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「老後2000万円問題」金融庁炎上の陰で公取委がほくそ笑む理由

2019年06月20日 06時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,中村正毅(ダイヤモンド・オンライン

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金融庁が批判浴びた「2000万円問題」で 公正取引委員会がほくそ笑む理由
地方銀行の合併を巡ってできた金融庁と公正取引委員会の対立の構図はいまだ「健在」だ Photo by Masaki Nakamura

一向に火の手が収まらない「老後2000万円問題」。報告書をまとめた金融庁と政権与党との間に大きな亀裂が生じる中で、その様子を陰で笑っている組織がある。公正取引委員会だ。(ダイヤモンド編集部 中村正毅)

 金融庁が6月3日に「高齢社会における資産形成・管理」という報告書を公表して以降、徐々に非難の火の手が上がっていった「老後2000万円問題」。

 高齢者世帯の一つのモデルケースとして、金融資産が約2000万円不足するというシミュレーションを示したにすぎなかったが、折しも7月に参院選を控え、政治家が神経質になっている時期に、鬼門の公的年金制度に対する不安をいたずらにあおってしまった感は否めない。

 そのため、「(報告書の)撤回を含め自民党として厳重に抗議している」(二階俊博・自民党幹事長)、「平均値で出して、2000万円足らなくなるというのは、いささか乱暴な例示だ」(萩生田光一・自民党幹事長代行)、「猛省を促したい」(山口那津男・公明党代表)と、金融庁は永田町から集中砲火を浴びることになってしまった。

「配慮を欠いた対応で、反省するとともに深くおわびする」

 同月14日、報告書を取りまとめた金融庁の三井秀範企画市場局長は、国会でそう言って深々と頭を下げた。

 その様子を見て、「試算として事実を示しただけなのに」という金融庁を擁護する声が多く上がり、次第に批判の矛先が「正式な報告書として受け取らない」とした麻生太郎金融担当相をはじめ、政権与党に向き始めたというのが、これまでの流れだ。

 金融庁としては、世論を一定程度味方に付けた一方で、政権与党を敵に回し、不興を買ってしまったのは紛れもない事実だ。

「正論を言うにしても、言い方とタイミングがあるんじゃないですかね」

 そう言いながらほくそ笑むのは、公正取引委員会の幹部だ。

 政権与党と金融庁との間に亀裂が生じていることを、いい気味だと見ているわけだが、なぜ金融庁にそこまでの敵意を抱くのか。

 最大の理由は、公取委にとって政治とのパイプが細いことが常に悩みの種であり、その弱みに付け込まれるようなかたちで、金融庁との綱引きにこれまで負け続けてきたからだ。

 中でも痛手だったのが、長崎県の地方銀行の合併問題だ。同一県内での銀行合併に対し、市場の独占を懸念する公取委と、地方経済の疲弊を踏まえて合併を促したい金融庁との間で、主張が激しく対立。事態打開に向けて、金融庁が首相官邸に駆け込んだことで、議論の流れが金融庁側に傾いていったという経緯がある。

 さらに、金融庁は昨夏、成長戦略を議論する「未来投資会議」(議長・安倍晋三首相)で、こと銀行の経営統合に関しては、独占禁止法の適用を受けないようにすることを提案したのだ。

「競争を実質的に制限するような企業結合(合併)について、公正取引委員会が排除措置命令をすることは、国際標準に合致した制度であって、そうした制度を日本だけ変えるべきという議論になるとは夢にも思っていない」

 公取委の杉本和行委員長は、記者会見でそう気色ばんでみせたが、議論の流れを変えることはできなかった。

GAFA規制で主役の座狙う独禁当局

 問題の報告書が公表された2日後、政府がまとめた成長戦略実行計画案では、10年間の時限措置ながら銀行の経営統合を独禁法の適用除外とし、統合審査は金融庁が主導。公取委はかたちだけの審査で、実質的にほとんど口を挟めない体制を敷く方針が示されたのだ。

 公取委にとっては完全敗北ともいえる内容で、落胆は大きかった。それだけに、政治との距離の近さを見せつけてきた金融庁が、大きくつまずくそのさまは、留飲を下げるのに十分だった。

「かつての護送船団よろしく、頑張っていただいたらいいんじゃないですかね」

 公取委の別の幹部は、金融庁をそう皮肉る。弱小な銀行を時に過度に保護してきた過去の金融行政に戻って、せいぜい斜陽産業の監督でもしていればいいと言いたいわけだ。

 公取委は目下、今を時めく米グーグルやアマゾンなど、「GAFA」と呼ばれる巨大プラットフォーマーへの規制を巡って、主役の座を虎視眈々と狙っており、組織としての権益拡大につなげようとしている最中にある。

 仮想通貨など金融事業にも乗り出しているGAFAを、公取委が中心となってグリップすることができれば、金融庁との綱引きなど、もはやどうでもよくなるという思惑も垣間見える。

 ただ公取委は、未来投資会議の会合で「デジタル市場についての知見が弱いこともあり、(企業合併の分野において)十分な勘案ができていない」と指摘されてしまうなど、その組織体制はいかにも心もとない。

「談合の摘発ばかりに目を向けて、デジタル分野の知識に乏しいベテラン職員は確かに多い」という声は、公取委の内部からも聞こえてくる。

 組織のプレゼンス拡大に向けて、公取委は今後どう立ち回っていくのか。金融庁をあざ笑うその傍らで、杉本委員長の任期が来夏に迫っていることで「レームダック化」を懸念する声も足元では出始めている。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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