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JAXAや宇宙ベンチャーも入居するビジネス拠点に設置、オープンイノベーションや次世代人材育成に取り組む

シスコが宇宙関連ビジネス発掘の新拠点、東京・日本橋に開設

2019年04月19日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 シスコシステムズは2019年4月18日、東京・日本橋にある宇宙ビジネス拠点「X-NIHONBASHI(クロスニホンバシ)」内に「Cisco Innovation Hub(シスコ イノベーションハブ)」を開設した。シスコがグローバルに展開する「Cisco Co-Innovation Center」の新たな拠点となるもので、衛星データを活用した新規事業開発、オープンイノベーションを促す異業種間エコシステム構築、次世代人材育成の3つを目的としている。

 同日の記者説明会にはシスコ代表のほか、JAXA(宇宙航空研究開発機構)や宇宙ベンチャーのSpace BD、衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」を展開するさくらインターネット、VAIOの各社からも代表が出席し、日本国内における宇宙ビジネスの将来性やイノベーションハブに対する期待などを語った。

「Cisco Innovation Hub(シスコ イノベーションハブ)」記者説明会には、シスコおよびパートナー各社から代表が集まり、それぞれに宇宙ビジネスの現状と今後への期待を語った

イノベーションハブは、三井不動産が宇宙ビジネス拠点として開発するコワーキングスペース「X-NIHONBASHI」内に設置されている

宇宙ビジネス関連の新事業共創/エコシステム構築/次世代人材育成が目的

 説明会では、シスコシステムズでイノベーションセンター センター長を務める今井俊宏氏が、イノベーションハブのコンセプトや目的、具体的な取り組みの計画を説明した。

シスコシステムズ イノベーションセンター センター長の今井俊宏氏

 シスコでは世界12カ国/14拠点で、オープンイノベーションの実現や新テクノロジーの発掘を目的としたイノベーションセンターを展開してきた。東京でも2012年にイノベーションセンターを開設しているが、その活動をさらに活性化させるため、今回新たにイノベーションハブを開設した。

 今井氏によると、両者の違いは対象とするビジネス領域にある。イノベーションセンターは既存の製品/市場や隣接市場(製造、公共、スマーシティなど)にフォーカスしているが、イノベーションハブではより新しい市場機会(具体的には宇宙ビジネス)への接点となることを意図している。そのために、国内宇宙ビジネスの集積拠点のひとつであるX-NIHONBASHI内に拠点を構えた。

これまでのイノベーションセンターの位置づけとの違い。既存製品/市場や隣接市場ではなく、まったく新しい市場/技術との接点となることを目指す

 発表では、イノベーションハブが取り組む内容として「新しい事業の共創」「新しいエコシステムズの構築」「未来に向けた人材教育」の3つが挙げられている。

 まず新事業の共創については、衛星データを使った革新的なアイデアの発掘に挑む。シスコでは今年2月、オープンな衛星データプラットフォームTellusの開発と利用促進を行う25社の異業種間アライアンス「xData Alliance(クロスデータ アライアンス)」に参画した。イノベーションハブでは、このTellusから得られる各種衛星データと地上の各種データ(IoTデータやSNSデータなど)を組み合わせることで、スマートシティ、防災都市計画、環境問題対策など、各種社会課題に対する新たなイノベーションとビジネス創出を目指す。

 2つめの新たなエコシステム構築については、JAXAが民間との事業共創活動を実施しているX-NIHONBASHIを拠点とするメリットを生かす。X-NIHONBASHIには超小型衛星打ち上げサービスなどを手がけるSpace BDも入居しており、ベンチャー企業との共創の拠点となることが期待されると述べている。

シスコが今回発表したパートナー。今後もエコシステム拡大を図る

 さらに宇宙ビジネスに携わる次世代人材育成にも注力する。宇宙飛行士訓練技術を活用して1つのミッションにチームで取り組む学生演習プログラム「VAIO ミライ塾」を提供するVAIOや、宇宙教育プラットフォームを持つうちゅう、JAMSS(有人宇宙システム)などと協業し、中学生以上の学生を対象に宇宙関連ビジネスへの興味醸成を図る。

