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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第94回

AppleがiPadOSをリリースする5つの理由

2019年06月25日 17時00分更新

文● 前田知洋

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 iPad Proでペン習字の練習をしていますが、あまり上達しない筆者です。さて、Appleが新製品や新サービスを発表する、WWDC 2019(Worldwide Developers Conference 2019)が6月3~6日にサンノゼで開催されました。

 新機能が満載の「iOS 13」、リニューアルされた「Mac Pro」、「6Kディスプレイ」など、発表は盛りだくさん。なかでも話題になっているのが、いままでiPhone/iPod/iPadで共有だった「iOS」から、iPad専用OSとして分離したiPadOSです。iPadOSの新機能は各メディアがこぞって紹介しているのはご存知の通りです。ここでは、APPLEがなぜこのタイミングでiPadOSをリリースするのか、その理由について考察してみようと思います。

ドイツで使われていた1894年頃のスレート(Photo:GodeNehier, CC BY-SA 4.0)

1 インターフェイスは原点に戻る

 19世紀ごろまでは「Slate(スレート)」と呼ばれる、ノートサイズの黒板が様々な場所で使われていました。その当時、ペンとノートは比較的高価な文房具で、書いては消せる携帯用の黒板は繰り返し使えることから、学校などヨーロッパを中心に広く普及。当時のスレートの写真をご覧いただくと、iPadなど、現代のタブレットにとてもよく似た形状であることに驚かされます。つまり、筆記作業は、ざっくりと、スレート(小型黒板)→ノートとペン→ノートPC→タブレット(つまり、デジタルなスレート)という道を戻っていることがわかります。その脇道としては、PDA(パーソナル デジタル アシスタント:PalmやNewtonなど)、スマホなどもあります。しかし、小さな画面に指で入力するiOS/Androidに比べると、スレートに石筆で書いたように、Apple Pencilで入力するスタイルはインターフェイスの原点回帰でもあります。その独特なサイズや用途に特化したiPadOSに移行するのは自然な流れでもあるともいえます。

2 「マウス、キーボード、指先からペンへ」入力デバイスの変化

 上でも少し触れましたが、デスクトップPCのキーボードとマウスによる入力や操作から、ノートPCではキーボード+タッチパッドへ移行。さらにスマホの登場で指や音声による入力が主流になりました。古くからのガジェットユーザーの方はご存知でしょうが、PDAでは爪楊枝と箸の中間くらいのサイズの棒での操作で苦労しました。

PDA「Apple Newton」右上が入力用のテレスコープタイプのスタイラス(Photo:Michael Hicks, CC BY 2.0)

 話をiPadに戻すと、いままでのiOSではペンシルのリフレッシュレートが20msから、新たに登場するiPadOSでは9msに強化。手書きの書き味や入力速度が期待され、速記などにも対応できるようになるはずです。

 スマホなどの画面サイズ+指入力では、買い物リストの作成やショートメッセージのやりとりなら負担はありませんが、ちょっとした長文を入力するにはiOSでは不足気味だったことが解消されます。

 記者会見会場や新幹線などで遭遇する、ノートPCのキーボード入力の「カチャカチャ」音。そんなノイズが邪魔になった経験があるのは、けっして筆者だけでないはず。そうした環境面でのレガシーになりつつある入力デバイスからの移行も、iPadOSの登場で加速することが期待されるでしょう。

3 プラットフォームバランスの急変化

 マーケットシェアがデスクトップPCからノートPCへシフトし、近年になるとスマートフォンが爆発的に普及。さらに両PC自体のシェアも、ゲームPCを除いては、減少傾向にあるといわれています。しかし、いままでのPCで作業されていた、そのすべてがスマートフォンで代用できるとは限らず、そのスポットをかろうじて埋めていたのがタブレットでした。今後さらにそのスポットの拡大が予想されることから、Appleがさらにシェアを広げようと、iPadOSを投入するのは自然かもしれません。

4 アプリをサードパーティにまかせることでリソースを集中できた

 Appleはいくつかの主要アプリを除き、サードパーティがアプリをつくるビジネスモデルを確立しました。さらに、その収益の一部をAppleが再投資できることが大きなメリットになっています。そのリソースを集中させることにより、iPhone、iPod、iPad用のiOSの完成度を高めてきました。今回、そのiOSからiPadOSを分離し、それぞれを特化されることでメリットを生み出そうとしています。そのメリットには、(多少の変化はありつつも)iOSファミリーの使い心地の継続性や、ユーザーがいままで購入したサードパーティによるアプリの継承も含まれています。

5 「調べる、コミュニケーション」から「創造すること」への目的のシフト

 同時に2つのアプリを並べての作業、macOSとの連携などが、新しいiPadOSでさらに強化されます。ムービー編集や音楽編集にも特化した、A10~A12X Bionicをそれぞれのモデルに搭載したことで、いままでブラウジングやコミュニケーションの目的から、ムービー/ミュージック/資料制作の機能を充実させます。処理速度を含め、ハードとしては今後も進化を続けていくことが予想されます。その作業領域はいままでデスクトップPCでまかなわれていた分野も網羅しつつあります。いままでのタブレットの主目的であった「調べる、コミュニケーション」から「創造すること」へのシフト。それを充実させるには、iPadOSの登場は必然であると予想されます。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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