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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第39回

梅雨のどんよりとした気分を「史上最悪のクラシック」で?? 麻倉怜士推薦ハイレゾ音源

2019年07月17日 13時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK(ASCII)

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 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。梅雨空が続いていますが、音楽でリフレッシュを! 6月にリリースされた優秀録音を中心にまとめました。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『怒りの日』
チャイコフスキー交響楽団

特選

 案内文に驚くべきことが書いてある。「史上最悪のクラシック!?西洋音楽に脈々と連なる、死と破滅をテーマにしたクラシック音楽を網羅!あなたは最後まで聴き通せるか!?」。

 そう、「死と破滅」をテーマにしたクラシック音楽を新録音した。確かに、クラシックには「死と破滅」のテーマが多い。そもそも主人公が死なないオペラは稀有だし、「彼の日こそ怒りの日なり/世界を灰に帰せしめん/人々の恐れ戦き、如何にや在らん」との歌詞を持つグレゴリオ聖歌『怒りの日』DIES_IRAEは、クラシック音楽の屋台骨として、古今東西の名曲を貫く、戦略的にきわめて重要な曲だ。本アルバムにはラフマニノフ:パガニーニの主題による変奏曲、リスト:死の舞踏、サン=サーンス:死の舞踏ベルリオーズ:幻想交響曲より第5楽章---と、『怒りの日』の旋律が引用された名曲が多数、収められている。

 キングレコードがモスクワで出張録音。チャイコフスキー交響楽団(旧モスクワ放送響)とモスクワ放送合唱団による最新録音だ。テーマはへんだが、演奏と音質はたいへん素晴らしい。「1カルミナ・ブラーナ~おお、運命の女神よ」は、ひじょうにクリヤーで、音の情報が多い。合唱の録音は難しく、混濁や歪み感が出たがるものだが、混声合唱、大編成オーケストラともに透明感が高く、すっきりと伸びている。ホールの響きも美しい。「2.ヴェルディ・レクイエム~怒りの日」も、本コンセプトとはまったく異なるクリヤーな音調なのが、ちょっと肩すかし。もっと、とても怖いジャケット写真にように悪魔的な破滅サウンドを期待したかった(?)。2002年モスクワ音楽院大ホール、2017年ブダペスト・ハンガリー国営放送スタジオ、2019年モスクワ・モスフィルムで録音。

FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit、DSF:2.8MHz/1bit
キングレコード、e-onkyo music

『シューベルト:初期交響曲集(第1~3番)、劇付随音楽』
ローレンス・フォスター, コペンハーゲン・フィルハーモニー管弦楽団

特選

 ローレンス・フォスターとは懐かしい。かつてジャクーヌ・デュ・プレ、バレンボイム、メータ、ズッカーマン、パールマンの若き時代の名演、シューベルト・ピアノ五重奏曲「ます」のレーザーディスクで、当時、メータの弟子だったローレンス・フォスターがかいがいしく、メータの世話をしていたシーンが印象に残っている。その彼がコペンハーゲン・フィルの常任になったことはまことに喜ばしい。職人型としてオーケストラサイドの人気が高い指揮者だ。

 本シューベルトも軽やかさと躍動感、伸び伸びとした感触が聴け、シューベルトの初期の傑作にふさわしい爽やかさだ。音はまさにPENTATONE調。リニアPCMだが、粒立ちが細かく、ワイドレンジだが、しっとりとした味わいを持ち、音場情報がとても豊潤。潤いと暖かさが感じられ、緻密で音色感の豊かなサウンドは、DSD的でヒューマンだ。 2017年10月、王立デンマークアカデミー内のコンサートホールでセッション録音。

FLAC:96kHz/24bit
PENTATONE、e-onkyo music

『Antidote(feat. The Spanish Heart Band)』
チック・コリア, The Spanish Heart Band

特選

 スパニッシュ・テイストはチック・コリアの代名詞のひとつ。過去のアルバム『My Spanish Heart』(1976年)、『Touchstone』(1982年)で、チック・コリア=スペインというイメージが確立された。彼の新バンド、スパニッシュ・ハート・バンドによる新アルバムはまさにその名の通り、スペインムード満載だ。「マイ・スパニッシュ・ハート」、「アルマンドのルンバ」などのチック名曲の最新演奏が聴ける。アルバムタイトル『Antidote』とは解毒剤のこと。都会の毒をスペインサウンドで解毒するという意味か。

 サウンドはラテンリズムの魅力全開。重厚なブラスアンサンブルと、チック・コリアの軽やかな鍵盤感が対照的だ。名曲「マイ・スパニッシュ・ハート」はピアノソロ、ベースのオブリから始まり、サルサ歌手のルーベン・ブレイズのセクシーでしっとりとした歌声と、ピアノ、ギターの絡みが興奮を誘う。ヴォーカルと楽団のバランスも好適だ。マリア・ビアンカの歌と共演のスタンダード」デサフィナード」は大胆な躍動的なアレンジ。エレピの絡みも素敵だ。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Concord Jazz、e-onkyo music

『プリマ・デル・トラモント』
山中千尋

推薦
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 山中千尋の前回アルバムはガーシュイン名曲のジャズアレンジで話題だった。今回のアルバムコンセプトは2つ。ひとつがブルーノート80周年を記念してソニー・クラークなどブルーノートの名曲のカバー。もうひとつがフランス最高のジャズ・ピアニストと評価されるミシェル・ペトルチアーニの没後20年記念だ。 「1.ジェンナリーノ」。弾むリズムと、うきうきするピアノの鍵盤感、軽快なパーカッション……が、耳の快感だ。即興部分の軽やかさと追い込みの鋭さ、ノリの快活さは山中ならではの持ち味だ。「2.パソリーニ」のヨーロッパ的なクラシカルなメロディ、密かに紡ぎ出される即興のバッハ的なメロディも素敵だ。アコースティックピアノの高域のグロッシーさを帯びた輝かしさも耳に心地よい。「6.スウィート・ラブ・オブ・マイン」のエレピの軽妙さも楽しい。録音はニューヨーク・ブルックリンはブームタウンスタジオ。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music

