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国政選挙連勝の強さが「改憲」で期待できない、安倍一強の真実

2019年07月17日 06時00分更新

文● 森田京平(ダイヤモンド・オンライン

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“国政選挙連勝”の強さが「改憲」で期待できない「安倍一強」の真実(仮)
Photo:PIXTA

 参院選挙は21日の投開票に向けて終盤戦に入った。

 総裁は連続3期までとする安倍首相の自民党総裁任期から考えると、参院選後はこれまで蓄積した政治資本(ポリティカル・キャピタル)を消費する段階に移行し、「憲法改正」に動きだすとみられる。

 だが国政選挙での自民党の強さの背景にあった選挙制度の「有利」が、改憲では期待できない事情がある。

「安倍一強」という表現に象徴される政治体制は、恐らく参院選後も続くのだろうが、憲法改正に向けてということでは、参院選後の政治は波乱含みだ。

参院選後は「改憲」で
「政治資本」の消費段階に

 今回参院選の重要な争点として、いわゆる「2000万円問題」に象徴される年金制度など社会保障のあり方や、財政の持続性や当面の景気への影響が注視される10月の消費税率引き上げ、憲法改正、などを挙げることができる。

 中でも首相自らがライフワークと位置付けてきた憲法改正は、安倍政権にとっての政治資本の消費対象として、「一丁目一番地」に位置付けられよう。

 それでも、自民党の参院選用の『政策パンフレット』や『総合政策集2019 J-ファイル』で憲法改正が最後に書かれているのを見ると、拙速な印象を国民に与えることには慎重なようだ。

 それにはあまり表に出ていない理由がある。

「安倍一強」の真偽
自民党は衆院選が得意、参院選が苦手

 そもそも本当に「安倍一強」なのだろうか。

 この問いかけは、愚問のように受けとめられるかもしれない。「安倍政権の下、現与党は国政選挙のたびに勝利を収め、政権の長期化、政治の安定を実現してきたではないか」という答えが、多くの人から返ってくるだろう。

 無論、筆者もそれは認識しているが、それでもあえて問いたい。

「本当に『安倍一強』なのだろうか」。

 1959年以降の衆院選と参院選における自民党の得票率(有効投票数に占める自民党得票数の割合)を比べてみよう。

 図表1では、縦軸に衆院選、横軸に参院選での自民党の得票率が示されている。相互に最も近い時期に行われた衆院選と参院選における自民党得票率の組み合わせがプロットされている。

 一見して明らかなことは、トレンド線が45度線より下ということだ。

 これは、自民党得票率は衆院選よりも参院選で低くなる傾向があることを意味する。

 つまり自民党は衆院選が得意で、参院選が苦手なようだ。

 どうやら「安倍一強」と呼ばれる現象の真偽を考える上では、衆院選が鍵を握るようだ。

得票率と議席獲得数が乖離
衆院選の強さは小選挙区制の産物

 では、衆院選における自民党の強さの背景に何があるのだろうか?

 筆者は、それは小選挙区制という「制度」と考える。同時にこのことは、衆院選での同党の強さが、必ずしも国民の支持に根差すものではないことを意味する。

 この見方は筆者の政治的な主義・主張に基づくものではなく、データから得られる客観的な仮説である。

 1960年以降の衆院選における自民党の「得票率」と「議席獲得割合」(衆議院定数に占める自民党獲得議席の割合)を見てみよう(図表2)。

 得票率は国民の支持を、議席獲得割合は政治勢力の配分を表すため、図表2からは、自民党に対する国民の支持と、同党の政治勢力の配分の関係を読み取ることができる。

 図を見れば、小選挙区制が適用された1996年以降、衆院選における自民党の議席獲得割合(政治勢力の配分)が、得票率(有権者の支持)を大きく上回ることがわかる。

 直近2017年10月の衆院選では、自民党の得票率は40.5%にとどまったのに対して、同党が得た議席は衆院定数の60.4%に上る。その差は何と20%ポイントもある。

