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六芒星を描いたwebマンガ非公開に…表現の「自主規制」どこまで?

文● 岡田光雄(ダイヤモンド・オンライン

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イスラエルの国旗にも使われている六芒星
イスラエルの国旗にも使われている六芒星。第2次世界大戦時のユダヤ人差別を想起させるとして、タブー視するメディアもある Photo:PIXTA

昨年末、ある漫画家のTweetが物議を醸した。作中に「六芒星」が描かれているという理由から、漫画投稿サイトの運営元によって、作品が非公開にされてしまったのだ。多くの日本人からすれば、六芒星などありふれた星印にすぎないし、媒体によっては普通に使われていたりもする。イマイチ基準が分からない六芒星だが、なぜ一部のメディアは規制しているのか。(清談社 岡田光雄)

六芒星はユダヤ人差別を連想
少年コミック誌編集者も敬遠

 昨年12月、漫画投稿サイト「ジャンプルーキー!」で、『ユリバラ』という作品を投稿した漫画家・アオノハル氏のTweetが話題になった。作中に描いた「六芒星」が同サイトの利用規約に引っかかって非公開にされ、その後、六芒星を別な模様に修正したところ作品の公開が再開されたというのだ。

 六芒星とは、正三角形を2つ組み合わせた星形のマーク。通称・ダビデの星とも呼ばれており、世界的にユダヤ人を表す記号として定着している。イスラエルの国旗にも使われているシンボルだ。

「ジャンプルーキー!」の利用ガイドラインには、国際的に強く禁忌とされる表現(ハーケンクロイツ、コーラン、預言者ムハンマドの肖像等)を描くことが禁止事項と掲げられているが、そこに六芒星が含まれるという記述まではない。

 しかし、「ジャンプルーキー!」をはじめ、いくつかのメディアでは明らかに六芒星がタブー視されているようだ。

 その理由について、某大手少年コミック誌の編集者に聞いてみると…。

「基本的には六芒星の使用を避けています。もちろん作品によっては六芒星を使っていけないわけではありませんが、使う場合はそれ相応の覚悟というか、もし抗議がきた場合に対応できるだけの理屈は、用意しておく必要があります。というのも、六芒星は第2次世界大戦時のユダヤ人差別を想起させるためです。かっこいいからという安易な理由で六芒星を使用するのは適当ではないでしょう」

日本の漫画の世界進出で
宗教や民族への配慮を強化

 筆者の記憶では、『DRAGON QUEST―ダイの大冒険―』『ルパン三世』などでも六芒星は普通に使用されていた印象だが、なぜ近年になって厳しくなったのか。

「現在、漫画は世界中で読まれるようになったため、以前であれば問題なかった表現、あるいは国内的には問題ないものも、問題になる可能性があります。たとえば、イスラム教のアラーを図像化して前面に出してしまうようなことは、日本人は気にならなくても、国際化が進んだ昨今では大問題に発展しかねないため、細心の注意を払っています」

 大手少年コミック誌をはじめ、国際展開するメディアは軒並み、宗教やその信者、民族などへの配慮を心がけているようだ。

 こうした漫画界における表現規制について、『マンガ論争』の編集長で漫画評論家の永山薫氏は独自の見解を示す。

「デザイン的に六芒星は、漫画やアニメでは魔法陣などで使われることが多い非常にポップな図像です。おそらく読者の多くも、普通にテレビなどで見かけた記憶もあるのではないでしょうか。この六芒星がなぜ禁忌の表現にあたるのかは正直、理解しかねます」(永山薫氏、以下同)

 続けて永山氏は、六芒星が表現規制されるデメリットについても次のように語る。

「六芒星という表現行為を一律で禁止してしまうと、イスラエルの国旗を作中に出しちゃダメとか、ナチスによるユダヤ人大虐殺や、戦時中にダビデの星をユダヤ人の服につけさせたというエピソードなども描けなくなってしまう。映画やドラマも含め、表現の幅はだいぶ狭まります。作家も萎縮して最初からそうしたテーマを描かなくなり、六芒星がどんどんアンタッチャブルな問題になってしまいます」

