的。業界で標準的に使われるサービスを目指していくとした。

 また北島氏は「地域ごとに交通のあり方を再定義したい」とも話す。「私たちの事業は、テック的に素晴らしいというタイプのものではないと思っているので、UIや、どのように実装していくのかが重要なんです。タクシー会社の存続のために、協業できる企業と組みたいです」(北島氏)。

配送マッチングサービスで物流に改革を
CBCloud

 CBCloud株式会社は、軽貨物ドライバーと荷主を直接つなげる配送マッチングプラットフォーム「PickGo」を展開する企業。

 CSO最高戦略責任者の皆川 拓也氏が登壇。皆川氏によれば運送業界の事業規模は、大手3社で2.6 兆、ほかの6万3000の中小企業で14.3兆円となっており、業界構造について「中小企業が支えている」と形容する。また、宅配便の小口配送個数も増え続けており、2015年には業界全体で30億個超の荷物を取り扱っていたこ とに対し、2022年では45億個まで増加する予測がたっているという。

CBCloud CSO最高戦略責任者の皆川 拓也氏

 国内には、軽貨物ドライバー個人事業主として活動している方が多くいるが、大手配送業社からの依頼を受けて業務 にあたるケースも多く、「中抜き」が発生しやすい業界構造になっているそう。この中抜きを極力少なくし、インターネットを活用した即時性をもって、荷物を送りたい個人や法人と、ドライバーをつなげる仕組みを作っている。

 「これまでの常識にとらわれず、物流を変革したい。新しい配送のかたちを作っていきたい方と組んでいきたい。 またPickGo以外にも、宅配現場の効率化を実現するソリューションシステムも開発しており、導入したい企業に対して、安価に提供できるのも強み」(皆川氏)。

移動と物流の課題は法整備と人材不足

 登壇者たちによるセッションパートの模様をレポート。

 A.L.I. Technologiesの片野氏は「最終的には、電車やバスだけでなく、空も含めて、すべてがつなが っていく世界を目指したい」と話す。しかし実現の時期については、「3年や5年だと、法整備も進まない。20年とか、30年経たないと、実現は難しいかもしれません」と、エアーモビリティー社会の実現 には複数の障壁があることも示唆した。

 「またドローンやホバーバイクが横転した時の事故のリスクも考えないといけません。1m浮いているのか、10m浮いているのかでも、求められる安全性の基準が違うと思う」(片野氏)。

 アクセルスペースの宮下氏も、進めているプロジェクトの実現可能な時期に触れた。「3年から5年で、地球のほぼ全土が毎日見れて、毎日アップデートできる環境が構築できると思います。問題は、個人情報の部分。たとえば大きな邸宅があったとして、『車がないからバカンスに行っているだろう』とわかってしまうのはどうか。『衛星画像は個人情報なのか?』といった部分の議論も、必要になってくるでしょう」(宮下氏)。

登壇者によるセッションの模様。「法整備」や「人材」といった共通のキーワードが上がった

 電脳交通の北島氏とCBCloudの皆川氏が、共通して言及したのは「人の不足」というキーワード。 「タクシーのドライバーはその地域に住んでいるケースが多く、タクシーは地域経済の根付いた存在で す。バスでは解決できない問題も、タクシーなら解決できる場合があります。ただ、新しい仕組みを導 入しようとしたときに、費用は誰がどう負担するのか。行政にどこまで面倒を見てもらえるか……地方は人口も少ないし、特に、『ビジネスを一緒に進められる人』はさらに限られている。まだまだ課題は多いです」 (北島氏)。

 「電脳交通の北島さんの話していることはよく分かるし、今日はずっと、話が合うなと思って聞いていました。タクシー業界とトラック配送事業は似ている部分も多いなと感じます。彼らと私たちを分ける部分は業法だと思います。物流なのか旅客なのかというのは、突き詰めると、貨物の許可を受けているのか、第二種運転免許なのかになる。私たちが課題に思っているのも、『地方から人が減っているのに、運ぶ物は増えている』という部分」(皆川氏)。

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