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松村太郎の「西海岸から見る"it"トレンド」 第259回

ファーウェイ問題で感じたテクノロジーと国家対立の憂鬱

2019年05月25日 09時00分更新

文● 松村太郎(@taromatsumura) 編集● ASCII編集部

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ファーウェイ問題は日本にも影響を与えつつある

 米中貿易戦争、一端は前向きな雰囲気にも見えましたが、米国は矢継ぎ早に新たな関税とファーウェイに対する制裁強化を打ち出し、緊張状態が高まっています。

米国製品の実質的な禁輸措置を意味する、ファーウェイのEntity List入りが記された米商務省の発表文

 米国はすでに10%の関税をかけている中国からの輸入品に対して、関税を25%に上げました。また、現在まだ関税がかけられていない残りの品目についても、25%の関税をかける準備を進めていると報じられました。加えて、ファーウェイと関連各社に対する米国企業による許可のない取引を禁止する決定も下されました。

 Androidを開発するGoogleが、オープンソース以外のソフトウェアやサービスの提供を取りやめることで、今後発売されるAndroidスマートフォンで、Google PlayストアやGmailなどのアプリが利用できなくなる可能性が出てきました。

 加えて、ソフトバンクグループでチップ設計技術を持つ英国ARMも、米国由来の知財が関わる技術について、米国のファーウェイとの取引制限に加わることになりました。これはむしろGoogleの決定よりも重大な話とみるべきです。

 ファーウェイは既存のデバイスについて影響がないとしていますが、日本のキャリア各社はファーウェイ端末の発売や予約開始を延期する措置をとるなど、日本の消費者にも影響が出始めました。

 ファーウェイはGoogle以外の独自ソフトウェアの可能性について言及しているようで、現在のファーウェイの規模と、そもそもGoogleやFacebookなどのサービスが中国で使えない現状などを考えると、これまでの欧州、日本、韓国の企業がチャレンジしてきた独自OSの失敗とは異なる文脈を読み取ることができます。

 しかし、それでいいのでしょうか?

そもそもは経済ではなく、安全保障の問題だったはず

 少し整理しておきたいのは、今回のファーウェイ制裁が米中貿易戦争による影響はあるものの、そもそもは別の問題であったという点です。

 トランプ政権は中国との貿易不均衡を是正しようと、中国からの輸入品に関税をかけていますが、ファーウェイをはじめとする中国通信企業排除の動きは、トランプ政権以前から存在していました。

 中国の通信機器には「安全保障上の問題」が存在するという、経済とは異なる理由で排除の動きがあったわけです。トランプ大統領が中国の通信企業に対して警戒感を強めているというのは逆で、安全保障上譲れないはずの通信企業の排除を、貿易不均衡という経済問題のカードとして活用しているのです。

 実際にトランプ政権では、ZTEに対して制裁金という形で米国でのビジネスへの復帰を許しています。ファーウェイに対しても、90日間の猶予が与えられており、米中の交渉次第では緩和の期待が向けられています。

 個人的には、自由な貿易環境に戻ることこそが、テクノロジーの発展に役立ったり、規模が必要な新しいテクノロジーの普及を助けると考えています。そのため、貿易交渉のカードとしてトランプ政権がファーウェイを許しても解決としては中途半端だと思います。

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