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JR貨物に押しつぶされる三セク「えちごトキめき鉄道」の不運

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新潟県の地方私鉄「えちごトキめき鉄道」が来春、3割も運賃を値上げすると発表して話題になっている。生活に欠かせない鉄道だけに、いきなりの大幅運賃アップは利用者にも負担が大きいはずだが、問題の根っこを探っていくと、三セク誕生時に、すでに無理なスキームで出発していたことがわかる。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

来春から運賃を3割値上げ
赤字続く「えちごトキめき鉄道」

えちごトキめき鉄道の車両
えちごトキめき鉄道の赤字が続くのは、旅客数の少なさももちろんだが、貨物列車が通る線路を有していることも見逃せない Photo:PIXTA

 新潟県の地方私鉄「えちごトキめき鉄道」は、5月23日の取締役会で普通乗車券、通勤・通学定期を平均30%値上げする方針を決定した。実施は2020年4月を予定している。

 2015年の開業から4年間の平均利用者数は、1日あたり約1万1000人。営業収益は当初計画を4億円上回る年平均42億円を計上しているが、鉄道施設の維持補修・設備更新が想定以上に多額に及んでいることから、費用は計画を7億円上回る年平均50億円となり、平均8億円強の営業損失が生じている。

 列車のワンマン化や設備のスリム化、人員削減など経費削減を進める一方で、リゾート列車「雪月花」の導入、スイッチバック構造の二本木駅の観光拠点化など営業努力も重ねてきたが、収支の改善には至っていない。

 同社は、北陸新幹線の並行在来線としてJRから経営分離された信越本線と北陸本線を継承するために、新潟県が中心となって設立した第三セクター鉄道会社である。今後は老朽施設の大規模更新も想定されることから、地域の鉄道として持続的に経営していくためには値上げが必要だと説明した。

 地元からは反発の声が上がっているが、このタイミングの運賃値上げは既定路線だったともいえる。会社設立時から、経営を成立させるには運賃を30%引き上げる必要があると試算されていたのだ。激変緩和措置として、開業から5年間はJR時代と同水準に運賃を据え置くが、6年目以降の運賃は改めて検討するとしていた。結局、想定通り経営状況は厳しく、値上げを決めたというわけだ。

「えちごトキめき鉄道」と同様に、富山県は「あいの風とやま鉄道」、石川県は「IRいしかわ鉄道」を設立してJRから鉄道運営を引き継いだ。同時に誕生した3社であるが、経営環境は随分と異なる。

同時に設立された2社は
早々に値上げし黒字を達成

 2016年度の各路線の輸送密度(1日1kmあたりの平均乗車人数)は、人口約41万人の富山市を拠点に置く「あいの風とやま鉄道」が7521人、人口約46万人の金沢市を拠点に置く「IRいしかわ鉄道」が1万5361人だ。対して、人口20万人弱で経済規模も小さい上越市を拠点とする「えちごトキめき鉄道」は、妙高はねうまライン(旧信越本線)が2635人、日本海ひすいライン(旧北陸本線)が1065人にすぎない。5年間の運賃据え置きは、旅客の流出を防ぐ苦肉の策だったのである。

 一方、営業エリアに県庁所在地を含む「あいの風とやま鉄道」と「IRいしかわ鉄道」は、開業と同時に普通運賃・通勤定期運賃を14%引き上げた。開業6年目をめどにさらに5%値上げする計画だったが、「あいの風とやま鉄道」は6月14日、2018年度の利用者数が過去最多を記録し、最終損益も黒字を確保していることから、2020年春に想定していた値上げを2022~2023年頃まで見送る方針を表明した。

「IRいしかわ鉄道」はまだ態度を明らかにしていないが、こちらはさらに業績が好調なので、同様に見送られる公算が大だ。両社と「えちごトキめき鉄道」で、明暗がくっきり分かれた格好になる。

 しかし、これは「えちごトキめき鉄道」が抱える矛盾のほんの一部でしかない。同社の2018年度の営業収益36億円のうち、乗車券や定期券の売り上げにあたる旅客運輸収入は、わずか6億円程度。その4倍の24億円を稼いでいるのが、他社の列車に線路を使わせる対価である線路使用料、具体的には日本海に沿って走るJR貨物の貨物列車から得られる使用料なのである。

 仮に運賃値上げによる利用離れが起きず、旅客運輸収入が3割増えたとしても、増収額は2億円に満たない。一方で、貨物列車の運行本数に左右される線路使用料は、2017年度から2018年度にかけて4億3000万円も減少し、経営に大きな影響を与えている。

 同じ旧北陸本線の「あいの風とやま鉄道」の場合、線路使用料は営業収益の約30%、「IRいしかわ鉄道」は約20%だから、「えちごトキめき鉄道」のJR貨物依存が際立っていることがわかる。それでいて、彼らには貨物列車を誘致することも増発することもできないのだから、経営の自主性など元からないに等しいのだ。

貨物列車の走行が
三セク経営に与える打撃とは

 この線路使用料は事実上、国の補助金である。新幹線の開業によって並行在来線は、特急列車の運行が大幅に縮小またはなくなり、普通列車中心の運行にシフトする。従来の重厚長大な過剰設備をスリム化して費用を削減し、地元密着の列車運行をするというのが、並行在来線を継承した三セク鉄道の理想の姿であった。

 ところがJRから分離された後も貨物列車が運行する幹線は、従来の設備を維持し続けなければならない。しかし、三セク鉄道、JR貨物のどちらに設備の維持費用を負担させても経営は成り立たない。そこで、JR貨物は貨物列車が走行することで摩耗する線路の交換費用など最低限の維持費だけを支払い、差額を国が貨物調整金として負担するスキームが構築されたのである。

 だが、貨物調整金が上乗せされても、線路使用料は重厚長大な設備を維持するのに十分な金額とは言い難い。特に「えちごトキめき鉄道」のように旅客収入が少ない三セク鉄道は経営が成り立たないから、地元に積極的な鉄道経営を行う意欲が生まれるはずもない。

 JRや国が負担すべき費用が自治体に転嫁され、自治体が担うべき責任が国とJRに転嫁される、不幸な関係がここにある。最終的には、サービス低下と負担増となって利用者にツケが回ってくる構図である。

 これでは地域交通の存続は不可能だ。大幅値上げによって利用者が離れれば、再び呼び戻すのは至難の業である。公共交通の火が完全に消えてしまう前に、持続可能な仕組みを構築し直さなければならない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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