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大人の発達障害とうつ病の誤解、なぜあの人は空気が読めないのか?

2019年07月10日 06時00分更新

文● 岩波 明(ダイヤモンド・オンライン

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写真はイメージです Photo:PIXTA

ここ数年、メディアでもよく取り上げられるようになった「大人の発達障害」や「うつ病」。しかし、これらの病気に関する偏ったイメージや誤解がまかり通ってしまい、「自分もそうなのでは?」と専門医の診察を受ける人が増えているのが現状です。そこで前回に続き『最新医学からの検証 うつと発達障害』(青春出版社)から、病気の疑いがある方、ご家族、あるいは職場で当事者と関わりのある方などに向けて、発達障害やうつ病の正しい知識をわかりやすく解説します。

「アスペルガー」と思ったら、うつやADHDの可能性も…

 発達障害の専門外来にやってくる人は、多くが自分のことをアスペルガー症候群と考えています。「対人関係がうまくいかないので、自分はアスペルガーではないのか」と自己診断している人や、「他の病院やクリニックでアスペルガー症候群と診断された」という人が大半です。

 しかし、ここには大きな誤解があります。それは、「発達障害=アスペルガー症候群」、という誤解です。実は、総人口に占める有病率は、同じ発達障害でも圧倒的に注意欠如多動性障害(ADHD)が多いのです。外来を受診する人の中では、本来はうつやADHDであるのにもかかわらず、自らアスペルガー症候群と確信していたり、そのように診断されていたりすることがよくみられます。

 さらに、アスペルガー症候群とADHDは症状が類似していることがあるため、誤って診断されることがよくあります。自分でアスペルガーを疑って病院にやってきた人も、他の病院でアスペルガーと診断された人も、かなりの部分が「誤診」なのです。残念ながら、発達障害の専門医でも、誤診は珍しくありません。

 このような誤解が生じている原因の1つには、アスペルガー症候群という言葉が、まるで流行のようにして世の中に広まってしまったという背景があります。ここ数年、「発達障害」という言葉が非常にポピュラーになりました。なかでも「アスペルガー症候群」は広く浸透しました。しかし「新型うつ病」と同様に、その浸透が急速だったせいで、正しい理解が追いつかず、「発達障害といえばアスペルガー」という、間違った情報が信じられているのです。これは一般の人だけでなく、医療関係者にも同様のことがみられています。

 このように、マスコミなどが流布した「人間関係に問題を抱えている=アスペルガー症候群」のイメージが、一般の人に誤解を与えている面が大きいと思います。

「空気が読めない」の原因は“対人恐怖”ではない!

 先ほどのアスペルガー症候群などASD(自閉症スペクトラム症候群)の人に共通する「空気が読めない」は何が原因なのでしょうか。一般的に、対人恐怖が原因で自閉的な症状や「空気の読めなさ」が生じる場合もありますが、それは発達障害とは異なるものです。これは、「対人恐怖症」と診断されることもあれば、「社会不安障害」、「社交不安障害」いう病名がつくこともあります。

 一方、自閉症の症状は、対人恐怖とは異なり、むしろ「他人に関心がない」「人との関わりをあまり好まない」ことに基づいています。その結果、「他人の気持ちを理解しない」、「場の空気を読めない」といった特徴につながり、周囲からの孤立を招くことになります。

 また、ASDの人が一見、他者との関わりに積極的であるようでも、実際には働きかけが一方的で、適切な関係を構築できていないケースもよく見られます。以前、次のような研究をしたことがあります。ASDの人が、他人と会話をするときの視線を、アイトラッカーという機器を用いて計測しました。普通の人は、会話をしながら相手の顔や目を見ることが多いのですが、ASDの人は、相手の顔や目ではなく、体や背景を見る頻度が高率でした。

 つまり、ASDの人は、「人嫌い」というほど他人を積極的に嫌っているのでもないし、他人に不安や恐怖を感じているわけでもありません。むしろ、他人を気にしないし、視界に入っても特別な存在と認知しないのです。アイトラッカーの研究は、この点を実証したものとなっています。

