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顧客への直接サービス開始、仮想環境やDBに対応する高度なデータ復旧、テープデータのクラウド移行など推進

データ復旧サービスの世界大手、オントラックが国内事業本格化

2019年06月20日 11時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 データリカバリ(データ復旧)ソリューションの世界大手であるケーエルディスカバリ・オントラック(KLDiscovery Ontrack)が2019年6月20日、新たな事業拠点を東京に設け、日本市場におけるデータ復旧サービスの直接提供を開始した。エンタープライズから個人まで幅広い国内顧客にサービスを提供していく。

 今回のビジネス展開においては、HDD/SSDやRAIDといったローレベルの物理/論理データ復旧に加えて、これまで国内提供していなかったエンタープライズ向けシステム(ストレージベンダー独自のファイルシステム、仮想化環境、データベースなど)のデータ復旧、磁気テープからクラウドストレージのデータマイグレーション(データ移行)など、サービスの幅を拡大する。目標に掲げるのは「今後3年間で国内大手企業1000社へのサービス提供」だ。

 あらゆる業界においてデジタルトランスフォーメーション(DX)と“データの価値”が注目される一方で、経済産業省のDXレポート「2025年の崖」では日本企業が抱えるレガシーシステムのマイグレーションが必須であることも指摘されている。オントラックが日本企業に提供できるもの、そして日本市場への期待について、オントラック・ジャパンの近藤寛子氏、クレイグ・ブキャナン氏に聞いた。

オントラック・ジャパン ビジネス・ディベロップメント・マネージャーの近藤寛子氏、チーフエンジニアのクレイグ・ブキャナン氏

データ復旧サービスで30年以上の実績、DBやストレージ、仮想化環境にも対応

 オントラックは1985年、ディスクユーティリティソフトウェアの開発からスタートした企業だ。その後1987年に世界で初めてデータ復旧サービスを手がけ、それ以来30年以上にわたってデータ復旧のビジネスを続けてきた。現在はeディスカバリベンダーのケーエルディスカバリ傘下の事業部門として、北米や欧州を中心に22カ国(26拠点)でビジネスを展開しており、データ復旧案件だけでも年間で6万件以上(6PB以上)を手がけている。

 オントラックのビジネスは、物理障害/論理障害の生じた顧客システムからのデータ復旧を行う「データリカバリ」、古いバックアップテープのカタログ化やメディア変換などを行う「データマネジメント」、不要になった機密データのセキュアかつ確実な廃棄を行う「エンド・オブ・ライフ(EOL)情報マネジメント」、Microsoft Exchange/SharePoint/SQL Serverに対応した「データベース復元ソフトウェア(Ontrack PowerControls)」の大きく4つに分かれる。おおよそのビジネス比率は、データリカバリが50%、データマネジメントが30%、EOL情報マネジメントとソフトウェアが各10%だという。

オントラックが提供する4分野のサービス/製品

 データビジネスに関して言うと、市場にはすでに多くのデータ復旧ベンダーが存在する。ただしオントラックのサービスで特徴的なのは、エンタープライズシステムに対応した高度なデータ復旧が可能である点だ。たとえばネットアップ、ヒューレット・パッカード エンタープライズ(HPE)、Dell EMCなどが提供するエンタープライズストレージの独自ファイルシステム、ヴイエムウェアやマイクロソフトの仮想化環境、オラクルやマイクロソフトのデータベースなどのデータ消失/破壊に対応するデータ復旧技術をサポートしている。

主要エンタープライズストレージの独自ファイルシステムが論理障害を起こしたケースにも対応

 オントラックではウェスタンデジタル(WD)/HGSTやサンディスクといったドライブメーカーから、上述したストレージベンダーやデータベース/アプリケーションベンダー、仮想化ベンダー、さらにアップルまで幅広いメーカーとアライアンス/テクノロジーパートナー関係にあり、そうしたパートナー経由で顧客企業のデータ復旧を依頼されるケースも多いという。

 近藤氏が紹介したのは、大手通信会社においてIT担当者が誤ってVMware仮想マシン(VMDK)を消去してしまい、社内すべてのメールデータとバックアップデータが一度に消失したという大規模な事故事例だ。ヴイエムウェアの技術サポートチームから紹介を受けたオントラックでは5名のエンジニア/開発者で対応にあたり、PBC(VMDKのメタデータのひとつ)の欠落部分を修復するツールをカスタム開発して、数時間後にはVMDKを100%復旧させてExchangeデータベース(EDBファイル)の抽出に成功した。

 別の事例では、NetAppのFASストレージでドライブ障害が発生し、リビルド途中でさらに2台のドライブ障害が発生したことでディスクアレイ全体がダウン、大規模な共有データの消失が発生した。オントラックは18台のドライブからイメージを抽出し、物理障害による読み込み不能領域に関しては、RAID-DP(ダブルパリティ)コントローラーをエミュレートするツールを開発して可能な限り復旧を行った。その結果、7TB/3000万ファイル超のデータが復旧できたという。

