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米欧政治の「新潮流」は気候変動、移民対策と財政出動

2019年06月12日 06時00分更新

文● 末澤豪謙(ダイヤモンド・オンライン

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米欧政治の“新潮流”は気候変動、移民対策と財政出動
Photo:PIXTA

 欧州議会選挙などの結果や来年の米大統領選に向けての動きから、欧米の政治を動かす「3つのキーワード」が見えてくる。

 既存政党の影響力低下がさらに進むのか、草の根の新たな政治勢力の力がさらに増すことになるのかは、この“新潮流”への対応次第だ。

混戦の民主党大統領選候補
バイデン氏、気候変動対策掲げる

 2020年11月3日の米大統領選に向けた民主党大統領候補の指名争いには、すでに24人が名乗りを上げ、大混戦になっている。

 その中で、支持率では、知名度に勝るジョー・バイデン前副大統領だけが、30%台をキープ、頭一つ抜け出した状況が続いている(次ページ図表1)。

 ただし、まもなくスタートする民主党候補のテレビ討論会では、弁舌に勝る若手候補や、過激な主張を掲げているリベラル派の候補に注目が集まり、支持率も変動する可能性が高い。

 そうした展開を意識してか、バイデン氏は4日、気候変動への取り組みに関する提案を発表した。

「10年間で5兆ドル」投入
「グリーン・ニュー・ディール」を意識

「Joe's Plan for a Clean Energy Revolution and Environmental Justice:クリーンエネルギー革命と環境正義のためのジョーの計画」と題した提案では、2050年までに100%クリーンエネルギー経済と二酸化炭素(CO2)排出量を差し引きゼロにすることを達成するため、今後10年間で1兆7000億ドルを投じるとした。

 これに加えて、3兆3000億ドルを民間投資および州・地方自治体による歳出から拠出し、合計5兆ドルを地球温暖化対策にあてる考えも示した。

 財源としては、トランプ政権が実施した法人向け減税や化石燃料向け補助金の廃止、CO2排出者の負担増分などをあてることを提案し、これらの施策により、米国では追加で、1000万人を超える給与の高い雇用が生まれるとしている。

 今回の提案は、明らかに、サンダース氏らと同じ草の根の政治を掲げるアレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)下院議員らが米議会に提出した「グリーン・ニューディール」決議案を意識したものだ。

 バイデン氏も気候変動対策と、その推進による雇用対策を大統領選の主要公約に掲げることで、リベラル派からの支持拡大を狙ったものといえそうだ。

 バイデン氏は提案の中で、気候変動を国家安全保障の最優先課題とするとともに、世界有数の温室効果ガス発生国にもかかわらず、国際的な温暖化対策の枠組みへの参加や数値目標のコミットに消極的な中国を名指しして非難した。

 中国が気候変動対策に関する公約を守るよう、強力な新しい方策を追求するとしている。また、中国が石炭輸出を助成したり、炭素汚染をアウトソーシングしたりするのをやめさせるとしている。

 トランプ大統領から貿易問題等で対中姿勢が弱腰と批判されたせいか、提案では中国に対する厳しい姿勢を示している。

民主党の公約に
雇用や社会保障の拡充

 ただ、現時点では支持率がトップのバイデン氏だが、民主党予備選に勝ち残り、最終的に本選でトランプ氏と一騎打ちの勝負をすることになるかはまだわからない。

 実際、トランプ氏が2016年の大統領選に出馬を表明したのは、今から4年前の2015年6月16日だが、当時は泡沫候補でしかなかった。

 しかし、その後、メキシコ国境への壁建設や対外貿易赤字の削減、雇用拡大など、「米国第一主義」をうたった過激な主張が有権者に支持され、共和党のテレビ討論会を経て、筆頭候補に躍り出た経緯があるからだ。

 民主党の予備選の結果を現時点で予想するのは難しいが、誰が民主党の大統領候補に指名されても、その公約に気候変動対策と、雇用や社会保障拡充のために積極的な財政政策が盛り込まれることはほぼ確実といえそうだ。

