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ヒットを飛ばすも次々炎上する絵本作家の商法はどこがマズいのか

文● まつい きみこ(ダイヤモンド・オンライン

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出す作品がことごとく炎上しています。

『ママがおばけになっちゃった!』(左)はのぶみさんも「子どもたちはかなり嫌がる本」とQREATORSのインタビューで答えている。『はたらきママとほいくえんちゃん』(右)は、働く母親への偏見といった声が上がり炎上した

「本が売れない」時代、のぶみさんはヒット作を飛ばす絵本作家だ。暴走族から絵本作家という経歴も注目され、「情熱大陸」など数々のメディアにも登場している。しかし一方で、出す作品がことごとくSNSで批判の対象になる炎上絵本作家としても知られている。今年2月から刊行中のキティ誕生45周年のコラボ絵本も現在炎上中。一体いつまで、のぶみさんは炎上を続けるのだろうか? 

炎上商法で盛り上がる?
絵本作家のぶみさん

 のぶみさんを絵本作家として一躍有名にしたのは『ママがおばけになっちゃった!』(講談社)だろう。2015年7月に発売され、初版は4000部だったが、1年後には続編と合わせシリーズ累計53万部という売れ行きで、業界の注目が集まった。異例ともいえる売れ方だが、母親の死をテーマにした内容は賛否が分かれ、感動の「迷作」絵本としてSNSなどで炎上した。

 その後も頻繁に、新刊を中心に批判的な声が上がり続け、『はたらきママとほいくえんちゃん』(WAVE出版)は、働く母親を理解していないと炎上した。

 また、サンリオのキャラクター「ハローキティ」の誕生45周年を記念して、2019年2月からのぶみさんがコラボで作った「ハローキティのえほん」シリーズ(講談社)が現在刊行中だが、既刊の『まけずぎらいキティ』(2月)、『おひめさまキティ』(3月)では、行動や言葉遣いがあまりにも乱暴で、「子どもには読ませたくない」「今までのキティのイメージが崩れた」と批判の嵐。アマゾンのレビューも酷評が並んでいる。

 のぶみさんの炎上は絵本だけではない。のぶみさんが歌詞を担当しNHK教育テレビ「おかあさんといっしょ」の11代目うたのお兄さん・横山だいすけさんが歌った「あたしおかあさんだから」という歌は、「だい!だい!だいすけおにいさん!」(ネット動画配信サービスHulu)という番組で2018年2月1日に更新された。この歌詞に「母親には子育ての呪縛に聞こえる」など、批判が殺到。横山だいすけさんや、のぶみさん本人の謝罪コメントがSNSに上がった。しかしその後も、のぶみさんにはこの歌詞の盗作疑惑が浮上するなど炎上は続いている。

 また、内閣府の「子ども・子育て支援新制度」のシンボルマークにもなっているのぶみさんのイラストは、母子手帳の表紙にも採用されているが、「絵本作家としての資質が疑われる作家の絵は拒否!」という理由などで炎上。のぶみさんの引きこもりから暴走族、そして絵本作家という注目のプロフィールも偽装が疑われており、もはや炎上商法ではないかという声も出ているほどだ。

批判が多くても
なぜ本が売れるのか?

 なぜ、のぶみさんの作品は、これほどまでに話題に上るのだろうか?そして炎上してもなぜ本が売れるのか。図書館司書児童担当の研修を行う子どもの本の専門家で、家庭文庫「子どもの本の家ちゅうりっぷ」の主宰もする神保和子さんは、『ママがおばけになっちゃった!』が発売された当初から、子どもに与える心理的な悪影響を危惧していた1人である。

「のぶみさんが相手にしているのは、小さな子どもを育てるお母さんたちです。彼は、『お母さんたちが買ってくれる』という部分だけをマーケティングし、『大人にウケる』、あるいは『私、こんなに頑張っている』と承認欲求の強い母親が泣けるという部分に焦点を当ててきたのでしょう。そこに『売らんかな』というあざとさが見え隠れしています。お母さんの向こう側にいる、幼い子どもの発達段階や心理というものをまったく気にかけていないのです」

「だからこそ母子分離不安をあおる『ママがおばけになっちゃった!』のような、死を軽視し、子どもを不安に陥れる作品が描けてしまうのです。あの絵本がメディアによって持ち上げられ大ヒットしたことで注目を浴び、その作品がはらむ問題性がクローズアップされました。しかし、のぶみさんと彼を持ち上げる周囲の者は2匹目、3匹目のどじょうを狙ってくるのです。でも、読者はバカではありません。作品が発表されるたびに、だんだんと彼のあざとさに気づいていったのです。そして次第に彼の作品に目を凝らし、問題を見つけるようになっているのだと思います」(神保さん)

 のぶみさんの本が売れるのは、彼が母親の承認欲求を意識して作った絵本に共感する母親が多いということだろう。そして、中身よりも宣伝力で売れた子どもの本は、読者がその価値のなさに気づいた瞬間から、真逆の立場に転じて炎上という現象につながっていると考えられる。