オントラックが手がけたデータ復旧事例2つ

 これらの事例にも見られるように、顧客データをいち早く復旧させるために、個別の障害内容に対応したカスタム復旧ツールを即座に開発できる点もオントラックの特徴だ。同社ではこれを「JIT(Just In Time)リカバリー」と呼んでおり、必要な場合には、作業中断を避けるため世界中のラボエンジニアがリレーしながら開発を進めることもあるという。

 また迅速な復旧を目指す観点から、メディアやストレージを回収してラボで復旧するサービスだけでなく、オントラックのエンジニアがリモートから顧客環境にアクセスしてデータ復旧作業を行う「リモートデータ復旧サービス」を提供しており、そのための独自ツールも用意している。データ規制が厳しく、データセンターからデータが持ち出せない金融系や政府公共系の顧客では、エンジニアを現地派遣する「オンサイト復旧サービス」も利用できる。

“塩漬け”バックアップテープのクラウド移行など、データ活用と効率化も支援

 「データマネジメント」ビジネスもオントラックの事業を支える大きな柱であり、これからの成長が期待できる分野と見ている。具体的には、磁気テープメディアに記録され保存されているバックアップ/アーカイブデータを、さまざまな形で効率化し、活用可能にするソリューション群だ。

 たとえば、古くから保存されているテープのカタログ化(ファイルリストの生成)、新しいメディアへのデータ移行、特定のファイルやデータベースの抽出などがある。もちろん物理障害の起きたテープメディアからのデータ復旧にも対応する。興味深いケースとしては、企業合併やM&Aなどで社内に複数のバックアップシステムが並立することになり、それを統合していく作業のニーズもあるという。

 ちなみにオントラックでは、市場に流通するほぼすべてのテープメディアをサポートしている。また主要ベンダーのバックアップシステムで作成されたテープバックアップについて、そのシステム/ソフトウェアがなくともテープに直接アクセスし、データを抽出する技術を持つという。

データマネジメント分野で提供するサービス群

 ブキャナン氏も携わったという南オーストラリア州の事例は、700本超のテープにアーカイブされた過去のメールデータをすべてマイクロソフトのAzureクラウドに移行し、Office 365に統合するという大規模なプロジェクトだった。抽出したEDBファイルだけでも、容量は1PBを超えるものだったとブキャナン氏は説明する。

 このクラウド移行プロジェクトでは、マイクロソフトのAzureチームとも緊密に連携し、計画が立案/実行されたという。テープから抽出した全データを暗号化された一時ストレージに保存し、EDBファイルを抽出したうえで、大容量データを物理メディアで搬送する「Azure Import Service」を利用してクラウドにインポートし、メールデータをリストアしたという。

南オーストラリア州政府の事例。オンプレミスのExchangeサーバーからAzureクラウドのOffice 365への移行にあたり、マイクロソフトと協力して、ペタバイト級のメールアーカイブデータをクラウド移行させた

 近藤氏は、このようにグローバルパートナーと協力し、技術的な対話も行いながら顧客企業のデータ復旧やデータマネジメントの作業を進められる点がオントラックの大きな強みだと語った。パートナー企業のエンジニアに対するトレーニングも行っているという。また米国にあるR&D組織を中心として、グローバルに点在するラボどうしの情報共有も常に行っていると述べる。

日本国内でもフルサービスを提供、特に「データのクラウド移行」に注目

 日本市場への本格展開を開始した理由について近藤氏は、オントラックとしてアジア太平洋地域(APAC)へのビジネス展開を図っており、日本や中国は特に注力する市場と位置づけられていることを説明した。

 日本市場ではこれまでさまざまなパートナー(ストレージベンダー)のサポートというかたちで間接的に提供してきたが、今後は顧客に直接サービスを提供するかたちとなる。それに伴い、データ復旧以外のサービスもすべて国内展開する。すでに日本国内にラボとエンジニアを備え、さらに今後それを拡充していく方針だ。

 日本市場においてはデータマネジメント分野、特にテープデータのクラウド移行をサポートするビジネスがこれから伸びると見ている。経産省「2025年の崖」レポートで指摘されているように、日本企業が抱えるレガシーシステムのマイグレーションは必須であり、それを契機としてテープによるバックアップ運用も見直しが迫られるためだ。

 また、DXの流れで企業がシャドーデータの活用にも積極的になっている。テープメディアで“塩漬け”になっているデータを、常時アクセス可能なメディアに移すことで監査対応の効率化、さらには新たな“データ活用の芽”も生まれるだろう。近藤氏は、エンタープライズ顧客に対する取り組みにおいては、国内では特にSIベンダーの協力が必要であり、SIベンダーと歩調を合わせながらオントラックのサービスを広めていきたいと語った。

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