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ピエール瀧被告に有罪、薬物犯を摘発する「マトリ」「ソタイ」とはどんな組織?

2019年06月18日 14時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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ピエール瀧被告(4月4日、東京都江東区の警視庁東京湾岸署 )
ピエール瀧被告(4月4日、東京都江東区の警視庁東京湾岸署前で撮影 ) Photo:JIJI

コカインを使用したとして麻薬取締法違反の罪に問われたミュージシャンで俳優のピエール瀧=本名・瀧正則=被告(52)の判決公判が18日、東京地裁で開かれ、小野裕信裁判官は懲役1年6月、執行猶予3年の判決を言い渡した。ところで、瀧被告を摘発したのが警察ではなく、厚生労働省だったことはご記憶と思う。実は瀧被告の初公判があった5日、大麻取締法違反の罪で起訴されたKAT‐TUNの元メンバー田口淳之介被告(33)を摘発したのも同省関東信越厚生局麻薬取締部(マトリ)だった。一方、女優の酒井法子さん、元プロ野球選手の清原和博さん、ミュージシャンのASKAさんを摘発したのは警視庁組織犯罪対策部(ソタイ)である。薬物犯罪の摘発という共通点はあるが、そもそもマトリ、ソタイとはどんな組織なのだろうか。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

ストレス解消で高い代償

 まずは瀧被告の判決内容だが、起訴状通り、3月12日ごろ、東京都世田谷区の自宅とは別のマンションでコカインを吸引したと認定された。

 小野裁判官は「ミュージシャン中心の活動から映画やドラマにも活動の幅を広めたため私生活が圧迫され、ストレスを解消するため映画を観たり音楽を聴いたりしながら使用していた」などと指摘した。

 その一方で、主治医の指導に従い治療のプログラムを受けていることや既に大きな社会的制裁を受けていることを理由に、執行猶予を付した。

 判決の言い渡し後、小野裁判官は「芸能界に復帰できるかどうかは分かりませんが『薬物を使用していなくてもいいパフォーマンス』と思われるように願う」と説諭した。

 瀧被告は判決言い渡しの間、何度もうなずきながら聞き入り、言い渡し後は裁判官席と検察官席に向かって頭を下げた。控訴はしない方針と言う。

 判決公判の後、瀧被告は「多くの皆様に多大なるご迷惑とご心配をかけて大変申し訳ありません。二度とこのようなことを起こさないよう戒めます」とするコメントを出した。

 5日の初公判では黒いスーツ姿で入廷し、小さく一礼した瀧被告。人定質問で本名を名乗り、職業を尋ねられ「ミュージシャンでしたが、事務所を解雇されて無職です」とやや早口で答え、罪状認否では起訴内容を「間違いありません」と全面的に認めた。

 検察側は冒頭陳述で「20代の頃からコカインなど違法薬物を使用するようになった。ミュージシャンとして多忙になり、ストレスを発散するためだった」と指摘。その上で「常習性がある」として懲役1年6月を求刑していた。

 瀧被告は被告人質問で「いつかやめなければ、と。自分に甘かった」「多くの人に迷惑を掛けて申し訳ない」と反省の弁を口にしていた。

 一方の田口被告は起訴状によると5月22日、元女優小嶺麗奈被告(38)と同居していた世田谷区のマンションで乾燥大麻約2.2グラムを所持していたとされる。

 7日に保釈されたが、芸能人が逮捕された際の勾留先としておなじみになった警視庁東京湾岸署の正面玄関を出て、報道陣に向かって「心よりおわびします」と謝罪した。

 そして、約20秒間にわたって土下座し「違法薬物に手を染めないと誓います」「更生して罪を償い、1日も早く信頼を取り戻せるよう必死に生きる」などと訴えた。

マトリvsソタイ

 最近、テレビなどでときどき耳にするようになったが、そもそもマトリとはどんな組織なのだろうか。

 厚生労働省の地方厚生(支)局に設置されている部署で、2001年の中央省庁再編によりそれまでの地区麻薬取締官事務所と地方医務局が統合して発足した。所在地は札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、高松、福岡に計8ヵ所。ほかに横浜と神戸、北九州に分室、那覇に支所が存在する。

