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ビル・ゲイツ選「ブレークスルー・テクノロジー10」発表にあたって

2019年04月23日 12時05分更新

文● Gideon Lichfield

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MITテクノロジーレビューが毎年発表している「ブレークスルー・テクノロジー10」の2019年版では、ビル・ゲイツ氏に選考を依頼した。その背景を米国版編集長が解説する。

実際に対面したビル・ゲイツは、賢人の雰囲気と同時に子どもっぽさのある人という印象だ。博識ぶりは噂どおりで、こちらが質問をすると戸惑ったように眉間に深いしわを寄せた。その表情からは、自分より知能の低い相手への苛立ちが感じとれた。しかし、この世のありとあらゆるものに好奇心を抱いているゲイツの、好奇心が刺激される話題について話し始める姿を見たとき、はたと気がついた。その本質は、知的好奇心溢れるオタク少年だったころから、まったく変わっていないのだと。この複雑で豊かな世界は、いまなお、彼を魅了し続けているのだ。


ビル・ゲイツ氏が選んだ「2019年版ブレークスルー・テクノロジー10」はこちら。

ゲイツとのインタビューの流れで、MITテクノロジーレビューが毎年発表している「ブレークスルー・テクノロジー10」を、ゲイツに選んでもらうことになった。この提案にわれわれは興奮したが、いまにして思えば、少し事態を甘くみていた。MITテクノロジーレビューは2001年からこの企画を続けており、まず編集部で20個の候補を選び、それからゲイツが10個に絞る予定だった。

だがゲイツは、編集部が提示した候補のほぼすべてを却下した。

その結果、出来上がったリストは、ゲイツ個人によるものだ。 そしてゲイツ本人による紹介文インタビュー記事でゲイツ自身が語っている通り、彼の信念を色濃く示すものとなった。その信念とは、この世界にはさまざまな問題があるものの、 人々の幸福は目覚ましく向上しており、テクノロジーは長い転換期を迎えているというものだ。そして、これまでブレークスルーがもたらすものといえば、人間の寿命を伸ばすということだったが、これからのブレークスルーは、人間の生き方をより良くするものになるというのだ。 ゲイツはかなりの楽天家であり、大胆かつ楽観的な展望である。この信念に賛同するしないはともかく、今日のテクノロジーを見据える上で興味深い観点を与えてくれるのは確かだ。

ゲイツのリストが重点を置いている分野は、気候変動、 医療、人工知能(AI)の3つだ。当然ながら、リストに上がった項目の多くは、ゲイツの慈善事業か投資活動に関わっている。この情報をあえて公開するのは、これがジャーナリストだったら利益相反行為になるが、ゲイツの場合は話が違うからだ。ゲイツはそうしたテクノロジーが、人類にもっとも利益をもたらすと信じている。われわれがゲイツの意見を聞きたかった理由は、まさにそこだ。むしろ、リストに載っているテクノロジーのどれにもゲイツが投資していなかったら、その方が不自然だ。

ゲイツのリストを補完する形で、MIT テクノロジーレビュー編集部でもいくつかのリストを作った。「テクノロジーが解決すべき『世界の10大課題』」「世界を変えた『ローテクなイノベーション』」、そして予想以上に意見が割れた「残念なテクノロジー10選」だ。

これまでと同様、ブレークスルー・テクノロジー10のいくつかについて深く掘り下げて紹介する。その他の記事では、イノベーションがどのようにして生まれるかについて、あらゆる角度から迫った。デイナ・エバンスは、女性の健康に関するスタートアップ企業の紹介記事で、ある層の起業家がいまだ直面する障壁について紹介する。デビッド・ロットマンは、AIを使って製薬業界や材料工学の活性化とコストダウンを実現する可能性を探る。ブライアン・バーグスタインは、香水メーカーなど、テック企業以外でも商品開発にAIが導入され始めていることを紹介。そして、こうした技術が想像以上に困難を伴うのはなぜなのかに迫る。アフリカでのドローンの利用を研究するキャサリン・チャンドラーは、発展途上国に技術的解決策を輸出する際に、現地の状況を踏まえないことで陥る落とし穴について解説する。アルファ碁(AlphaGo)およびその後継機の開発者デビッド・シルバーは、AIが創造性を発揮することの意味について考えを巡らす。一方、ハーバード大学で哲学を教えるシーン・ドーランス・ケリーは、人間の多様性を機械の創造性で置き換えることはできないと論じる。

いつものように、このリストがあなたにとって刺激的なものであることを願っている。そしてあなたが何に興味を持ったのか(あるいは持たなかったのか)、ぜひ教えてほしい。

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