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ルネサス社長電撃解任の深層、INCJが2度目の人事介入で引導

文● ダイヤモンド編集部,村井令二(ダイヤモンド・オンライン

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ルネサス社長電撃解任、INCJが2度目の人事介入で引導写真1
ルネサス社長解任の裏には何があったのか Photo by Reiji Murai

半導体大手のルネサスエレクトロニクスでトップ人事に異変が起きた。6月25日、社長兼最高経営責任者(CEO)の呉文精氏に対し、取締役会の任意の諮問機関である指名委員会が交代を勧告。電撃的な解任劇の背景を探った。(ダイヤモンド編集部 村井令二)

経産省が社長の評判を
ヒアリングしていた

 「呉さんをどう思いますか」

 今年4月に入って、経済産業省の一室でルネサスの現役幹部が社長兼最高経営責任者(CEO)を務めていた呉氏の評判についてヒアリングを受けていた。

 経産省はルネサスエレクトロニクスの筆頭株主である官民ファンドのINCJ(旧産業革新機構)の所管官庁。同省幹部はルネサスだけでなく、外部の関係者も次々に呼び出して呉氏について聞き出していた。そのうちの1人は質問の内容から「呉さんを外したがっているな」と即座に直感したという。

ルネサス社長電撃解任、INCJが2度目の人事介入で引導_社長兼最高経営責任者だった呉氏
社長兼最高経営責任者だった呉氏は6月25日の取締役会で“解任” Photo:JIJI

 それから2カ月強が経過した6月25日のルネサスの取締役会。指名委員会は呉氏に対して「期待を満たしていない」「早期の交代が必要」と厳しい評価を盛り込んだ答申を提出し、呉氏を辞任に追い込んだ。

 指名委員会が「呉氏は経営トップとしてふさわしいのか」という観点で評価を開始し、後任探しを始めたのも4月頃だ。ここから呉氏解任に至るまで、経産省と指名委員会の動きはほぼ連動していた。呉氏は3月20日の定時株主総会で再任されたばかりだったが、水面下では経産省と指名委員会による「解任シナリオ」が着々と実行に移されていたのだ。

 ルネサスの指名委員会は昨年11月に設置されている。東京証券取引所が定めたコーポレートガバナンスコード(企業統治指針)で指名委員会の設置が推奨されたのを受けて、呉氏自身の発案で取締役会の下に任意の諮問機関として導入した。

 メンバーは鶴丸哲哉会長を除く3人が社外取締役で、そのうち1人がINCJの専務である豊田哲朗氏だ。同氏はINCJがルネサスへの出資を完了した直後の臨時株主総会で社外取締役に就任し、以来、5年以上にわたって取締役に在任中。

 INCJは当初のルネサスへの出資比率は69%超で、圧倒的な支配力でルネサスのトップ人事に影響力を持ち続けてきた。

15年12月に電撃解任された遠藤隆雄・元ルネサス会長兼CEO
15年12月に電撃解任された遠藤隆雄・元ルネサス会長兼CEO Photo:JIJI

 ルネサスのトップが電撃的に解任されるのは、これで2度目。1度目は、15年6月に会長兼CEOに就任した遠藤隆雄氏が、わずか半年後の12月に突如として辞任に追い込まれた。

 遠藤氏は、ルネサス株の売却方針をめぐってINCJと対立。同年12月21日のメディアのインタビューで独半導体大手インフィニオンとの資本提携に前向きな意向を表明して突破を図ろうとしたが、この発言からたった4日後の取締役会で、電撃解任されている。

 現在、INCJはルネサス株のエグジット(投資回収)に入っており、保有比率は33.4%まで下がっている。このため、かつてのようなトップ人事への影響力は弱まったかに見えたが、今回の呉氏の解任劇では、指名委員会のポストを確保したINCJが依然としてルネサスのトップ人事に影響力を持ち続けている実態が露わとなった。

株価下落でINCJの逆鱗
社内外の不満も経産省に届く

ルネサス社長電撃解任、INCJが2度目の人事介入で引導_ルネサスをけん引する自動車事業
ルネサスの主力である自動車用半導体事業のイベントの様子。インターシルとIDTの買収で、この主力事業とのシナジーは見いだせない Photo by R.M.

