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自前主義の三菱UFJが「提携のための投資ファンド」を作った理由

文● ダイヤモンド編集部,田上貴大(ダイヤモンド・オンライン

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鈴木伸武氏
200億円の投資ファンドを運営する、三菱UFJイノベーション・パートナーズの鈴木伸武社長 Photo by Takahiro Tanoue

今年1月、三菱UFJフィナンシャル・グループは投資ファンドの運営会社を設立し、200億円のベンチャーファンドを組成した。その狙いは何なのか、背景分析とファンド運営会社トップのインタビューをお届けする。(ダイヤモンド編集部 田上貴大)

「かつて競争相手だと思っていたところが、協業先に変わりつつある」――。すでに数年前から、メガバンクの首脳陣はこのように認識を改めている。金融とテクノロジーの融合、すなわち「フィンテック」と呼ばれる新領域の旗手たちのことだ。

 黎明期のフィンテックは、既存の金融ビジネスを侵食し、金融機関の既得権を脅かす存在だと警戒されていた。もちろん、個人間送金やキャッシュレス決済の分野で、フィンテック企業が次々に新サービスを打ち出し、攻勢をかけているのは間違いない。一方で、旧来型の金融機関は今、低金利環境による収益力の低迷という課題に直面。その中で、新たな技術を活用した利便性の高いサービスを取り込もうと、ベンチャー企業と積極的に手を組む方針にシフトし始めている。その代表例が、メガバンク主催のアクセラレータープログラムの開催やIT企業支援のための拠点開設であり、すでにメガバンク同士の“陣取り合戦”の様相すら漂っている。

 こうした状況において、銀行界最大手の三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)は、“メガバンク初”となる試みに乗り出した。今年1月にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の運営会社を設立し、200億円のフィンテックファンドを組成したのだ。

 どのメガバンクグループも傘下にVCを抱えているが、CVCは、投資リターンを求める通常のVCと異なり、出資先と自社との提携策を最優先するファンドのことで、CVCを立ち上げたのは三菱UFJFGが初めてとなる。

 同ファンドは、2月に第1号案件として個人向けの資産管理アプリを提供するマネーツリーに出資。金額は約5億円とされる。さらに4月には、第2号案件として仮想通貨のマネーロンダリング(不正資金の洗浄)対策サービスを展開する米国のチェイナリシス社を選び、約200万ドルの出資を実行した。

 三菱UFJFGはこれまでも、傘下の銀行や三菱UFJキャピタルを通じて新興企業へ出資しており、なぜあえてCVCを立ち上げるに至ったのか。運営会社である三菱UFJイノベーション・パートナーズ(IP)の鈴木伸武社長に、狙いを聞いた。

銀行が欠いていた“厳格”な投資判断

――三菱UFJIPを立ち上げた目的を教えてください。

 私たちのグループには、三菱UFJキャピタルというVCがあり、そこが純投資やエクイティ(株式)投資を通じた新規の顧客開拓を担当しています。私たちは戦略投資を中心にやっていて、立ち位置は明確に異なります。

 三菱UFJ銀行としても、デジタル企画部という銀行内の部隊で、すでに過去3年ほどフィンテック分野の戦略投資を推進してきました。件数にして十数件、金額にして50億円弱を積み上げています。

 この取り組み自体はうまく行ったと思っています。ただ、部隊の中に投資の専門家がいたわけではなく、さらに他の信託銀行や証券会社などのグループ会社とのシナジーをさらに追求する必要がありました。こうした考えから、持ち株会社の傘下に組織を作ったほうがいいと判断して(三菱UFJIPとして)スピンオフし、さらに投資業務の経験者を外部から採用しています。

 また、投資目的の明確化を掲げました。というのも、これまでは必ずしも戦略的な目的を詰めて投資したわけではなく、スタートアップ企業との関係の延長線上で投資に至ったものがあったからです。これをよりシャープに進めるため、新技術と銀行のサービスを組み合わせて新たな金融サービスを作る「協創型」や、AIなどでコスト削減を図る「業務改善型」など、投資目的を5つに分類しました。これを軸に、3割くらいを日本の企業に出資し、米国やアジアにも3割ずつ出資していきます。

鈴木伸武氏インタビュー
すずき・のぶたけ/大阪大学基礎工学部物性物理工学科を卒業後、1991年4月に三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2002年9月にグローバル・ブレインに転職しパートナー就任。18年7月に三菱UFJ銀行に復職し、今年1月より現職 Photo by T.T.

