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「東大IR研究会」メンバーが語るIRで日本の観光業を変える志

2019年06月19日 06時00分更新

文● 松嶋千春(ダイヤモンド・オンライン

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マカオにシンガポール、韓国と、海外のきらびやかなカジノの建物を背景に笑顔をたたえる若者たち。単なる旅行好きのキラキラサークルと侮るなかれ。彼らは、日本の未来を見据え、志を掲げる学生団体「東大IR研究会」のメンバーだ。カジノ産業と若者の関わりを探るシリーズ企画の第4弾は、IR(統合型リゾート)に日本経済を救う産業としての可能性を見いだし、若者視点で同世代へIRの周知活動を行う学生たちにスポットを当てる。(清談社 松嶋千春)

IRは「地域の観光資源」
周知活動に勤しむ若者たち

シンガポールのIR施設、マリーナ・ベイ・サンズ
シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズ。ホテル周辺にはカジノや展示場など、さまざまな施設がある Photo:AA/JIJI

 東大IR研究会の前身は、2015年にカジノゲーム好きのメンバーが集まってスタートした『東大カジノ研究会』。東大を中心に首都圏の大学生から構成されるインカレ団体だ。

 2018年の世代交代を機に、カジノだけでなくIRの魅力発信にさらに注力することを決め、『東大IR研究会』の名に変更したという。同会は、IRを「これからの日本を先導する重要な観光資源」と定義づける。

「日本版IRの基本方針では、カジノの面積はIR全体の3%を上限とし、残りの97%はほかの施設で構成されることになっています。カジノというミクロの点だけが取り上げられがちな状況のなか、まずIRがどんなものなのか、誤解のないように知ってもらうことが重要です。そのためにIR議連の衆議院議員やIR事業者を招いて講演会を開いたり、SNSでIRの説明動画を発信したりするなど、周知活動に力を入れています」(慶應義塾大学 市村くん)

 多くの人は、“IR”と聞いてもどんな施設なのか想像しにくいだろう。シンガポールのホテル『マリーナ・ベイ・サンズ』は屋上の船型プールが有名で、ホテル単体で“リゾート”というイメージが付いているかもしれない。しかし、ホテル周辺にはカジノや展示場といった多くの施設が存在する。それらは利用者の動線や利便性などが綿密に計算されて配置され、全体がそろって初めて完成される統合型リゾートなのだ。

「IRを活用することで、IRの施設だけでなく周辺地域の観光資源に触れる機会が生まれますが、その点はなかなかフォーカスされません。日本版IRの成功には、このIRを基点とした地域一体型観光に、ひとりでも多くの人が主体的に参加していく必要があると考えています」(市村くん)

海外IRのインターンに展示会参加も
ビジネスレベルで現場を知る

日本版IR(統合型リゾート)構想図  東大IR研究会作成
日本版IR(統合型リゾート)構想図  東大IR研究会作成

 同会では、日本版IRを「大きな雇用の場」としても注目し、未来の経営者となる人材育成に取り組んでいる。IR研究会のOBや事業者の協力を得ながら、海外IRの視察や研修に参加し、現場レベルでのマネジメントを学んでいるという。

 昨年、シンガポールで1ヵ月間のインターンシップに参加したメンバーがいる。この研修ではIRのほぼ全ての部署(企画、セキュリティ、エンターテインメント、総務・財務)を3人1チームで回り、各部署で約1週間、現場業務を体験したそうだ。

「各部署の研修の締めくくりとして、現場で得た学びを織りまぜながら英語でプレゼンしました。そのようなビジネスコンテストのような要素もあり、貴重な経験となりました。また、インターン先には博物館や子ども用のプール、近隣にはテーマパークがあって、家族で楽しめるエンターテインメントが提供されていることにも驚きました。IRというと“大人が楽しむリゾート”というイメージを抱いていましたが、同じ国でも周辺環境や戦略によって色が異なるというのは、新鮮な発見でした」(中央大学 加藤さん)

