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日本郵船と川崎汽船にかけられる「物言う株主」の再編圧力

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コンテナ船
平成の30年間で国内海運は6社から3社に集約された。コンテナ船事業の統合は「生き残りを懸けた平成最後の大合併」だった(写真はコンテナ船のイメージ) Photo:EPA=JIJI

海運大手が“物言う株主”に揺れている。川崎汽船は投資ファンドから取締役を受け入れ、日本郵船は株主に配慮した資本政策にかじを切った。新風は長引く海運不況に業界再編をもたらすのか。
(ダイヤモンド編集部 柳澤里佳)

「令和に元号も変わったことだし、新しい業界再編が進むのではないか」――。本気とも冗談ともつかぬ口調で、海運大手の幹部はこうつぶやいた。海運3位の川崎汽船が4月末、38.99%の株式を持つ筆頭株主、投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネジメントからついに社外取締役を受け入れたからだ。

 エフィッシモによる川崎汽船株の大量保有(6%強)が明らかになったのは2015年9月のこと。16年6月に開かれた株主総会では当時の社長の再任案への賛成率が57%となったが、これはエフィッシモが反対に回ったためだ。

 その後も買い増しを続け、18年6月には現在の比率に達した。同年11月に株式保有目的は「純投資」から「投資および状況に応じて経営陣への助言、重要提案などを行うこと」に変更された。

 川崎汽船は明珍幸一氏に社長が交代した4月、エフィッシモの内田龍平氏を社外取締役候補に選定した。内田氏は三菱商事や産業革新機構在籍時を含め、100社以上のサポートや投資の知見を持つ。

 川崎汽船の経営幹部はエフィッシモについて「“旧村上ファンド系”といわれるが、村上ファンド出身者はごく少数。通常の機関投資家と同様に意見交換をしてきた中で、双方から社外取就任の案が出た。建設的な対話ができる紳士的な投資家だ」と“ハゲタカアクティビスト”のイメージを否定。社長交代は「構造改革に道筋が付いたことが理由」と強調する。

 一般的な投資ファンドの出口戦略として、経営陣に自社株買いを迫るか、市場での株式売却などが考えられる。赤字続きで自己資本比率が10.9%にまで低下した川崎汽船にとって自社株買いは容易ではない。株価は大幅に下落しており、エフィッシモが市場で売り抜けることも現実的ではない。

 となると第三の選択肢はM&A(企業の合併・買収)だ。6月に予定される川崎汽船の株主総会でエフィッシモが何らかの株主提案をする可能性が高まっており、それが業界再編の呼び水になるのではとの臆測が広がる。

 国内最大手である日本郵船と商船三井、川崎汽船の3社は、世界的な海運不況を背景にすでに主力のコンテナ船事業を切り離し、統合会社を設立している。これにより国内最大の海運会社が誕生した。18年4月からOCEAN NETWORK EXPRESS(通称ONE社)として営業を始めた“日の丸連合”はスタートからつまずいた。

 統合前の3社が持っていた契約をそのまま引き継いだこと、新しいシステムに不慣れだったことなどにより現場で混乱が生じ、積み高が計画より大幅に下振れた。18年度は約640億円の赤字。3社はそれぞれ30%強の持ち分があることから、各社200億円強の投資損失となる大誤算である。

 コンテナ船事業を切り離した後の各社のビジネスにも課題が残る。郵船は海上にとらわれない総合物流企業へのシフトを進めるが、子会社の日本貨物航空で不適切な整備や記録の改ざんが相次いで発覚。国から業務改善命令を受け、保有航空機の大半が運航できなくなった。18年度決算は経常損失20億円、純損失445億円に沈んだ。

 川崎汽船は本体に残ったコンテナ船事業が赤字で、強みであるはずの自動車船でも赤字に陥った。従前、売上高の約半分がコンテナ船事業で、他の2社に比べて同事業への依存度が高く、新たな成長戦略が見えない。

 そうなると、さらなる再編提案が飛び出しても不思議ではない。では、「受け手」はどこになるのか。

 郵船においては、村上ファンドの創業者、村上世彰氏が携わる会社が5月時点で5.9%の株式を保有し、実質的な筆頭株主となっている。村上氏は昨年、石油大手の出光興産と昭和シェル石油の合併に際し、出光の創業家を説得するなど再び活動の域を広げている。

筆頭株主に村上氏
名門の日本郵船は変わるか、動くか

 村上氏は、郵船に配当の見直しを訴えてきた。特に政策保有株式を売却し、株主還元を強化するように主張。郵船は政策保有株式と不動産の売却により約220億円の特別利益を計上した。もっとも同社は、これは中期経営計画に基づくものとしている。

 村上氏について、郵船の山本昌平常務経営委員は「個別の株主についてコメントするのは差し控えたい」と前置きした上で、「政策保有株式に関して村上氏は合理的なことを言っていると思う。(金融庁がコーポレートガバナンス・コードで縮減を求めているように)時代もその流れである。村上氏が求める方向性と当社の方向性は同じ。ただ、時間軸に違いがある。売却は慎重にやっていきたい」と胸中を吐露した。

 川崎汽船の受け手として少し前であれば最大手の郵船の名が挙がったところだが、同社にもそう余裕はない。また、村上氏から「物申されている」現状に経営陣は平静を装うも、「三菱グループの中でも毛色が異なり自立心が強く、プライドが高いから怒り心頭だろう」と三菱系企業の幹部は言う。

 貿易で日本経済をけん引してきた海運業界は歴史の長い会社ばかり。1885(明治18)年創業の郵船は新札で話題の渋沢栄一や、岩崎弥太郎をルーツに持つ、丸の内の名門企業である。「古き良き日本の大手企業の風土で、スピード感に欠けている」と社内外で指摘されてきた。だが、潮目が変わった事業環境や厳しい株主の目もあって、社風に変化の兆しはある。

 6月に社長となる長澤仁志副社長は就任の抱負で「良い伝統は継いでいくが、古い会社であるが故に変化が必要な部分もある。特に意思決定のプロセスや人事制度について見直したい」と言及した。

 もし村上氏が郵船に再編を提案したとして、やすやすとは受け入れられないだろうが、追い風となることはあろう。ONE社は創業期の失敗を正して19年度に黒字化する計画だが、それだけでは完全復活は見込めないと海運会社自身が自覚しているはずだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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