――従来の銀行の投資案件には、投資家目線に立ったとき、提携面で問題を残す案件もあったのでしょうか。

 細かくは言えませんが、例えばキャピタリスト目線に立つとデューディリジェンス(投資先の価値評価)が甘いなど、投資と協業の両面で課題はあったと思います。

――そこに外部から投資の経験者を入れ、審査を厳格化するということでしょうか。

 おっしゃる通りです。一方で、協業もしっかり作っていく必要があり、非常に難しいことを両立させようとしています。今、日本には250社ほどのCVCがあり、私自身は16年間キャピタリストをやってきました。また、三菱UFJIPの副社長もかつてリクルートでCVCを担当した者で、お互い知見があります。過去の経験を踏まえると、ベストな形ができたのではないかと思っています。

 三菱UFJIPでは、CVCを熟知している者が投資の専任担当者です。たとえ、ある案件で協業の話が盛り上がったとしても、いったん一歩身を引き、候補の企業がグローバルでどのような立ち位置かを見直します。なぜこれをしているかというと、同じ領域で1番手や2番手ではないと投資はうまくいかないという経験を持っているからです。このキャピタリスト的な冷徹な投資判断と、実際に三菱UFJFGとの協業の可能性の観点から、案件を見ることになります。

 加えて組織内には、三菱UFJFGの主要部門の次長クラスから兼務者を出してもらい、私たちが持ってきた投資案件のつなぎ込みをお願いしています。専門の担当者と兼務者が、車の両輪として案件をドライブしていくことで、できるだけベストな案件に投資をしていきます。

仮想通貨界トップのマネロン対策事業者を確保

――第1号案件の出資先としてマネーツリーを選んでいます。相当厳選したということでしょうか。

 その通りです。協業は丁寧に形作っていく必要があるので、かなり手間をかけています。

――マネーツリーのような個人資産の管理サービスは複数あります。なぜマネーツリーを選んだのでしょうか。

 この分野では、マネーツリーは2番手だと言われています。マネーツリーはMT LINK(銀行口座や証券口座など金融取引データを顧客が集約できるサービス)を持つなど、金融機関とうまく提携をしながら事業を進めるという発想にあり、比較的組みやすいと判断しました。

 マネーツリーの(MT LINKの仕組みである)アカウントアグリゲーションは、1つの金融機関ではできません。私たちが顧客の代わりに、他行のインターネットバンキングにログインして、情報を抽出するのは問題があるからです。これは、マネーツリーのような独立した会社が行うから許されるものです。マネーツリーは、私たちだけでは知りえない他行の資産や取引情報を持っていて、その価値は極めて高い。彼らと良い関係を築くことは重要だと認識し、出資しました。

――第2号案件として、米国のチェイナリシス社に出資しています。これはどのような会社ですか。

 この会社は、仮想通貨関連のコンプライアンスのソリューションを提供しています。仮想通貨はブロックチェーン上に全ての取引が記録され、送り手と受け手のそれぞれのウォレット(保管場所)のIDが表示されますが、問題はそのIDが実在の人物に紐付いていないことです。そのため、テロリストや犯罪組織のマネーロンダリングに利用されやすいと言われています。

 このチェイナリシス社は、米国捜査当局などと独自に連携し、IDと実在する人物を結びつけたデータベースを持っています。これを使えば、誰からどういうルートで仮想通貨が流れたか完全に可視化できるため、仮想通貨交換業者ならば取引内容を精査して疑しい取引を調べたり、各国の捜査当局ならば犯罪組織の追跡に使ったりすることが可能になります。他にも、銀行の顧客である大手企業も、仮想通貨交換業に新規参入しようとすれば、マネーロンダリングリスクにさらされます。こうした事例において、この会社の技術が新たなコンプライアンス対策の枠組みになるという期待感を持っています。同じ分野の競合企業にも何社か会った上で、ここがトップだと確認して投資しています。

――三菱UFJFGとの提携という目線では、この会社に出資する目的は何になりますか。

 私たちは、「coin」という厳密には仮想通貨ではないものの、独自の仮想通貨系サービスを発行しています。金融のやり方を変えるポテンシャルがあり、ディスラプティブ(破壊的)なこの技術に関して知見を貯めるため、この取り組みを進めてきました。

 今までは、先ほど述べた仮想通貨の負の側面に対抗する技術開発ができていませんでしたが、チェイナリシス社はまさにその技術を持っています。数年したら仮想通貨が崩壊して、消えてなくなる可能性もありますが、私たちはその両方の可能性があると思っています。将来、ブロックチェーン技術をベースとした、非中央集権型の決済の仕組みが普及した時に、時代に即したマネーロンダリング対策を形作る必要があります。今回のチェイナリシス社への出資はそのためのものであり、目先1~2年ではなく10~20年範囲での足の長い投資だと考えています。

――これに続く第三号案件はどのような会社でしょうか?

 詳しくは言えないですが、米国の有名な金融機関向けメッセージプラットフォーム企業です。5月の頭くらいにリリースを出せると思いますが、金額はこれまでより少し大きくなるでしょう。

銀行が抜け出せない“与信”と“自前主義”の発想

――VCは数多くの種類がありますが、銀行系VCが持つ課題感は?