文脈で判断せず
一律規制でNGに

 六芒星自体は、元伊勢・籠神社(京都府)の紋しかり、ダイアモンド☆ユカイ氏の星印(本来は六芒星)など、日本社会の中では普通に使われている。もしこれらが一律で禁止ということになれば、これらも例外ではなくなってしまうだろう。

「作中に六芒星を描いたため漫画サイトで非公開にされた漫画家さんが、その理由を問い合わせても、出版社は『お答えできない』としているケースが多いようです。出版社は、政治問題に発展しないように宗教的シンボルを極力使わないというレギュレーション(規則やルール)を設けていますが、ルールに対して理由を求められても納得を得られる説明はできないし、むしろ説明すると政治問題になってしまう。だから、公にしないルールとしておくのが一番楽なんだと思います」

 言われてみれば、冒頭に挙げた「ジャンプルーキー!」の作品の内容も、宗教関連の話とは、まったく関係がない。

「六芒星を一律禁止とすることで、かえって差別を広げてしまっているのでは。読者によっては、“ユダヤ教徒の人たちは、こういうところまで抗議する人たちなんだ”という印象も与えかねません。センシティブな問題なのは分かりますが、それでは不健全だと思います。仮にナチスによる蛮行の事実を否定したり、ユダヤ人を侮蔑する作品が問題になったとすれば、それは六芒星うんぬんではなく、その主張そのものが一般常識として問題があるという話にすぎません」

 そして、永山氏によれば、これらの規制が国主導ではなく「私的検閲」という形で行われているという。

暴走する私的検閲
消費者の言いなりに

 行き過ぎの感がある六芒星の表現規制の一方で、日本は世界的に見て、お上の表現規制が最も緩い国だと、永山氏は語る。

「国際的な基準では、最も表現規制が緩い国が日本、その次が(州によって差はあるが)アメリカとなっています。一方で、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど英連邦系の国はレギュレーションが厳しい印象です。性表現に関しては、中国ではBL(ボーイズラブ)小説を書いただけで懲役10年の刑を言い渡され、韓国でも1000人単位でオタクが捕まっています。特に韓国は『児童青少年性保護法(アチョン法)』(懲役5年以上)という法律があって、いわゆるロリ系の創作物を所持しているだけで、強姦(懲役3年以上)よりも罪が重いといわれています」

 永山氏によれば、日本の漫画界における表現規制の多くは、当局による規制ではなく、私企業による自主規制で、それが最も問題だと警鐘を鳴らす。

「六芒星の問題もそうですが、日本では私企業による私的検閲が暴走しています。それは度重なるCM炎上にもいえることで、消費者からのクレームが入れば、企業はすぐに謝って広告を取り下げてしまいます。本来はそこで議論すべきなのに、です。もちろんCMは企業の利益追求の一環なので、お客さんを怒らせたくないという意思が働くのは当然ですが、簡単に謝って引っ込めてしまうと、表現の幅はどんどん狭まっていき、それがひとつ実例として残ってしまいます」

 このまま私的検閲がエスカレートするとどうなるのか。

「たとえば一部の視聴者からは“『ちびまる子ちゃん』というタイトルはけしからん! 背の低い人がどれだけ傷つけられると思っているんだ!”、あるいは“ドラえもんの指がないのは事故で指をなくした人に失礼だ!”などのクレームがどんどん出てくると思います。もちろん視聴者は抗議していいと思いますが、出版社をはじめ企業としては毅然とした態度で、しょうもないクレームは門前払いすればいいし、検討の結果、改善が必要と思えば対処すればいいんです。もちろん表現行為は、やりすぎると殺されたり放火されたりする危険性もありますが、そもそも表現者とはそういう存在だと思います」

 今後も、企業による表現規制は加速化していくだろう。ただ、筆者の目には、六芒星は、やはりただのありふれた星印にしか見えない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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