このページの本文へ

「東芝ココム事件」再び!?米中貿易摩擦の飛び火に金融庁が警鐘

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷
1987年の東芝機械による不正輸出事件
1987年の東芝機械による不正輸出事件で、米国では抗議集会が相次いで開かれ、米上院では対米輸出を禁じる制裁法案が可決するなど大騒動となった Photo:AFP=時事

追加関税の引き上げによって米中貿易摩擦が再燃する中で、日本政府は昭和の時代に起きた事件を重ね合わせ、摩擦の渦に巻き込まれていくことへの警戒を強めている。(ダイヤモンド編集部 中村正毅)

 米国が中国からの一部輸入製品に対して、追加関税を引き上げ対立が深刻化する中で、30年以上も前に起きたある事件が今、政府関係者の間で話題になっている。

 バブル経済の真っただ中にあった1987年に発覚した、東芝機械によるココム規制違反事件だ。

 ココムとは、対共産圏輸出統制委員会のこと。当時は米国が中心となり、旧ソ連(現ロシア)などの共産圏に対し、軍事転用の恐れがある製品を輸出することに、目を光らせていた。

 そうした状況で、東芝機械がソ連に4台の大型工作機械を不正に輸出していたことが明るみに出て、日米間の大きな外交問題に発展していったのだ。

 米国側の言い分は「東芝グループの工作機械の不正輸出によって、ソ連の原子力潜水艦におけるプロペラの静音性が向上し、結果として米軍による探知活動を困難にさせた」というものだ。

 当初から、米国が主張するその因果関係には疑問符が付いていたものの、折しも日本と米国は、自動車をはじめとする貿易摩擦に頭を悩ませていた時期だった。

 事件発覚の直前には、日米半導体協定に違反したとして、米国が日本製のパソコンやテレビに、100%の関税を課す報復措置を発表したばかりでもあった。

 これ以上ないという最悪なタイミングでの事件発覚によって、日本側は抗弁の余地もなく、対応を迫られた。

 事件発覚の翌月、警視庁は外為法違反容疑で東芝機械の社員2人を逮捕。同時期に旧通商産業省(現経済産業省)は、共産圏向けに1年間輸出を禁止する行政処分を同社に下している。

 それでも、米国側の怒りは一向に収まらなかった。

 東芝や東芝機械に対する抗議活動が各地で盛り上がり、米上院では東芝グループの対米輸出を、最大5年間禁止するという制裁措置の発動が、何度も議論されるという事態に陥った。

 事件の翌年には、対日報復措置と保護主義的な色彩の強い制裁条項(スーパー301条)を盛り込んだ、修正貿易包括法案が米議会で可決される結果を招いている。

米中貿易摩擦の火の粉をかぶる
日本の経済事情

「この事件に相当する事案やリスクが、今後高まることを懸念している」

 今年に入り、金融機関を監督する金融庁は、全国銀行協会をはじめ業界団体との意見交換会で、ココム違反事件をわざわざ事例として取り上げながら、警戒を怠らないよう注意喚起を始めている。

 警鐘を鳴らす背景にあるのは、激化する米中の貿易摩擦だ。

 昨年末に、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の副会長が、イランとの取引をめぐり米当局の要請によって逮捕されたことで、「直接的には米中の問題だが、(米国の)制裁対象国や企業などと取引している日本の金融機関や企業が、何らかのかたちで制裁リスクに晒される可能性がある」(金融庁幹部)とみているのだ。

 それだけではない。日本の金融機関は今年、マネーロンダリング(資金洗浄)対策をめぐって、国際組織・金融活動作業部会(FATF)による対日審査を今秋に控えている。

 対策の不備が露見することで、米国などによる無用な制裁を招くことがないよう、監督当局として神経をとがらせているわけだ。

 結果として杞憂に終わればいいが、足元で発生しているさまざまな事案を見ると、気をもむような状況にあるのは確かだ。

 今年2月には三菱UFJ銀行、4月には三井住友銀行が、米当局からマネロン対策が不十分との烙印を押され、直ちに態勢を強化するよう命じられている。

 両行とも制裁金を科される事態は避けられたが、狙いを定めているかのような米国側の動きに対し、警戒感は強い。

 ココム違反事件でやり玉に挙がった東芝も、米中貿易摩擦の余波を受けている。

 今年4月、すでに撤退方針を固めている液化天然ガス(LNG)事業をめぐって、売却先としていた中国企業との契約が白紙に戻ってしまったのだ。

 東芝の見通しの甘さなどさまざまな要因が複雑に絡んでいるものの、エネルギーは安全保障にも関わる事業だけに、米国の対米外国投資委員会(CFIUS)による審査が遅れていたことが、破談には少なからず影響している。

 最大1兆円ともされるLNG事業の損失リスクは、取引銀行にもはね返ってくる。そうした事案が今後日本で広がる危険性は、どこまであるのか。足元の金融市場では底知れぬ不安が覆い始めており、投資家たちの動揺はなかなか収まりそうにない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

カテゴリートップへ

最新記事
最新記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