絵本作家としての姿勢が
疑問視される

 のぶみさんの絵本には、母親や女性の自己主張が全面的に、しかも文章で分かりやすく「私」として登場する。今の女性が子どもとの関係で問われる「子育ての現実」を、開き直って作品にしている点は確かに面白い。また、その「子育ての現実」にぴったりハマると感じる読者には「本当に共感する」1冊だろう。

「ハローキティのえほん」シリーズのキティは母親ではないが、訴求ポイントはこれまでの作品と同様だ。ベースにあるのは、これまでのキティ像と対比させ「本当はこんなよい子風には見られたくなかった」である。

 のぶみさんのファンが多く、また絵本が売れる背景には、神保さんの指摘する「承認欲求」が子育ての中で満たされていない母親や女性が多いということかもしれない。それはもちろん、日本の社会の問題として考えなければならないことだ。

 だが、のぶみさん以外にも、日本の家族や子育ての現状を絵本で表面化し、一部で問題視された子どもの本はたくさんあるのだが、どうも炎上にいたるまでの経緯が、他の作品や作家とのぶみさんでは異なっているように感じるのである。

 例えば以下の対談のように、のぶみさんが「子どもの持つ資質を意図的に利用した大人に訴える本が売れる」と述べ、さらにそれが自分の作品の特徴であると強調し、炎上している点などがそうだ。

「ちょっと絵本作家らしくないことをバンバンやったり、僕の絵本で一番わかりやすいのは、もう会話文が違うんですよ。昔の会話文と違くしてて。テンポもリズムも変えてるんですね。『イケメン』っていう言葉とか、『スマホ』とかいうのも、使っちゃ絶対ダメだって言われてるんだけど、僕はだから使うんですよ」

「(中略) 子供は、正直なにを見せられても、『あっ』って反応はするけど、そんなに拒否とかはしないんですよ。子供って出版社に感想を送れないから。だから、お母さんがやってかないといけないし、でもお母さんは『これと『妖怪ウォッチ』、どっちがおもしろい?』っていったら、『妖怪ウォッチ』だっていうこともわかってるんですよね」(「会議を見せるテレビ第14回#5/7」のぶみさんコメントから)

 のぶみさんは、似たようなコメントをSNSなどでも語っているが、子どもを対象にした絵本作家の姿勢としては、一般的に理解されにくいだろう。

 若い作家が新しいことをやりたいという気持ちは歓迎されるべきだが、子ども向けの本なのだから、まずは子どもの目線を持つことが第一だ。言葉選びに対するのぶみさんの考え方を含め、子どもの心の成長を支えることが子どもの本の役目と考える人々から見れば、のぶみさんの本には嫌悪感しか湧いてこないのだ。

炎上絵本作家は
この先どうなるのか?

 のぶみさんのこれまでの言動を見ていると、絵本作家として目立ちたいけれど、目立ち方がイマイチわかっていないのではないかと感じる。絵本作家としての資質はあっても、向かうべきところが「子ども」でないなら、どんなに目立っても、絵本の本質からは明らかにズレている。

 そして、のぶみさんが目立てば目立つほど、そのズレへの指摘も厳しくなる。そして今度はウソも加わって、いじめのような炎上が起こってくる。それが今の炎上絵本作家のぶみさんの状況ではないだろうか。

 炎上しながらも「新しい時代の絵本作家として活躍したい」本人の意欲を、あえて応援するとすれば、「子どものための本作り」を目指すことだろう。

 例えば、のぶみさんの『0さいまるごとひゃっか』(ひかりのくに)は、『がたん ごとん がたん ごとん』(作:安西水丸/福音館書店)のパクリと炎上しているが、内容自体は『しゅっぱつしんこう!』(作:三田村信行/絵: 柿本幸造/小峰書店)にも見られる一般的な展開で、パクリと言い切れるのかは難しい。

 だがそれよりも、気になるのはその中で描かれている新幹線を「ガタゴト、ガタゴト」と言葉で表現していることだ。子どもに言葉を伝えることは絵本作家の大切な使命だが、新幹線は本当に「ガタゴト」なのか?もしそうなら、その理由を含め、子どもたちの心が豊かになる言葉だと読者にわかる必要があるだろう。

 乱暴な言葉が多いと批判されるのぶみさんだが、「絵本では使ってはいけない言葉と言われたから」あえて使うということではなく、この本を読む子どもたちにどうして必要なのかを掘り下げていくことができれば、炎上ではなく新しい子どもの本の誕生が期待されるかもしれない。

 本は読まれることが大事だが、絵本を含めた子どもの本は、読後の「そこから先」がもっと大事で、それが大人の本とは決定的に違う部分だ。

 のぶみさんには、子育てや子どもの現実というリアルをプロットにする力があり、そこが大人を惹きつける。だが、子どもを対象とする絵本作家を目指すのであれば、同じリアルでも「そこから先」の真実が子どもたちに届くように見識を広げ、炎上ではなく議論として新しい炎を子どもの本の世界で燃やしてほしいと願う。

(まついきみこ@子どもの本と教育環境ジャーナリスト/5時から作家塾®)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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