イノベーションハブのコンセプト。誰もがイノベーションに参加できるダイバーシティ、宇宙関連の次世代人材育成にも注力する

 今井氏は、イノベーションハブにおいて現在具体的に計画されている2つの取り組み、「イノベーションチャレンジ」と「宇宙教育プログラム」を紹介した。

 イノベーションチャレンジでは、学生から企業まで幅広い参加者を募り、衛星データのビジネス活用アイデアを探るオープンなコンペティションを開催する。アイデアハッカソンだけでなく、優秀アイデアはプロジェクト化し、最終的なサービス化/ショーケース化までを行う。今年夏にハッカソンを実施し、「2020年夏の東京オリンピック・パラリンピック開催期間までにはサービス化/ショーケース化できるようにしたい」と今井氏は語った。

 宇宙教育プログラムでは、前述したVAIOやうちゅう、JAMSSから宇宙教育コンテンツの提供を受けつつ、シスコが持つ遠隔教育も可能なデジタルラーニングプラットフォームも活用した学びの場を提供するとしている。

現時点で計画されている2つの取り組みのロードマップ。2020年12月以降の活動は実績を見ながら検討していく

「いまはまだ“小さな可能性”でしかないものを、新しいビジネスに育てる」

 シスコ日本法人 会長の鈴木和洋氏は、「そもそもなぜシスコがこんなことを? と思われるかもしれない」と述べたうえで、今回のイノベーションハブ開設の背景を説明した。

 現在のシスコは「今日と新しい未来をつなぐ架け橋になる」という企業ビジョンを掲げており、従来の企業/データセンターネットワークやコラボレーション製品のビジネスだけでなく、スマートシティやスポーツ、ライブエンタテインメントといった新たなビジネス領域への展開を強めている。そして宇宙ビジネス、衛星データ活用ビジネスといったものも、ここに加わる新たな柱になる可能性があるという。

 「今から25年ほど前、名刺にはEメールアドレスが記載され始めたが、当時はまだ企業の基幹業務にインターネットを使うのは“ありえない”、不可能だと言われていた。しかし、25年経った現在では、インターネットは基幹業務でも当たり前のように使われるようになっている。シスコが、さまざまなパートナーと協力しながら不可能と言われていたことを実現したわけだ。このように、今日現在ではまだ“小さな可能性”でしかないもの、これをパートナーとの協業を通じて実現し、新しいビジネスにするという活動を続けていきたい」(鈴木氏)

シスコシステムズ 代表執行役員会長の鈴木和洋氏

 説明会ではシスコ今井氏とJAXA、Space BD、さくらインターネット、VAIOの各社によるパネルセッションも行われ、各社の取り組みのほか、日本政府も注力し始めた民間主体の宇宙ビジネスの現状や今後への期待などが語られた。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)新事業促進部長の岩本裕之氏。米国を中心に民間の宇宙ビジネスが急拡大しており、日本でも“New Space”と呼ばれる宇宙ベンチャーが多数立ち上がっていることを紹介。JAXAでも民間との多様な事業共創を積極的に進めている

Space BD 衛星打ち上げ事業部長の桃尾一馬氏。国際宇宙ステーションからの衛星打ち上げなど、同社は幅広い宇宙ビジネスを手がける“宇宙商社”を標榜する。総合商社出身の桃尾氏は、同社に入り「宇宙って意外と誰でも使えるんだな」と感じたという

さくらインターネット 執行役員の上田晋司氏。総務省受託事業として展開するTellusは、衛星データに「使う」環境も組み合わせたプラットフォームを提供。「開始からおよそ2カ月で8000ユーザーを超えた。仕事と趣味が半々のユーザー層も多い」と語る

VAIO 執行役員の花里隆志氏。PC開発/製造/量産技術を生かしたEMS(受託生産)事業を展開する中でスタートアップとの付き合いが深まり、そこから「VAIOミライ塾」が生まれた。最先端テクノロジーを使いこなす次世代人材を育てるカリキュラムを提供している

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