『Getz At The Gate[Live]』
スタン・ゲッツ・カルテット

推薦
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 ジャズ・ジャイアンツの未発表音源を次々に発表しているレゾナンス・レコードと、ヴァーヴ・レーベルとの共同プロジェクト。発掘音源だが、音はたいそうクリヤーだ。サックスのスタン・ゲッツとスティーヴ・キューン(p)は左チャンネル、スティーヴ・キューン(p)は右と分かれる。ジョン・ネヴェス(b)はセンターやや右だが、音的には左右の分離感が明瞭だ。もりもりと盛りあがるサックスの太さ、ノリの鋭さも堪能できる。歴史的な瞬間に立ち会っているような濃い気分だ。パーソネルはスタン・ゲッツ(ts) スティーヴ・キューン(p) ジョン・ネヴェス(b) ロイ・ヘインズ(ds)。1961年11月26日、ニューヨーク、ヴィレッジ・ゲイトにてライヴ録音。

FLAC:192kHz/24bit、MQA:192kHz/24bit
Verve Reissues、e-onkyo music

『1969』
Days of Delight Quintet

推薦
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 ベーシストの塩田哲嗣氏が大活躍するアルバムだ。レーベルDays of Delightを運営、レコーディング現場ではベースを奏しながら腕利きの5人のメンバーを指揮し、同時に自らエンジニアとしてそれを録音----と、聖徳太子的な離れ業だ。もの凄く新鮮で、ガンガン前に出てくるサウンド。ドラムス、サックス、トランペット、ベースのそれぞれが確固とした明確な音像を持ち、ストレートに音が聴き手に向かって疾走する。音はたいへんクリヤーで、いかにも現代の録音作品らしく、音の情報と音の勢いに満ちると同時に、ビンテージな輝きと厚み感も持つ。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
Days of Delight、e-onkyo music

『45周年記念コンサートツアー2018 Reborn
~生まれたてのさだまさし~
(Live at 東京国際フォーラム ホールA)』

さだまさし

推薦
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 前回は過去名曲のセルフカバーを採り上げたが、本アルバムはデビュー45周年を飾る“再生(Reborn)”ツアーのライブ。長崎をスタートし、東京国際フォーラムの回の収録だ。新アルバムからの冒頭の2曲はたいへん賑やかだが、その後は、いつものさだまさし調になる。48kHz/24bitだが、低域が充実したピラミッド的な音調。直接音主体で、明瞭な描き方だが、音数が多く、音場は緻密だ。前回も書いたが、さだまさしの歌は円熟しながらも、若々しさを聴かせる。彼のライブならではのトークも聴き物だ。東京国際フォーラムホールAで2018年11月20日収録。

FLAC:48kHz/24bit、WAV:48kHz/24bit
Colourful Records、e-onkyo music

『ことばのない詩集』
高橋悠治

推薦
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 クープラン・フランソワ、マリピエーロ・ジヤン・フランチェスコ、自作、シュリック・アルノルト、ジュラ・チャボー……と高橋悠治は現代作家の曲を次ぎ次ぎに弾き、あたかもたくさんの違う種類の花で花壇をつくるが如くのイメージを提供する。「ユリの花 マリアのバラの園 まだ知らなかった音楽できたばかりの曲 まだ人の知らない響きに いつも触れていたい」と高橋悠治は述べている。

 クープラン・フランソワの「1花開くユリ、2.葦(あし)」は現代にバッハが蘇ったような錯覚を与える。マリピエーロ・ジヤン・フランチェスコの「3アーゾロ詩集」は、音の断片が憂色を帯びる。同「6.きらめき」は、ラヴェルの世界をオマージュしている。自作の「11空撓連句」はフラグメントの飛翔が不安な心持ちを与える。ミクロな思いつきから、響きが放射される。2019年3月7日、浜離宮朝日ホールでライブ収録。

FLAC:384kHz/24bit、192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、
マイスターミュージック、e-onkyo music

『20世紀傑作選(1)
バルトーク三部作:弦楽器・打楽器・チェレスタのための音楽他』

Paavo Jarvi (conductor) NHK Symphony Orchestra, Tokyo

推薦
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 サントリーホールでのヤルヴィ/N響の一連のソニー制作は、上品なソノリティ、暖かな雰囲気、オーケストラ全体のまとまりのよさ……が美点だ。本録音も微視的ではなく包み込むようなスケール感と、濃密な空気感が聴ける。しなやかで、やわらかい音調。でも個人的にはバルトーク的な名人芸にフォーカスアップしたダイレクトな音も聴きたい。2017年9月27日&28日、サントリーホールでライブ収録。

DSF:2.8MHz/1bit、
Sony Music Labels、e-onkyo music

『道』
鼓童

推薦
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 前身の佐渡の國鬼太鼓座から約半世紀、継承してきた鼓童の代表作「道」。 オリジナルスペックの48kHz/24bitから96kHz/24bitにリマスタリングしているが、大太鼓の迫力としなり感、空気の揺れ感はリアルに感じることができる。「9.大太鼓」はまさに、大太鼓ならではの空気の振動がリスニングルームを揺るがす。2018年6月20日、21日 浅草公会堂(東京)にてライブ収録。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
音工大、e-onkyo music

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