欧州でも格差是正で財政政策
デンマークでは中道左派が勝利

 気候変動問題や財政出動は、欧州でも、移民・難民問題と並んで重要な政治テーマとなっている。

 5月23~26日に実施された欧州議会選では、緑の党グループが躍進した。

 一方、6月5日に実施されたデンマーク総選挙(一院制、定数179)でも、気候変動対策や社会保障の充実を訴えた党が伸長した。

 最大野党の社会民主党を含む中道左派系の政党の獲得議席が中道右派系政党を上回ったことで、4年ぶりに政権交代が実現する見込みとなった。

 国営デンマーク放送協会によると、獲得議席は中道左派の社会民主党が第1党を維持し、48議席(改選前47議席)を得た。

 同じく中道左派ないし左派の急進左翼党の16議席(8議席)、社会主義人民党の14議席(7議席)、赤緑連合の13議席(14議席)を合わせると91議席となり、過半数の90議席を上回った(グリーンランドとフェロー諸島の計4議席除く)。

 ラスムセン首相率いる現政権与党の自由党も43議席(34議席)を確保したが、閣外協力していた反移民を掲げる国民党は16議席(37議席)と大きく議席を減らした。

 また、連立を組んでいた自由同盟、保守党を合わせても、4党で75議席にとどまった(図表2)。

この結果、デンマークでは、4年ぶりに社会民主党主体の中道左派政権に政権交代が行われる見通しになった。社会民主党のフレデリクセン党首が首相に就任すると見込まれる。

行政サービスの充実掲げる
移民は受け入れ抑制に転換

 日本は「中福祉・低負担」といわれるが、デンマークは「高福祉・高負担」の代表格だ。

 OECD諸国でも毎年のように、ルクセンブルクやフランスと国民負担率トップを争っており、2015年は65.8%と7割近い。日本は42.6%(同)。

 今回の選挙戦では、社会民主党など中道左派勢力は、従来の移民に寛容な政策を転換し、移民抑制策にかじを大きく切ったことで、国民党などから有権者を引き戻した。

 また、ラスムセン首相が社会保障費の削減に取り組んだのに対し、行政サービスの充実を訴えたことも奏功したと考えられる。

 欧州議会選挙の結果を見ても、気候変動問題に加え、移民・難民問題や貧富の格差を是正するための財政政策に、有権者の関心が集まっているといえそうだ。

 同時に目立つのが、既成政党の退潮だ。

既成2大政党の退潮続く
独は歴史的大敗で党首辞任

 欧州議会選挙は、英国で、メイ首相の退陣表明時期を早めることになったが、ドイツでも、同選挙の結果を受けて6月に入り、政変が起きた。

 キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)のアンゲラ・メルケル政権と大連立を組んでいる社会民主党(SPD)のアンドレア・ナーレス党首が2日、党首と議会会派代表の職を辞任する考えを示し、3日に正式に辞任した。

 ナーレス党首の辞任は、欧州議会選と同党の牙城である北部自由ハンザ都市ブレーメンの州議会選で歴史的な大敗を喫したのが引き金になった。

 ナーレス氏は、同党が2017年の連邦議会選挙で大敗し、当時のマルティン・シュルツ党首が辞任した後、2018年4月に、SPDの歴史で唯一の女性党首に就任した。

 党勢の回復を目指してきたが、大連立のもとで存在感が埋没して、CDU/CSUと同様に支持率が低迷、州議会選挙や欧州議会選挙でも敗退が続き、大連立推進派だったこともあって責任論が高まっていた。

 新たなSPD党首には、大連立離脱派が就任する可能性もあり、そうなれば、CDUの党首を退任しているとはいえ、メルケル首相にとっても打撃となる。

 仮に、連邦議会選挙が前倒しになれば、メルケル氏は首相職も退任となる可能性が高い。ただし、メルケル首相と後任のCDU党首のアンネグレート・クランプ=カレンバウアー氏とは不仲説が伝えられており、CDUでも「お家騒動」に発展する可能性がある。

 欧州では戦後、中道右派と中道左派の勢力が、各国で2大政党グループを形成してきたが、過去数年、大きな変化が見られ、直近の一連の選挙でもその流れは強まった感じだ。

 米国や英国ほど2大政党制が明確でなかったのは、大陸諸国はフランスを除き、完全比例代表制や小選挙区と比例代表の併用制の国が多いためと考えられる。

 だが、英国やフランスでも2大政党は衰退し、フランスでは、中道右派でも中道左派でもない新興のリベラル政党「共和国、前進」を立ち上げたエマニュエル・マクロン氏が、2017年5月に大統領に就任した。

