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横浜F・マリノスの新スポンサーとなったヘイズのCMOに聞く新しいスポンサードの形

スポーツチームは自分たちのブランドパワーを理解しきれていない

2019年05月23日 06時00分更新

文● 末岡洋子 編集● ガチ鈴木/ASCII編集部

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――スポンサー契約では単にロゴの掲出にとどまらない支援をしてきたとのことですが、これまでの活動を教えてください

Douglas-Home氏 これまで企業スポンサーは自社名を露出するという一方的なものでした。現在スポンサー契約は戦略的なものとなり、双方向性があります。ヘイズの場合、オフィシャル・リクルートメント・パートナーとして、クラブが専門家を必要とする場合、そのニーズを満たすことができます。

 この6年の間、シティ・フットボールには約100人のリクルートを支援しました。シンガポールの営業担当、ニューヨークの財務担当者、マンチェスターでのファンリレーション担当、デジタルマーケッター、法務担当などです。横浜F・マリノスでも同様に、クラブが求めるプロフェッショナル人材のニーズを満たすことができると期待しています。

 ヘイズ側のメリットとしては、コンテンツもあります。我々はLinkedInでのフォロワーが世界で上位30に入っており、リクルート企業で最大です。これまでマンチェスター・シティの女子選手の引退後のキャリア、コーチの国際移籍などのストーリーを発信しましたが、このようなコンテンツはとてもパワフルで、我々のフォロワーに訴求しています。今回の提携により、今度はヘイズジャパンがマリノスとの関係についてLinkedInで発信していきます。

 それだけではなく、ヘイズ社員が自分の会社のスポーツスポンサー活動を誇りに思うという好影響もあります。ニューヨーク・シティはニューヨークのチームですが、我々はアメリカ中にオフィスがあり、営業担当のインセンティブとして、試合の見学やスタジアムのツアー、選手との会談などがあります。同じようなことをマリノスでもやりたいと思っています。このように、社員への影響も今日のスポンサーシップにとって重要なことです。

――スポーツチームはどの分野の人材を必要としているのでしょうか?

Douglas-Home氏 スポーツはエンターテイメントであり、これまでのフォーカスはピッチでの勝敗だけでした。現在、ビジネスとして放映権、チケット、スポンサーの3つの売上をしっかり出していく必要があります。

 クラブにより異なりますが、サッカーは商業と競技の2つの側面が平行して動いており、お互いに協業が必要です。商業面は競技面での成功のための支援であり、スポンサー契約、ファンとのエンゲージ、営業やマーケティング、財務や労務、人事などで、それぞれ専門知識を持った人がプロフェッショナルに業務をする必要があります。

――日本のスポーツビジネス市場をどう見ていますか?

Douglas-Home氏 まず一般的な流れとして、インターネット前はどのスポーツもその国、地方が中心で、一部を除き世界で放映されることも少なかった。インターネットが普及すると動画ストリーミング、ソーシャルプラットフォームなどにより、誰でも・どこのチームでも・どこからでも楽しめるようになりました。例えば、ヘイズのシンガポール在住のアイルランド出身の社員はJリーグのファンで、いつも私にJリーグ情報を教えてくれます。

 日本はスポーツが文化に組み込まれていると理解しています。人気が高いのは野球ですが、サッカーの人気も高くなっています。サッカーはグローバルなスポーツで、Jリーグが海外選手を引きつけることができ、日本の選手が国外のリーグでも活躍できるようになってくるとさらに進展するでしょう。日本ではオリンピック、ラグビーW杯も控えており、市場が活気付く要因が揃っています。10年後、市場は大きくなっており他国との差も縮小されると予想します。

――ヘイズは世界の大手グローバル企業との付き合いがありますが、それらと比較したとき、スポーツチームに足りないものはありますか?

Douglas-Home氏 一般的に、スポーツのクラブや運営組織はこれまで、自分たちのブランドパワーを理解していなかったように思います。マンチェスターユナイテッド、レアルマドリード、バルセロナなどは自分たちのブランドを確立し、巨大なバリューを持っているのに対し、他のチームは潜在性に気がつき始めた段階といえます。

 一旦理解すると、改善は早いです。中でもマンチェスター・シティはブランドへの投資という点では先陣を切っています。プレミアリーグはプレシーズンツアーにアジアでプレーしますが、その理由はアジアでファンベースを確立していることを理解しているからです。ファンベースがあり、露出を強くすることでもっとブランドを強くできます。

横浜F・マリノスのオフィシャル・リクルートメント・パートナーに就任発表後の4月24日、マンチェスター・シティとのパートナーシップ契約を2023年まで更新したと発表。2013年の契約以来、2回目の更新で10年以上の継続が決定した

 スポーツをブランドにしたという点で、第一人者はビョルン・ボルグでしょう。現在なら、フェデラーなど一部の選手は成功していますが、まだ着手していない選手もいます。サッカーも同様です。クラブの財務的状況は改善しており、次のステップとしてブランドのパワーをもっと理解すべきだと思います。

――日本のスポーツチームの多くはこれまで内部人材が中心で、外部人材の取り入れは簡単ではありません

Douglas-Home氏 確かにスポーツは内部人材に偏りがちなところがあり、その場合狭い世界観になってしまいます。

 ニューヨーク・シティは、2015年にゼロからスポーツしたクラブです。ヘイズは人材を手伝いましたが、シティ・フットボールはニューヨーク・シティの立ち上げにあたり、意図的にスポーツ以外の分野の人を採用しました。勇敢な決断です。実際、ニューヨーク・シティはその後、商業面で成功しています。報道によると、2016年のレギュラーシーズンではリーグの中でも最も高いレベルのファン数を擁しています。Forbesは2016年、チームの市場価値を2億8500万ドルと評価しましたが、これはメジャーリーグサッカー(MLS)で3番目です。グッズ販売でもMLS市場最高記録を出しています。

 マンチェスター・シティもスポーツ以外から雇用しておりヘイズは支援しました。外部人材の活用は最近のトレンドです。チームにとって商業面がとても重要になっており、財務状況を改善することによりチームやスタッフに良い影響が出るからです。クラブはこれまでにはないアドバンテージを追求する必要があり、そこでは新しい考え方、専門性が必要です。

 横浜F・マリノスも新しいスキルや人材の取り込みにより、このメリットを得られることでしょう。スポーツブランドの成長チャンスは計り知れない規模です。

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