 呉氏解任に至った理由は明白だ。まずは業績不振。11年の東日本大震災で経営危機に陥ったルネサスは、INCJ主導の壮絶なリストラで一時は15%の営業利益率まで復活したが、直近は2四半期連続で営業赤字に沈んだ。1~3月期の営業赤字は経営危機以来7年ぶりだ。

 さらに、実質無借金だった財務体質も悪化。17年2月の米インターシル、19年3月の米インテグレーテッド・デバイス・テクノロジー(IDT)の2件の買収で計1兆円超を使い、純有利子負債は7700億円に膨らんだ。「ルネサスの主力の自動車用半導体とのシナジーが全くない」(半導体アナリスト)とささやかれる2件の巨額買収を実施したことで、のれん代は9000億円を超え、深刻な減損リスクにさらされている。

 これにより、一時は1500円を超えた株価も5月末に500円を割り込んだ。ルネサス株の売却で早期のエグジット(投資回収)を図りたいINCJにとって無視できない水準だ。

ルネサス社長電撃解任、INCJが2度目の人事介入で引導_ルネサスの自動車用半導体事業をけん引した大村隆司氏
ルネサスの自動車用半導体事業を牽引した大村隆司氏。ルネサスの要職を外されて、ソニーに転じた Photo by R.M.

 これに加え、経産省の元には、取引先の自動車メーカーから呉氏の経営手腕を疑問視する声が届いていた。「利益重視を追求するあまり、工場の製品の生産停止を急いだかと思えば、駆け込み需要が増えるとそれを撤回するなど生産が安定しない」――。そうしたクレームを受けて経産省は、冒頭のルネサス関係者のヒアリングを本格化させていたのだった。

 また、呉氏への不信は内部からも噴出していた。同氏は16年の就任直後にかつての部下だった山並裕尚氏を人事担当の役員に呼び寄せたのをきっかけに周辺を自身の関係者で固めていった。

 その象徴が18年3月の人事。ルネサスの自動車用事業を牽引してきた大村隆司氏を退任させて、後任にかつての部下だった山本信吾氏を据えた。半導体未経験の山本氏をルネサスの主力事業のトップに据える強引な身内びいきの人事だった。

 退任した大村氏は18年9月からソニーに転じたが、それと前後して、ルネサス内部では優秀な人材の流出が加速していく。経産省には内部からの批判の声も伝わり、“呉氏包囲網”は狭まった。こうして、INCJが主導する指名委員会での解任の判断に繋がったようだ。

解任は「トカゲのしっぽ切り」
後任の柴田氏はいばらの道へ

 だが、その呉氏を社長に据えたのもINCJ自身だった。日産系列だった自動車部品のカルソニックカンセイ社長を経験し、日本電産副社長を退任したばかりの呉氏を起用したのは、日産副会長だったINCJの志賀俊之会長だ。

 当時、日本電産の永守重信会長兼社長と対立して同社を去った呉氏の起用については、「ルネサスに買収を提案していた日本電産を拒否するため」という見方も広がったが、関係者によると、呉氏は当初、INCJが買収を計画していたシャープの社長に就任する予定だったという。16年2月にシャープ買収計画がとん挫したため、急遽、空席だったルネサスのトップに呉氏を充てたのが実態だ。

 後任のCEOに就任した柴田英利氏は、INCJのディレクターとしてルネサス支援を主導し、13年の出資完了とともにルネサスに転籍した経歴を持つ。当時の会長兼CEOだった作田久男氏からの要請に応じてINCJを離れたが、以来、呉氏まで4人のCEOを最高財務責任者(CFO)として支えてきた。

ルネサス社長電撃解任、INCJが2度目の人事介入で引導_呉氏の後任CEOになった柴田英利氏には試練が待ち構える
呉氏の後任CEOになった柴田英利氏には試練が待ち構える Photo by Kazutoshi Sumitomo

 呉氏の解任を決断した指名委員会は、同時に後任の選定を始める中で、柴田氏をはじめ6人の常務執行役員を候補として面談を重ね、最終的に柴田氏を選んだ。

 ただ、呉氏の経営を実行部隊として支えたのは柴田氏だ。インターシルとIDTの2件の巨額買収も、柴田氏直下のチームが選定した企業だ。呉氏の解任の理由が経営悪化であるならば、それを実行した柴田氏の昇格には矛盾があるが、それも最終的には、INC
Jが影響力を持つ指名委員会の判断として下された。

 ルネサスのトップは、INCJの意向でトップに就任し、最後はINCJの意向で解任される命運が避けられないようだ。中小型液晶大手のジャパンディスプレイの経営再建に難航するINCJにとって、ルネサスは絶対に失敗できない案件で、特に今回のトップ解任には焦りが滲む。

 「呉さんの解任はトカゲのしっぽ切り」(業界関係者)との声がささやかれる中、柴田氏は、業績、財務、株価とも再び転落したルネサスを立て直すため、いばらの道を進む。特に、呉氏が果たせなかった「ICNJ支配からの脱却」は、一段の重い課題として圧し掛かるだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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