 有効投票のうち40%ほどしか得ていない政党が、衆院選定数の60%もの議席を得ていることには驚きを禁じ得ない。

 これを可能にしているのが、小選挙区制という「制度」である。

 ちなみに小選挙区制が導入される前の衆院選では、自民党の得票率と議席獲得割合はおおむね連動していた。

 例えば、自民党の衆議院での議席獲得割合が60%ほどだったのは、小選挙区制導入前では1960年代前半まで遡る。その頃の自民党の得票率は50%台後半と、議席獲得割合(約60%)に近かった。

 民主主義の視点に立てば、国民の支持(得票率)と政治勢力の配分(議席獲得割合)は本来、同水準であるべきだ。小選挙区制導入(1996年)の前の衆院選では、これがほぼ実現していた。

 ところが、小選挙区制導入以降、最近にかけて、両者の乖離は誰の目にも明らかになっている。

 直近2017年衆院選での自民党の得票率は40%であり、これは1990年代以降の平均(39%)とほぼ同じである。つまり、安倍政権下の自民党の得票率は「普通」(ないしそれより少し上)としか筆者には見えない。

 これでなぜ「安倍一強」といえるのだろう。

 衆院選での自民党の強さの背景にあるのは、国民の支持ではなく小選挙区制という「制度」である、と筆者が考える理由がここにある。

参院選にも制度の歪みが
「選挙区」で“過剰”な議席獲得

 一方、自民党が(相対的に)苦手とする参院選はどうだろうか。実はここにも制度の歪みを見て取れる。

 参院選は1980年6月の第12回通常選挙まで「全国区・地方区」に基づいて行われていた。しかし、1983年6月の第13回通常選挙で「比例代表・選挙区」に移行した。

 参院選における自民党の得票率と獲得議席割合を両制度の下で行われたそれぞれの選挙結果で比べてみよう(図表3)。

「全国区・地方区」に基づくかつての参院選では、「議席獲得割合=1.1×得票率+1.7」という関係が見られた。

 ところが、「比例代表・選挙区」に移行すると、この関係が「議席獲得割合=1.6×得票率-10.7」に変わった。

 つまり、「全国区・地方区」では、参議院で半分(50%)の議席を得るために、自民党は44%の得票率を得なくてはならなかったが、「比例代表・選挙区」の下では、たった38%の得票率で定数の半分の議席を得ることができる。

 そこで「比例代表・選挙区」が採用された1983年6月以降の12回の参院選について、自民党の得票率と議席獲得割合の関係を、「比例代表」と「選挙区」に分けて見てみよう。

 すると、「比例代表」では「議席獲得割合=1.2×得票率-2.6」、「選挙区」は「議席獲得割合=1.8×得票率-15.5」という関係が得られる(図表4)。

 その結果、「比例代表」で50%の議席を得るには44%の得票率が求められる。両者の値は近く、民主主義にかなう。

 一方、「選挙区」で50%の議席を得るには、たった36%の得票率で十分である。

 衆院選の「小選挙区」と同様に、参院選の「選挙区」では、有権者の意思(支持行動)を直接反映する得票率と、政治勢力の配分を表す議席獲得割合の関係が歪められる。

国民投票には「選挙区」がない
「改憲」では制度の有利働かず

 ここまで見てきたように、自民党の選挙での強さの背景には、衆院選では「小選挙区」、参院選では「選挙区」という「制度」が大きな位置を占めている。

 こうした中、参院選後の安倍政権は憲法改正を念頭に、政治資本の蓄積段階から消費段階に移る。

 改憲を規定する憲法第96条は、(1)衆参各院の「総議員の3分の2以上の賛成」によって憲法改正を国会が発議、(2)国会が発議した改憲案についての国民投票で「過半数の賛成」(厳密には投票総数の過半数の賛成)によって公布、としている。

 改憲のためには、まずは改憲勢力が「3分の2以上」の議席を獲得できるかが焦点となるが、仮に獲得できても、(2)の国民投票には、衆院選の小選挙区、参院選の選挙区に当たる「制度」が存在しない。

 そこにあるのは「全国区」のみからなる純粋に「一人一票」の民主主義の世界である。

 自民党の強さは「制度の産物」という側面が強く、国民の支持(得票率)に裏付けられた民主的な意味での「安倍一強」なる現象は起きていない。

 こうした視点に立てば、憲法改正が不可避の争点となる参院選後の政治は、やはり波乱含みと見ておく必要がある。

(クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト 森田京平)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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