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小規模事業所/店舗向けのEコマース販売/DIYモデル「Meraki Go」など投入、SMB営業部門も新設

シスコが「Cisco Start」SMB戦略拡大、数名規模オフィスも狙う

2019年04月12日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 シスコシステムズは2019年4月11日、SMB(中小企業、従業員100名以下)市場向け「Cisco Start」シリーズにおいて、製品ポートフォリオの拡大とSMB専門営業部門の新設を発表した。製品面ではより小規模(従業員25名以下)のオフィス/店舗向け新製品として、Eコマース販売/顧客自身がセットアップする“DIYモデル”を採用した無線LANアクセスポイント「Cisco Meraki Go」や、「Cisco Webex」少人数エディションを投入している。

新発売の「Cisco Meraki Go」概要。従業員25名以下のオフィスや飲食店、小売店舗などをターゲットとしたクラウド管理型の無線LANアクセスポイント

米シスコシステムズ SVP チーフ オブ オペレーションズのアーヴィン・タン(Irving Tan)氏

シスコシステムズ日本法人 執行役員 SMB・デジタル事業開発担当の鎌田道子氏

Meraki、WebexなどCisco Start製品ポートフォリオをさらに拡充

 Cisco Startは、シスコが2015年からSMB市場向けに展開している製品ブランド。IT専任担当者不在の中小企業においてもシンプルで運用しやすく、なおかつセキュアで安定したビジネスネットワークを提供する製品群と位置づけられている。Merakiのようにクラウドテクノロジーを使い、オンプレミスの管理製品導入を不要にしている点もポイントだ。

 今回の発表では、このCisco Startの製品ポートフォリオが拡充された。クラウド経由で設定や管理、監視のできるMerakiシリーズでは、IPセキュリティカメラ「Meraki MV」新版やレイヤー2スイッチ「Meraki MS120スイッチ」などが追加された。またWeb会議システムのWebexシリーズでは、最大5名程度のミーティングスペースに設置できるカメラ/マイク/スピーカー内蔵デバイス「Webex Room Kit Mini」や、PC/スマートフォンの資料画面共有をワンプッシュで行えるデバイス「Webex Share」を発表している。

 またDNSで危険サイトへの接続を防止するセキュリティサービス「Cisco Umbrella」の日本語化やサポート体制強化を行い、SMB顧客でも利用しやすくしたほか、性能アップとサイズダウンを図った最新ルーター「Cisco 900Jシリーズ サービス統合型ルーター」も製品ラインアップに加わっている。

Cisco Startポートフォリオに追加された新製品群。これらの製品は従来どおり販売パートナー経由で提供される

“従業員数名規模”“DIY導入”がターゲットの「Meraki Go」

 さらに、SMB市場の中でもより小さい、従業員25名以下の小規模企業やスタートアップ、個人事業主などを対象とした製品も新たにラインアップされた。これまでのCisco Start製品はパートナー(代理店)経由で販売を行ってきたが、これらの製品はEコマース経由での直販を行うのが大きな特徴だ。製品のセットアップ作業も購入したユーザー自身で行う“DIYモデル”となっている。

 1つめの製品であるMeraki Goは、小規模オフィスや店舗などをメインターゲットとした2.4/5GHzの無線LANアクセスポイントだ。専用のスマートフォンアプリを使い、簡単にセットアップや運用監視ができる仕組みとなっている。本体は屋内型モデル(GR-10)と屋外型モデル(GR-60)の2種類がラインアップされており、PoEスイッチまたは電源アダプタからの給電で動作する。

無線LANアクセスポイント「Meraki Go」の屋内型モデル(GR-10)と屋外型モデル(GR-60)

 セットアップ時には、スマートフォンアプリを起動してカメラで本体貼付の二次元コードを読み取ることで、MerakiアカウントとMeraki Go本体とのひも付けを行う。その後、Meraki Goをインターネット接続し、SSIDや接続パスワードを設定すれば準備完了だ。シスコでは「箱を開けて5分でセットアップが完了する」とアピールしている。たとえば店舗内/外など複数台(最大20台)のMeraki Goを登録し、同じネットワーク設定でまとめてセットアップすることもできる。

 Meraki Goは最大4つのSSIDをサポートしており、たとえば「従業員用」と「ゲストWi-Fi」「POS端末用」などのトラフィックに個別のSSIDを提供できる。SSIDやデバイス、アプリケーション(ビデオ、ファイル共有、SNSなど)ごとに使用帯域制限をかけたり、特定のWebサイト(ドメイン)へのアクセスブロックが設定できる。ゲストWi-Fiでは、接続時に店舗ロゴやメッセージを表示したり、店舗のWebサイトなどにリダイレクトさせる「ランディングページ」機能や、接続デバイス間の通信を禁止してセキュリティを高める「クライアントアイソレーション」機能なども備えている。

 アプリからはネットワークの利用状況(トラフィックの推移や接続台数、アプリケーション種別など)や、接続デバイスの詳細(デバイス名やOS種別/バージョンなど)といった情報が確認できる。こうした情報はMerakiクラウドサービスに集約されているので、外出先などからでもネットワークの稼働状況を確認したり、設定変更を行ったりすることが可能だ。

コマーシャルビデオでは渡辺直美さんがカフェオーナー/スポーツジム経営者/デザイナーに扮し、Meraki Goが誰でも簡単にセットアップできることをアピールしている(YouTube、CiscoJapanチャンネルより)

スマホアプリからネットワークの利用状況などを確認できる。またスマートフォンの場合は二次元コードを読み込むだけで無線LAN接続設定が可能

 Meraki Goは5月からAmazon.co.jpでオンライン販売を開始予定。今回の発表では、税抜価格は屋内型のGR-10が「2万円台から」、屋外型のGR-60が「3万円台から」としている(いずれも1年間のMerakiサブスクリプション付き)。