 普通に案件を進めると時間がかかることでしょうか。もともと銀行は、いわゆる政策投資という形で、顧客の安定株主として株を取得することを行ってきました。ただ、その手順に則ると非常に手間がかかってしまいます。それから、銀行の与信的な発想で戦略投資を行うのは難しいという問題があります。私たちのパートナーとなるスタートアップ企業でも、創業3~5年で売り上げも数億円ながらかなり赤字が出ているところもありますが、従来の与信の発想ではバンカブル(銀行融資が可能)ではないとなってしまうからです。

――今回の三菱UFJIPはメガバンク初のCVCですが、他のメガバンクでは、CVCを立ち上げるのが難しいものだと思いますか。

 いや、やる気さえあれば、そんなことはないと思います。銀行に限らず事業会社においても、CVCの立ち上げには課題があり、私はこれを「CVCあるある」と呼んでいます。例えば、企業のトップが経営企画部などに「オープンイノベーション(異業種との広範囲な連携)をやらないと駄目だ」と通達し、それを受けて社内の若手社員を集め、戦略事業開発部などを作ってみるケースがあります。そうすると残念ながら、投資経験の浅さから高値づかみになったり、重要な権利を押さえられずにガバナンスが効かせられなかったり、といった話になりかねません。

 また、企業の製造ラインや営業ラインがみんな期中目標に向けて取り組む中で、いきなり「オープンイノベーションをやりたい」と横からくることになるわけです。そうすると、「予算はないし、他の業務があるからやっている時間も無いよ」と、現場の反応が冷たいこともあります。背景には、「その気になったら(オープンイノベーションではなく)自分たちでできる」という自前主義への拘りがあり、この気持ちと決別できないと案件がうまくいかないこともあります。これは、三菱UFJFGとて同じことです。

 これを変えるには、現場の巻き込みが必要になります。先ほど、各主要部門の次長クラスに関わってもらっていると話しましたが、三菱UFJIPでは週次で新規案件のレビュー会議をやっています。その場で、私たちが集めてきたスタートアップ企業を三菱UFJFGの各本部にぶつけ、その中で協業できそうな案件について橋渡ししてもらいます。加えて、スタートアップ企業のトップを当社に招き、直接銀行員に対してピッチをやる場も設けました。銀行員は、実は起業家と直接話したことがない人が多いので、そういう機会を持つことでマインドセットを変えてもらっています。

長期的には地銀との提携も視野に

――銀行と比較した時、三菱UFJIPの投資の決定は速くなるのでしょうか。

 そうですね。先程話したように、協業を詰めるのは時間をかけます。実を言うと、200億円のファンドを立ち上げたのは1月25日ですが、4月半ばまでに、準備中を含めて投資委員会を4件通っています。片や三菱UFJ銀行では、3年間で14社ほどに出資しており、比較すると三菱UFJIPのペースは速いと思います。なにも速ければいいというわけではありませんが、特に海外において、良いスタートアップ企業はすぐに資金調達ができてしまうので、協業を含めた投資の検討スピードを速くしないといけません。

――200億円という投資の枠については、これで十分なのか、もっと大型化したいのかどちらでしょう。

 おそらく日本のCVCでいうと、ソフトバンクのビジョンファンドを除くと、一番大きいサイズだと思います。例えば、50億円規模のファンドでは、投資規模も限られるので、立ち上げてもインパクトがありません。海外でも、ユニコーンになっているような良いスタートアップ企業だと、そこに1%出資しようとなると、10億円以上ワンショットで出さないといけない。そうなると、やはり200億円くらいの枠は必要不可欠でしょう。

――今後はこの規模のファンドをどんどん増やしていくのでしょうか。

 CVCは5年や10年動かせばいいという話ではなく、企業におけるR&D(企業内の研究開発)活動の重要な戦略の柱です。海外には30年近く、金額では1兆円ほどの投資金額を積み上げたCVCもあります。三菱UFJIPの取り組み自体は、そのように10年や20年というスパンで考えています。最初の200億円のファンド自体は3年で終わりますが、2号、3号ファンドを順次作っていきたいです。

――中長期的な目標として、親会社である三菱UFJFGからはどのような目標が課されていますか。

 定量的な目標も定性的な目標もありますが、それを今話すのは難しいです。定性的な目標でいうと、東京オリンピックが終わってしばらくしたら2号ファンドを組成したいという思いはあります。

 また、オープンイノベーションに対する取り組みについて、組織もしくは銀行員にCVCと連動した評価の仕組みを課すことができれば、それは1つの完成形かもしれません。三菱UFJ銀行は、この4月から人事の評価体系を変えて、何もしていない人よりも失敗だとしてもチャレンジする人を評価すると明確に言っています。これは、(私たちが進める)オープンイノベーションと共通する部分があると思っています。

――三菱UFJの銀行員の中にも、このIPに来たいという人も多いのでは。

 おそらく相当多いと思います。私たちも、トレーニーという形で何人か受け入れたいところですが、銀行では人を動かすことは大変なのです。玉突き人事をどのように整理するかなど、時間がかかるという問題もあります。

――三菱UFJIPとして、地方銀行と提携することは考えていますか。

 長期的なスパンの中では、親密な地銀との協業の可能性はあると思います。ですが、話はまだ進んでいません。今は(投資の)箱を作ったばかりなので、実績を作るのに注力したいです。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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