 刑事訴訟法に基づく「特別司法警察員」で、強制捜査権や逮捕権を持つ。職務上、危険を伴うため逮捕術や拳銃射撃の訓練を受け、捜査では拳銃の所持も認められている。

 外国人の容疑者らに対処するためさまざまな語学に堪能で、薬物を取り扱うため薬剤師の資格を持つ取締官も多い。

 情報をキャッチするために私服で行動し、客に成り済まして取引に応じる「買い受け捜査」や違法薬物を発見しても押収せずに引き取り手を追尾する「泳がせ捜査」など、さまざまな手法で容疑者を追い詰める麻薬取締官は「薬物Gメン」の異名を取る。

 前述の瀧被告や田口被告のほか、最近では元女優の高樹沙耶さんを摘発したのもマトリだった。

 一方、ソタイは一昔前、各都道府県本部の刑事部に捜査第4課や暴力団対策課の名称で設置されていた部署を組織改編したものだ。

 生活安全部の薬物対策課や銃器対策課などと統合され、暴力団や外国人に対する組織犯罪対策と摘発を目的に発足。警視庁は「組織犯罪対策部」、福岡県警は「暴力団対策部」として独立した「部」として設置されている。

 ほかの警察本部では刑事部内に「組織犯罪対策本部」「組織犯罪対策局」「組織犯罪対策課」などの名称で存在する。

 警視庁のソタイの中では「組織犯罪対策第5課」が薬物と銃器の取り締まりを担当するが、長く蓄積した情報収集能力やマンパワーで、暴力団組員や不良外国人だけではなく、身に覚えのある芸能人らにも恐れられている。

 前述した通り、女優の酒井法子さん、元プロ野球選手の清原和博さん、ミュージシャンのASKAさんを摘発したのはソタイ5課だった。

熾烈なライバル意識

 ソタイへと組織改編される前に警視庁で薬物対策をしていた元中堅幹部(現在は引退)は「別組織だが、当然、お互いを意識している。かぶっているネタ元もあるだろう」と指摘する。

 というのは、元グラビアアイドルでAV女優の小向美奈子さんはマトリ、ソタイ5課の両方に摘発されているからだ。

 また、4月と5月にキャリア官僚が相次いで摘発され世間を驚かせたが、これも両者が競うようなタイミングだった。

 ソタイ5課は4月27日、麻薬特例法違反の疑いで経済産業省自動車課課長補佐の西田哲也被告を逮捕した。

 5月24日に起訴されたが、起訴状によると4月15日、米国から国際郵便で覚醒剤約20グラムを成田空港に密輸。同25日に東京都足立区の自宅マンションで覚醒剤を使用したとされる。

 一方、関東信越厚生局マトリ部は5月28日、覚せい剤取締法違反(所持)と大麻取締法違反(同)の疑いで文部科学省初等中等教育局参事官補佐の福沢光祐容疑者を逮捕した。

 逮捕容疑は同日、東京都新宿区の自宅で覚醒剤と大麻それぞれ数グラムを所持していた疑いだ。

 前述の元警視庁中堅幹部は「あまりに近いタイミング。示し合わせたかのようだ」と驚きを隠さなかった。

 実はマトリとソタイが扱う事件は元締めに至るまでの流通ルートを解明するため、大掛かりな事件の摘発後も発表せず、ニュースにならないことも多い。こうした芸能人やキャリア官僚の摘発など、脚光を浴びる事件はむしろ珍しい。

 しかし地味ではあるが、一般市民の安全を守るため危険を顧みずに尽力しているマトリとソタイの存在は、もっと知られていいと思う。

 警視庁元中堅幹部は「報復の危険性もあるから捜査員の素性などは知られちゃいけないが、こういう組織があることを知ってもらい、情報提供などで協力していただけるとありがたい」と話していた。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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