 シスコシステムズ日本法人 執行役員 SMB・デジタル事業開発担当の鎌田道子氏によると、同製品の販売チャネルはまずオンライン販売で市場シェアの高いAmazonのみでスタートする。販売開始後、小規模なSMB顧客のニーズをふまえながら販売チャネルを拡張していく方針。オンライン販売にはこだわらないが、DIYモデルの製品であるため「(従来の販売モデルのように)SIやマネージドサービスを付けた形ではない販売チャネルを検討していくのが基本」だと述べた。また、故障対応などのサポートはシスコが担当する。

Meraki Goのターゲット顧客層。重要なデータを扱う小規模オフィス、無線LANデバイスを業務利用するケースが増えた小売店、ゲストWi-Fiニーズの高いカフェやホテルなどのホスピタリティ業界の3つを挙げた

オンライン購入で利用開始、Webexも小規模チームや個人で導入しやすく

 もうひとつ、Web会議/コラボレーションツールのWebexにおいて、従来よりもさらに小規模なライセンスが新たに提供されることになった。最も小規模な「Cisco Webex Starter」では、購入可能なホストライセンス(会議主催者ライセンス)が10まで、1会議あたり参加者50名までとなっている。こちらはシスコWebサイト経由でオンライン販売を行い、「10名以下のオフィスでも、オンラインで購入してすぐに使っていただける」(鎌田氏)点を特徴としている。

 税抜き価格は、上述のWebex Starterが月額1700円、中規模向け(ホストライセンス50まで、1会議あたり100名まで)のWebex Plusが月額2250円、大規模向け(ホストライセンス100まで、1会議あたり200名まで)のBusinessが月額3400円となっている。

 さらに、30日間の無料トライアルが提供されるが、トライアル期間終了後も3名までの会議ならば継続して無料で利用できる。「まずは(SMBの顧客に)使ってみていただきたい、コラボレーションを活用していただきたいと考えている。使うことで生産性が向上し、顧客のビジネスが拡大すれば、われわれもさらに色々な提案ができるようになる」(鎌田氏)。

「Cisco Webex」では小規模なチームや個人が利用できる小規模ライセンスを追加。オンラインで購入しすぐに利用開始できる点もポイント

SMB専門の営業組織を新設、全国へシスコをプロモーションする車両も

 今回の発表会では、新たにSMB市場向け営業部門(SMB・デジタル事業開発)を立ち上げたことも発表された。鎌田氏がSMB専任で事業戦略を統括し、販売を進めていく。

 鎌田氏は、Cisco Startのビジネスは「非常に顕著に成長している」と述べ、特に製品ラインアップが揃ってきた最近では、ネットワークの一部分だけでなくフルスタックでCisco Start製品を導入する顧客も増えていると紹介した。シスコ日本法人 社長のデイヴ・ウェスト氏が示した資料によると、Cisco Start製品の販売額は2016年から2018年でおよそ6倍に増えている。

 一方で、これまで3年強にわたってCisco Startのビジネスを展開する中で、ネットワーク構築や運用をアウトソースしない(できない)顧客層も見えてきたと、鎌田氏は説明した。従業員数名規模の非常に小さなオフィスや店舗では、予算の都合からネットワーク構築を自ら行いたいというニーズが一定数ある。そうした顧客層には、これまでのパートナー経由での製品販売モデルはそぐわない。そこで、前述したMeraki Goやオンライン販売版のWebexなどを新たに用意したと説明する。

 「今回は小規模企業に特化したかたちで製品ポートフォリオを拡充し、販売体制も新たに作成し、マーケティングも強化していく」(鎌田氏)

今回は、より小規模な企業に特化したかたちで販売戦略を強化していく方針が示された

 マーケティングに関しては、これまで“大企業向けのネットワーク製品”というイメージの強かったシスコブランドを、SMB顧客にも身近に感じてもらうための施策を強化していくという。その具体的な施策の1つとして、シスコ製品/サービスのプロモーション車両「Cisco Network Experience Vehicle(Cisco NEV)」が披露された。NEVの車内には、Merakiネットワーク製品や「Cisco Webex Board」などのコラボレーション製品が備え付けられており、直接シスコ製品に触れ、体感できる機会を提供する。たとえばスポーツイベントやライブイベントの会場、大学キャンパスなど全国に出向き、積極的にプロモーション活動を行っていく計画だという。

「Cisco Network Experience Vehicle(Cisco NEV、シスコネットワーク体験車)」。大規模災害時のネットワークサービス支援活動も想定している

 発表会に出席した米シスコシステムズ SVPのアーヴィン・タン氏は、SMBのビジネスにおいてもデジタルトランスフォーメーション(DX)が必要とされる時代となっており、シスコはそこにパッケージ化されたシンプルかつセキュアなソリューションを、日本の企業文化に合ったかたちで提供していくと説明。Cisco Start製品群を導入することで「SMBの皆さんがITに気を使うことなく、自分たちのビジネスに専念できるようになる」と述べた。

 またシスコ日本法人 社長のウェスト氏は、中小企業庁の調査に基づく推計値として「ビジネスプロセスやビジネスオペレーションにITを活用できていない中小企業(給与/経理業務を除く)」がまだ80%以上に及ぶこと、その原因がITの複雑さや難しさに起因することを指摘。「この数字を見れば、シスコがさらにイノベーションを続けなければならないことがわかる」と述べたうえで、Cisco Startのポートフォリオをさらに加速させていきたいと語った。

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