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突然買った本が読めなくなる!電子書籍の「サービス終了」リスクにご用心

2019年07月02日 06時00分更新

文● 沼澤典史(ダイヤモンド・オンライン

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Microsoftは4月2日、電子書籍の販売を中止し、事業を閉鎖すると発表した。これは、このサービスを通じて買った電子書籍は今後読めなくなることを意味し、今回の一件で、同ストアに限らず、電子書籍を利用するユーザーから不安の声が上がっている。そこで、改めてこのような電子書籍のリスクや最新事情をITライターの山口真弘氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)

アクセス権を買っている電子書籍
企業の一存で手元からなくなることも

 

電子書籍には思わぬ危うさがあります。
事業改変などによる電子書籍サービスの終了は今後も必ず起こり得ます(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 電子書籍市場は拡大傾向だ。MMD研究所が2018年8月に全国2093人を対象に行った調査によると、電子書籍の利用経験者は44.7%と半数に届く勢いだ。さらにインプレス総合研究所は、電子書籍の市場規模について2022年度には2017年度の1.4倍、3500億円程度になると予想している。

 着実に市民権を獲得している電子書籍だが、改めて紙の書籍との違いを山口氏に聞いた。

「電子書籍と紙の本の大きな違いは、電子書籍は思い立ったらすぐに購入ができて場所を取らない、持ち歩くのも簡単。またさまざまなデバイスで読めるため、文字サイズや画面の明るさなどを自由に変更できることが挙げられます」

 一方、紙の本は長期的な保存や貸し借り、買い取りが可能。電子書籍はあくまでデジタルならではの特性を生かしつつ、割安にすぐ読める利便性の高いサービスであり、その永久保存版が紙ということになる。ただし、電子書籍にはリスクもある。

「購入すれば必ず物理的に手元に残る紙の本に対して、電子書籍はアクセス権を購入しています。DRM(デジタルコンテンツの著作権を管理、保護するために違法なコピーに制限を加える技術)がかかっていない一部の書籍を除けば、電子書籍ストアがサービスを終了すると、読めなくなってしまうリスクがあります。ただ、出版社が直接データを販売していない以上、未来永劫データをダウンロードできるようにしておけというのは、現実的には難しいと考えられます」

 電子書籍ストアのほとんどは、このアクセス権をいつでも取り上げられる旨を利用規約に書いている。ユーザーは「もうからないから」という理由ひとつで、本を取り上げられてしまう可能性があるのだ。

サービス事業者は運営に四苦八苦
閉鎖寸前のサービスも多数

 メリット・デメリットがある電子書籍だが、そもそも電子書籍はサービスの運営側も手探りの状態だ。iPadが登場した2010年は「電子書籍元年」ともいわれ、以降は多くのサービスが生まれては消えていった。そんな電子書籍サービスの現状を山口氏はこう語る。

「現在、電子書籍は大きく分けて、単行本やコミックなどを中心としたサービスと、雑誌に特化したサービスがあります。前者は『Kindle』や『楽天Kobo』、後者は『dマガジン』などが有名で、後者については読み放題のサービスが一般的になりつつあります。また最近ではこれとは別に、スマホネイティブのサービスとして、一般にマンガアプリと呼ばれる『LINEマンガ』などもシェアを伸ばしています」

 2011年以降、国内だけでも10以上の電子書籍サービスが消えている。サービス事業者が抱える運営の難しさは何か。

「当初、電子書籍ストアは品ぞろえこそが重要といわれましたが、それらが一定レベルに達した現在、他社と差別化を図るのは困難です。値段も横並びですし、電子書籍を表示するビューアの使い勝手や、本を管理する仕組みの利便性をうたっても、なかなかユーザーには響きません。クーポンの乱発も起こっていますが、それも差別化につながらない。生き残りの鍵は、事業者としての信頼性を打ち出していくしかないのが現状です」

 かつてはメーカーである出版社自身が運営する電子書籍ストアが有利と目されていた時期もあったという。しかし、他社のコンテンツの品ぞろえが弱くなる欠点があり、ラインナップが重視されるようになると、その立ち位置は危うくなっていった。

「こうした要因が重なり、いまなお事業としては存続しているものの、赤字ではないギリギリのライン。かといって閉鎖するとユーザーに責められ企業のイメージダウンにつながるため中ぶらりんの状態になっている電子書籍ストアは、多数に及ぶとみられます。特に2010年当初、端末の販売を目的に参入してきた電機メーカー系のストアは、かなり苦しい状況だと考えられます」

著者への利益還元に
優れる電子書籍

 それでは我々は今後、電子書籍のサービスをどのように選択すればよいのか。

「事業改変などによる電子書籍サービスの終了は、今後も必ず起こり得ます。これを避けたければ、電子書籍サービスを選ぶ段階で、ある程度体力がある事業者を選んでおく必要があります。事業のスクラップビルドを頻繁に行い、その後始末をろくにしない事業者が運営する電子書籍サービスは、なるべく使わないほうがよいでしょう」

 所有できないリスクに加え、電子デバイスによる目の疲労といった問題もある。だが、それでも出版システムとしては紙の本よりも優れている部分があると山口氏は続ける。

「電子書籍にもリスクはありますが、紙の本のような自由に貸し借りができ、読み終わったら買い取ってもらえて、著作者には最初の販売時のみで、以後の利益が永久に入ってこない従来のシステムのほうが、むしろ異常だったんです」

 その点、電子書籍は利益の回収を適正に行うことができる健全なサービスだという。しかしながら、一方ではいまだ紙にこだわる人が多いのも事実。電子と紙、その取捨選択はどうすればよいのだろうか。

「長期的に手元に置いておきたい本に限って、紙の本を購入するというのはひとつの考えですが、それ以外は利便性を優先して電子書籍を選んだほうがよいと思います。ただ、電子書籍は紙の本と比べ資源の無駄遣いをなくし、物流コストの削減もできるなど社会的な意義もあるため、今後さらに広く使われるようになっていくのは間違いないでしょう」

 我々ユーザーは、電子書籍のリスクを改めて認識したうえで、付き合い方を考えていくフェーズに入ったのだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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