 また、ASDの人は、自分が思ったことや本当のことを言いたい、という気持ちを抑えることができません。それが「相手の都合も顧みず、自分が思ったことを話し続ける」「唐突な発言をする」など、周囲に対する配慮の欠如として表れます。

 一方でADHDにも、衝動性の表れとして「思いついたことを言わずにいられない」傾向がありますが、ASDの人は「自分が話していい状況なのかを認識できていない」ことが原因で、同様な行動がみられるのです。

 その結果として、周囲から浮いてしまうことになりがちです。さらに、「空気が読めない」「わがままで身勝手」な人間として扱われることになりかねません。本人も、自分が「変わった」人間であると見られていることに気がつき、自分から距離を取り引きこもっていくケースもあります。

「うつの人に“がんばれ”と言ってはいけない」は正しい?

 最後に、発達障害との関連が高い「うつ」について。うつ病の人に接するときのマニュアルのようにして「がんばれと言ってはいけない」と覚えている人が多いようですが、必ずしもそうとはいえません。うつ病は、職場でもっとも多く見られる精神疾患です。また憂うつさ、不安、不眠といった症状は、誰もが少なからず経験しています。そのため、一見わかりやすい病気であり、そのせいで素人判断の危険にもさらされています。

 しかし、一口にうつ病といっても、その症状は多様です。日常生活に影響が少ない軽症なものもあれば、自殺のリスクが高かったり、食欲不振で栄養状態が悪化していたりと、入院が必要なほど重篤なものもあります。そうした状態に合わせたアドバイスやケアが必要となります。症状が重い時は、がんばるよりも、休養と治療が先決です。そのため、ただでさえ、がんばれない自分を責めている状態にある患者を、「がんばれ」という言葉がさらに追い詰めることになります。同じように「元気出して」「病は気からと言うし、気の持ちようだよ」といった言葉も、不適切です。

 そもそも、「がんばれと言ってはいけない」という言葉が、金科玉条のように広まったのは、時代的な背景があったのかもしれません。以前は、社会的にうつ病の理解はなかなか進んでいませんでした。そのために「うつ病なのにそう認識されない人」が数多く存在していました。仕事をしていてもはかどらない、元気がない。しかし、周りは病気のせいだとは思いもよらないのです。だから悪気なく「もっとがんばれ」という言葉を口にしてしまい、それがうつ病患者を追い詰め、無理をさせていたのです。その後、うつ病が社会的にクローズアップされるようになり、「がんばれと言ってはいけない」がわかりやすかったこともあり、一般に広く伝わったと考えられます。

 しかし、うつ病の回復状態によっては、「がんばれ」と患者の背中を押してあげたほうが、より回復が進みます。休職からの社会復帰を目指すのであれば、少しずつ復帰に向けたリハビリ(リワーク)を進めることが重要になります。このような時期においては、多少気分が乗らなくても、がんばる必要があるでしょう。例えば「ここまでできないと、次の段階には進めませんよ」と示してあげることは重要です。とはいえ、もちろん無理は禁物です。「ここまでなら、無理なくがんばれるだろう」という一線を、医師は見極めなければなりません。不安感や憂うつ感がどの程度かも重要です。

 さらに、注意しなければならないのは、「抑制」の症状です。抑制とは、「頭が働かない、判断力が鈍る、根気がない」といった症状です。憂うつさは「なんとなく元気がなさそう」「表情が暗い」といった形でわかりやすいですが、抑制の症状は表に表れにくいのです。抑制は回復しているように見えても、実はまだ集中力が回復しておらず、仕事に必要な文書をしっかり読むことができないケースもあるため、慎重に様子をうかがう必要があります。

 また、治療においては、うつ病からの復職を受け入れる側との連携も必要になります。上司が全てを把握することは難しいと思いますが、環境が整っている会社であれば、人事部や産業医、あるいは保健管理センターなどが復職や復帰の仕方について対応してくれるでしょう。本人、病院、職場が連携しながら、復職を目指していくのが理想です。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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