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松坂大輔「練習日にゴルフ」はそんなに大罪か?

2019年05月21日 06時00分更新

文● 小林信也(ダイヤモンド・オンライン

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松坂大輔
松坂大輔投手が2軍練習日にゴルフをしていた件は、ネット上でもファンが厳しく非難しています Photo:JIJI

 松坂大輔投手(中日)が、2軍の練習日にゴルフをした件で厳しい非難を浴びている。ネット上でも松坂投手の「軽率な行動」に対するファンの声は厳しい。こうした批判を受けて、松坂投手本人も球団に謝罪し、一貫して反省の弁を述べている。

 一連の動きを見て、私は首をかしげた、そして「重い気持ち」になった。日本は、なんと生きづらい国であるか。

 松坂復活に向けて「最善を尽くす」行為より、組織の一員として「規律を守ること」を無条件で優先する。そういう考えが根強く支配していると改めて思い知らされた。

「有給休暇は何をしてもいい」
そんな空気感は野球界にみじんもない

 松坂投手は、関東の医療機関で治療を受けるため、2軍の練習を休んでいた。ところが、そのついでにゴルフをやった。これが問題にされたわけだが、会社員の方が「有給休暇や代休で休んだ日にゴルフをやった」のと大差ないのではないか?

 松坂自身も言うように、ウソをついて関東に行き、治療もせずゴルフをやったのではない。治療を受け、トレーニングをしたうえでゴルフをやった。それでもアウトなのか?

 かつて日本には「有給休暇を取ること」に罪悪感を覚える雰囲気があった。有給休暇だから何をしてもよいわけでなく、同僚は働いているのだから、必然性がある用事に充てて過ごすべきだという堅苦しい考えがあったと思う。

 そうした認識を一掃し、働く人の権利や自由が保障される時代になった。有給休暇の日に、朝からビールを飲もうが、デートをしようが、ゴルフをやろうが、今やとがめられることはない。

 ところが、松坂投手はゴルフをやって、非難を浴びた。肩を壊しているのにゴルフをやったのがいけないのか? シーズン中に野球以外の息抜きは許されないのか? ゴルフは不埒な行為なのか? 「野球は団体競技なのに、ひとり勝手なことをした」と言わんばかりの責めようである。松坂投手は、試合をすっぽかしてゴルフをしたのではない。それでも世間は松坂の「リフレッシュ」を許さなかった。

 シーズン当初から登板できない苦しさは、誰より松坂投手が感じているはずだ。広々としたゴルフ場での気分転換も、松坂投手には大切ではないか。

 現在の肩の状態を誰よりわかっているのも松坂投手自身だ。ゴルフがけがに影響するかしないか、しないと判断したからやったに違いない。それなのに「印象」だけで非難する、そんな世間の横暴こそ、許されてはならない。まだまだ根強く残る日本人の全体主義思想と、休むことへの罪悪感をあらわにした出来事のように感じる。

ダルビッシュ投手は擁護も
松坂投手は「一貫して謝罪」のワケ

 この件に関して、松坂投手を擁護する発信をしているのは知る限り、私を含めてごく一部だが、ダルビッシュ有投手もその1人だ。メジャーリーグやアメリカの現状を踏まえ、日本の空気に次のような疑問を投げかけている。

「こっちの人は全然気にしないですね。よっぽど影響が出るようなスポーツならまだしも、肩痛めててゴルフダメは無いと思います。日本は怪我してる時はお酒もダメですが、こっちは関係なく飲んでます」「そもそも日本は怪我をしている期間の球団内外からの縛りがキツすぎます」

 当の松坂投手は、こうした動きにも、反省と謝罪の姿勢で一貫している。

「練習日に僕がゴルフに行ったという事実に変わりはないので。こんなことでお騒がせして申し訳ないという気持ちです」

 これは、日本の野球界、そしてファンの空気を読めば賢明な判断ともいえるだろうが、本当なら、松坂投手にこそ、主張すべきことは主張してほしいとの思いもある。

 おそらく、今シーズンまだ登板できていないこと、加えて一緒にゴルフをしていたのが日本テレビの上重聡アナウンサーだったことも、松坂投手の「一貫した謝罪」の背景にあるのではないか。

 数年前、個人的な問題で非難を浴びて苦境を経験した上重アナウンサーに、また余計な火の粉を及ばせたくないとの配慮。上重アナウンサーは1998年夏の甲子園、準々決勝で延長17回を戦い、伝説となっている試合で投げあったPL学園の投手だ。横浜・松坂が250球完投勝利を飾り、PL学園の上重は7回から登板し、17回まで投げた。

 今回の問題を「松坂が悪い」で終わらせてはいけない。このような社会的なバッシングが容認されれば、野球の近代化はまた遅れてしまう。野球の全体主義、無用な縛り、個人の自由の制約を、本当は変革しなければならない。

キャンプ地には家族同伴もNG
野球界はブラック企業&部活そのもの

 プロ野球は、ブラック企業的な要素が実は多い。それをファンもまったく頓着せず、「夢」「憧れ」で美化してばかりいる。

 例えば、2月1日にキャンプインすると、妻帯者も家族と離れ、球団指定のホテル生活を余儀なくされる。なぜ、キャンプ地に家族の同伴が許されないのか?

 メジャーリーグのキャンプ取材に行ったとき、その違いに驚いた。朝9時に練習が始まり、11時頃には奥さんと子どもが迎えに来る。彼らは近くのコンドミニアムを借り、当然のように家族と過ごす。そんな当たり前の自由が、日本野球界ではいまだに認められていない。疑問を投げかける声さえ起こらない。

 高校野球も、「今日は好きなアーティストのライブに行くので休みます」とか、「夏休みに家族で旅行するので1週間休みます」と平気で言える雰囲気に変わるべきだと考えている。あまり強くないチームにそうした自由は存在するが、強豪と呼ばれるチームや「絶対に甲子園に行くぞ」と目標を立てているチームではまずそんな自由は許されない。いても異端児としてチームの構想から外される。

 私は昨春まで8年間、中学硬式野球(リトルシニア)の監督を経験した。選手の中には、「両親の実家に帰ります」「市の駅伝の選手に選ばれたので大会まで日曜は休みます」「バドミントンの大会に出てもいいですか」「バイオリンの発表会で休みます」「夏休み、アメリカの野球キャンプに参加します」などなど、様々な理由で休む選手に出合った。私も古い野球人の体質が染み付いていたので、最初は「とんでもない」と許せない気持ちだった。しかし、発想を転換し、「野球以外にもいろいろ体験すべきだ」「むしろ応援するのが当然ではないか」と認識を改めたら、何も問題はなかった。

 本来なら、もっと自由であるべきだが、特に野球は個人の自由を束縛し、それが「善」「当然だ」と見なされている。ブラック企業、ブラック部活そのものではないだろうか。

 野球界の常識を当然だと思い、古い意識を美化しがちな野球ファンのみなさんに、ぜひともご自分の考えを見つめ直すきっかけにしてほしい。

(作家・スポーツライター 小林信也)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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