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米国の早過ぎる利下げ姿勢で強まる「バブルの香り」

2019年07月03日 06時00分更新

文● 熊野英生(ダイヤモンド・オンライン

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米国の「早過ぎる利下げ」姿勢で強まる“バブルの香り”
Photo:PIXTA

 金、原油、ビットコインの3つに共通するものは何だろうか。

 答えは、利息が付かない投資対象という点である。これらは、高金利のときは、インカムゲインが加えられないということで敬遠される。

 逆に、超低金利のときは、保有動機が相対的に高まる。過剰流動性がある時には、投機対象として好まれることになる。

「バブルの先行指標」として、この3つの値動きをみると、先々、バブルが起こりやすくなっているかどうかを判別しやすくなる。

金や原油価格の上昇は
投機熱の高まり示す

 今、この3つのこのところの値動きは、バブル的な投機の気配をかなり強く感じさせるものだ。(次ページの図表1、2、3)

 金や原油の専門家は、米国とイランの戦争リスクや、インフレ・ヘッジのための資金シフトを価格上昇の要因として挙げる。

 筆者はそうした安全志向の高まりを否定するつもりはないが、そうしたリスク回避よりは投機熱の高まりで、価格上昇を説明する方が自然ではないかと思っている。

FRBが7月以降、利下げに
“バブル”生みやすい政治環境

 なぜ、今、投機熱が再び高まっているかといえば、そこにはFRB(米連邦準備制度理事会)の早過ぎる利下げの姿勢があるからだ。

 FRBは7月31日(日本では8月1日)に利下げをすることがほぼ確定的だとみられている。

 FRBは7月を含めて、9月、12月に△0.25%ずつ、あと3回の利下げを実行するだろうと多くの人が予想する。

 累計で△0.75%の利下げが行われることで、政策金利のレンジは現在の2.25~2.50%から、1.50~1.75%へと引き下げられることになろう。

 その一方で、米国経済はそれほど減速していない。製造業の景況指標は、かなり高い確率で悪化することが見込まれていて、確かに、悪い予兆は高まっている。

 しかしそれでも、現状は、歴史的な低失業率が続いて、完全雇用である。

 金融政策の常識では、完全雇用のときに緩和するとインフレが加速するから、安易にやってはいけないとされている。

 この常識は少し古いと筆者は思っていて、最近では「インフレが加速する」からではなくて、「バブルが起きやすくなる」からだと書き換えた方がよいと常々考えている。

 FRBは、まだ悪い予兆の段階で利下げに動こうとしていて、それを予防的利下げとしている。しかし、まさしく予防的利下げがバブル・リスクと裏腹の関係にあるのだ。

 金融緩和に対する期待感には、もう1つ別の側面がある。それは、2020年秋に再選をかけた選挙を控えているトランプ大統領が強く緩和を望んでいて、FRBに陰に陽に利下げ圧力をかけてきていることだ。

 トランプ大統領は再選のため、株価上昇とドル安を望んでいる。パウエル議長に対しても、解任を含めて様々な圧力を検討しているという話がある。こうした圧力は、当事者には想像以上の大きさだろう。

 しかしいったん、FRBが利下げに転じると、もはや以前のような引き締め、正常化路線に戻ることは当分無理だと読むことができるし、実際、市場はそう考える。バブルを醸成しやすい政治環境ができている。

世界は再び緩和方向に
過剰債務、将来のリスクに

 株価を上げるために中央銀行はずっと緩和をしていればよい、というそうした政治的思惑とは別に、過剰な金融緩和がもたらす弊害がある。

 それは、不良債権処理を遅らせることだ。これは米国だけではないと思うが、景気拡大期が長期化したこともあって、低格付けの企業債務が急増している。レバレッジド・ローンの拡大はその一例だろう。

 米国が金融緩和をすると、新興国のドル建て債務もその負担が軽くなるが、それにあわせて、それらの国々が債務を再び増やすことも予想される。

 それは将来、米国が再び利上げに転じたときに、債務負担が重くなり、世界経済の火種となるだろう。

 米国が緩和する作用は、米国発の投資マネーが新興国に流れ込みやすい環境をもつくり出す。従って、米国発の緩和マネーがバブルを生み出すとともに、世界中を巻き込んで過剰債務経済を作り上げることになりかねない。

 一方、現在の米中貿易戦争で、対米輸出減から生産が落ち込んでいる中国にも金融緩和の圧力が生じている。

 2019年1月には、中国人民銀行が準備預金率を1%も引き下げた。これは、量的な貸し出し増加の効果が極めて大きい。

 中国では、過剰債務を抱える企業や地方政府に債務を削減させる取り組みが行われてきたのだが、今回の準備率引き下げで債務削減がいったん、停止されて、再び不健全な債務が拡大される事態を招きかねない。

 米中の両大国が緩和方向にかじを切り、そして日欧もいずれは緩和拡大に動く可能性が高まっている。その副作用としてのバブルの兆候が、早くも今回は表れているといえよう。

(第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト 熊野英生)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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