 英国でも、保守党と労働党は今年5月の地方議会選挙で大敗。5月23日に実施された欧州議会選では、特に保守党は歴史的大敗となり、直後にメイ首相は辞意を表明した。

 ドイツも小選挙区と比例代表の併用制だが、戦後のドイツ政界ではCDUかSPDが首相を輩出してきた。

 ただし、前回、2017年9月の連邦議会選挙では、メルケル首相の出身母体であるCDU/CSUも、SPDも得票率・獲得議席が大幅低下・減少した。

 一方、2大政党以外の、ドイツのための選択肢(AfD)、自由民主党(FDP)、左派党(Linke)、緑の党(Grune)の4党が議席を確保することになった(図表3)。

 ドイツ連邦議会選挙では、比例代表に関し、連邦全体での得票率が5%以上あるか、3つ以上の小選挙区で勝利した政党のみに議席が配分され、それらを満たさない政党は除外される(小選挙区での当選は有効)。

 SPDは足元の世論調査では、支持率で緑の党に劣後しているものが多く、二大政党制の体をなさない状況になっている。

 今回の欧州議会選でも、SPDは過去最低の15.8%の得票にとどまり、緑の党(20.5%)に抜かれて第3党に転落。牙城とされるハンザ自由都市ブレーメンでも、同日投開票の州議会選で戦後70年以上維持してきた第1党の座をCDUに奪われた。

緑の党やポピュリスト政党が台頭
多極化、分極化が進む

 こうした2大政党に代わって欧州各国で、台頭しているのが、極右政党、ポピュリスト政党、そして緑の党だ。

 イタリアでは、2018年3月の上下両院総選挙で与党民主党などの中道左派連合が大敗、ポピュリスト政党の五つ星運動と極右の同盟によるEU懐疑派の連立政権が同年6月に発足、今に至っている。

 特に、移民排斥を掲げた同盟はその後も支持率を伸ばし、五つ星運動を抜いてトップに立っている。

 今回の欧州議会選挙でも、EU全体で中道右派(EPP)と中道左派(S&D)の2大政党グループが議席を大きく減らす一方、EU懐疑派の政党グループや、リベラル政党グループ、緑グループが議席を拡大させており、欧州政治の多極化、分極化が進行している(図表4)。

潮流変化の背景に
格差拡大と移民・難民問題

 欧州の政治潮流を大きく変化させた背景に、所得及び資産の格差拡大とともに、移民・難民問題があることは明らかだろう。

 シリア内戦や中東・アフリカ情勢の悪化に伴い、2015年には100万人を超える難民が地中海経由、欧州諸国、特にドイツ、フランス、イタリア、英国等に押し寄せた(図表5)。

 欧州の政治の多極化や分断、混乱はその後に発生している。

 2016年6月23日に英国で実施されたEU離脱の是非問う国民投票では、51.9%対48.1%で離脱が多数となり、デーヴィッド・キャメロン首相(当時)は退陣を余儀なくされた。

 その後の英国政治の混乱は、説明するまでもないだろう。

 ドイツの連邦議会選挙で2大政党が大敗したのは2017年12月。イタリアの政権交代も、難民や移民が押し寄せた後に起きた。

 イタリアではその後、経済が悪化したが、同盟の支持率が上昇した。その理由として、新政権がEUの財政規律に違反する予算を編成したことに加え、難民の受け入れを拒否したことも大きい。

 移民・難民問題は、米国でもトランプ政権誕生の大きな原動力になったが、2020年の大統領選に向けトランプ大統領は、当面、株価や経済よりも、コアの支持者向けアピールに繋がる移民排斥政策を推し進める可能性が高そうだ。

 不法移民への対策が不十分だという理由で、5月30日に突如、打ち出されたメキシコに対する5-25%の関税は一転、「無期限延期」とされたが、今後も大統領選を意識して、トランプ大統領が移民・難民問題で新たな措置を打ち出す可能性は消えない。

グローバル化の負の部分が
リスク要因に

「ベルリンの壁」崩壊後、一挙に進んだグローバル化は、貿易の拡大など世界経済の成長要因にもなったが、今や貿易不均衡問題に加え、移民・難民問題や格差拡大などが、各国にとっての大きなリスク・ファクターになり始めている。

 世界の政治のキーワードは、気候変動・移民・財政出動といえそうだ。

(SMBC日興証券金融財政アナリスト 末澤豪謙)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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