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日本は世界3位の地熱資源大国なのに発電所建設が進まなかった3つの理由

2019年05月14日 06時00分更新

文● 福田晃広(ダイヤモンド・オンライン

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地熱発電をめぐる環境は改善しつつあります。
福島第一原子力発電所の事故以降、地熱発電を推進する動きが徐々に広がっている Photo:PIXTA

2011年の福島第一原発事故直後、再生可能エネルギーとして一躍脚光を浴びたのが「地熱エネルギー」。火山国の日本にとって、うってつけの発電方法に思えるが、現在、地熱発電の電力供給量が54万kWと総発電量の0.2%にすぎないのはなぜか。地熱発電の歴史と現状や、将来について、九州大学名誉教授で現在地熱情報研究所代表の江原幸雄氏に話を聞いた。(清談社 福田晃広)

日本は世界第3位の
地熱資源大国

 まず地熱発電の話に入る前に、地熱エネルギーとはそもそも何なのか。

 地熱発電が扱う地熱エネルギーとは、「地球内部の熱(中心部約6370kmの深さでおよそ5000~6000℃)のうち、地表から数km以内に存在する利用可能な熱エネルギー」のこと。その地熱エネルギーでつくられた蒸気や熱水がたまっているところを“地熱貯留層”という。

 地熱発電は、この地熱貯留層に井戸を掘り、吹き出した蒸気の力で直接タービン(プロペラのようなもの)を回して発電機を動かし、電力を生み出すという仕組みだ。

 地熱発電の歴史を振り返ると、世界最初の地熱発電は1904年、イタリア北部のラルデレロという地域で始まった。

 日本では1925年に大分県別府市で、1.12kWの試験的地熱発電に初めて成功。その後、1946年から地熱発電の研究が進み始め、1966年に本格的な地熱発電所である岩手県松川地熱発電所が日本で初めて建設された。

 そして、1999年までに日本全国で18ヵ所、総設備量54万kWの地熱発電国になったものの、今年1月、22年ぶりに岩手県で出力7000kWを超える地熱発電所が本格的に稼働するまで、地熱発電所の建設は遅々として進んでいなかった。

 日本には2347万kW(発電量換算)の地熱資源があるという。地熱エネルギーの点ではアメリカ、インドネシアに次いで、世界3位の“資源大国”なのだ。にもかかわらず、なぜこれまで地熱発電が普及しなかったのか。江原氏はこう説明する。

「1970年代、石炭や石油に代わる資源として候補に挙がった。一定の前進はあったが、石油供給事情が好転する中で、地熱を含めた再生可能エネルギーより、原子力および石炭が選択されました。当時は原子力や石炭の方が安い発電コストだと試算されていたので、国は地熱より原子力や石炭を推進したのです」(江原氏、以下同)

3.11以前は国立公園に
地熱発電所新設が困難

 ところが、2011年の東日本大震災による福島第一原発事故後は事情が変わった。事故によって、原子力は安全性に問題があり、かつ発電コストが決して安くないことが明らかになり、世界的に高まるCO2削減対策として、太陽光や風力、地熱発電などの再生可能エネルギーに注目が集まったのだ。

 地熱発電は、太陽光や風力のように発電量が昼夜、年間で変動することもなく、1年365日、朝から晩まで24時間、発電し続けられる。その上、地球内部の莫大な熱を利用するため、エネルギー源が枯渇する心配がないのもメリットだ。

 しかし、東日本大震災以前も、地熱発電の普及には、特有の問題が立ちはだかっていたと江原氏は語る。

「日本の場合、全国で活火山は100個ほど存在し、多くが国立公園内(および国定公園)にあります。ですが、1972年の旧通産省と旧環境庁との覚書により、環境保護が必要な国立公園内特別地域では新たに地熱発電所は建設しないという方針を採りました。地熱資源量2347万kWのうち、81.9%がその国立公園内特別地域内にあるので、そもそも制約が厳しかったのです」

 その “国立公園問題”も、3.11以後は徐々に規制が緩くなり、解決に向かいはじめている。これまで国立公園の約2割の場所でしか調査、建設できなかったのが、環境や生態系に影響を与えないとされる地域にまで対象が広がり、地元の同意を得られれば、国立公園内の約7割にあたる場所で地熱発電所が新設できるようになったのだ。

 とはいえ、地方によってその対応には差があり、一筋縄ではいかないのだという。

「環境省の本省は、全国的に地熱発電所を増やそうとしています。しかし地方の環境省事務所は、本質的に役所は規制をするのが仕事だという考え方がまだ根強く、本省と意識が共有されていないのが実態です。たとえば、地熱発電所を新しくつくろうと申請しても、なかなかスムーズに事が進まないケースもまだあります」

地熱発電で温泉が
枯れた例はゼロ

 これまで地熱発電が普及しなかった原因である発電コスト、国立公園の問題は解決に向かっている。だが、最後にもうひとつ、温泉地での地熱発電問題が残っている。具体的に言えば、「温泉地周辺で地熱発電所が建設されると、温泉が枯れてしまうのではないか」といった理由で、反対運動が起こるケースだ。

 ただ日本の場合、温泉が枯れる心配はない。現実に日本の地熱発電所の歴史は50年を超えるが、温泉が枯れた例はないと、江原氏は言う。

「地熱発電は、地表から1~3kmにある地熱貯留層から熱を取り出します。一方、温泉は地表から100~200mの温泉帯水層という所から、温まった地下水を採取します。構造としては、温泉帯水層の下に地熱貯留層があり、その間には“キャップロック”という水を通しにくいふたの役割を果たす岩石があるので、地熱貯留層から熱を取っても温泉帯水層には直接影響しません。また、そのキャップロックが部分的に破れている場合でも、地熱貯留層から取った熱水を地下に戻して再利用するシステム(取り出される水の量と補給される水の量のバランスが取れている)が開発されているので問題はありません」

 江原氏によると、日本が地熱発電を始めて50年以上がたっているものの、温泉に悪影響を与えた例は1つもなく、むしろ近隣で温泉を掘り合うことの影響の方が大きいのだという。なぜなら、答えは単純で、温泉は同じ温泉帯水層から熱水を取り出しているからだ。

 とはいえ、温泉事業者にこうした話をしても、最終的には了承を得られないことがまだ多く、どのように理解してもらうかはなかなかに難しいようだ。

 国は、2030年度までに地熱発電で、現在の3倍にあたる150万kWを発電することを目標としており、すでに全国100ヵ所ほどで調査・発電所建設が始まっている。大規模な地熱発電(万kW級)は発電設備をつくるための調査や開発に少なくとも10年はかかってしまうが、それでもこの5月中には、秋田県湯沢市山葵沢(わさびざわ)に4万2000kWの地熱発電所が稼働することが決まっている。

 徐々にではあるが、地熱発電所を推進していくための土壌はでき始めている。将来、地熱発電のシェアが増えていくのは間違いないだろう。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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