 日本での活動は、各IR候補地の視察に、アミューズメントカジノイベントやIR関連の展示会の運営補佐など、多岐にわたる。

「長崎県と和歌山県のIR推進室の方にお会いして現状をヒアリングし、学生を絡めたPR活動ができないか、というお話をしました。現地の大学の観光学部の学生と連携しつつ、取り組んでいけたらと思っています。また、海外事業者も参加する展示会に英語でアテンドしたり、商談に立ち会ったりすることもあり、非常にやりがいがありますね」(東京大学 日高くん)

それぞれの学びを
IRへのアプローチに落としこむ

日本版IR(統合型リゾート)構想図  東大IR研究会作成
日本版IR(統合型リゾート)構想図  東大IR研究会作成

 今回取材させてもらった3人は、所属する大学も学部も異なる。いずれもIRを専門に教えるプログラムなどはない環境だが、おのおのの学びがIRの着想に生きている。

「私は中国の言語・文化・思想を中心に学んでいます。もっと深掘りするために、中国横断の旅にも出ました。中国の富裕層はアジアマーケットにおける重要な顧客として注目しています。中国文化への理解や身につけた語学力を生かし、IR事業に携わっていきたいです」(加藤さん)

「教養学部に所属し、さまざまな分野の知見を広げています。IRは多角的に攻められる産業だと思うので、これから自分がどこから携われるのかを考えているところです。IRのマネジメントに広く携わってもいいし、ほかの産業から参入できるところをピンポイントで攻めてもいい。とにかく色んな夢のある産業なので、そういった意味でも学生に広く知ってもらいたいです」(日高くん)

「自分で構想したIRプロジェクトに対し、建築デザインやWebサイトのプログラミングからアプローチし、各専門分野の教授からアドバイスをもらいながらブラッシュアップしています」(市村くん)

「IRのある日本社会」に向け
越えるべき課題とは

 さまざまな活動を通じて事業者・当事者レベルで知見を深める彼らは、きたる日本版IRに向けてどのような思いを抱いているのか。

「日本にどうやって貢献しようかと考えたとき、人口減少や社会保障費増でどんどん赤字が増えていくこの状況のなかで、観光業は大きな力になると考えています。世界の高級ホテルのスイートでは1泊数百万円が一般的ですが、日本の高級ホテルは1泊数十万円程度が大半で、現状は富裕層向けのプランが手薄です。超VIP向けの高い部屋を作るのも有効ですし、日本ならではの四季を生かした観光プランを提供するなど、海外の人により魅力を感じてもらえるサービスを精査していくことが重要だと思っています」(加藤さん)

「“カジノ反対!”みたいな、臭いものにふたをするような対応には違和感を覚えています。日本には多種多様なギャンブルが存在し、依存症の人はすでにたくさんいます。だったらカジノを受け入れたうえで、既存の問題も含めてきちんとギャンブルと向き合う制度を確立していく必要があると思います。また、IRは統合的な施設なので、まちづくりと兼ねて未来的な理想の都市をつくるという、そのくらい大きな風呂敷を広げて考えることもできる、良いきっかけになるのではないでしょうか」(日高くん)

「日本版IRは3ヵ所と決まっていますが、その後はどんどん増えていくと予想します。我々は80歳まで仕事をするような世代なので、人生のキャリアとして、IRは切っても切り離せない存在になるでしょう。今はひとりでも多くの方にIRの魅力を伝え、IR産業を先導する第一人者になれるよう邁進してまいります。2030年、2040年頃には我々世代が産業の中核を担い、世界に誇れる国際リゾートを作っていきたい。日本版IRによって、日本がより良い場所になることを願っています」(市村くん)

 彼らは「IRの認知を広めたい、盛り上げたい」という共通の志を持って活動している。ともすれば、こういった活動は誰かが掲げた方針に乗っかったり、盲信的になったりしてしまいがちだが、彼らはあくまでも主体的だ。

 異なるバックボーンを持つ若者が、それぞれの視点から問題を捉え、有機的に議論する。そんな光景を目の当たりにして、彼らが活躍するであろう、近未来の日本が楽しみでならない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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