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ゴーン追放でも気が抜けない、日産首脳人事の「新たな火種」

2019年04月09日 18時00分更新

文● ダイヤモンド編集部,新井美江子(ダイヤモンド・オンライン

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榊原定征・東レ特別顧問は、日産自動車のガバナンス改善特別委員会の共同委員長も務めており、日産取締役会議長への“横滑り”人事には、そもそも疑問符が付いている
榊原定征・東レ特別顧問は、日産自動車のガバナンス改善特別委員会の共同委員長も務めており、日産取締役会議長への“横滑り”人事には、そもそも疑問符が付いている Photo:Bloomberg/gettyimages

日産自動車は、株主から厳しい質問を浴びせられながらも、カルロス・ゴーン元会長の追放を果たし、臨時株主総会を無事切り抜けた。しかし、日産のガバナンス刷新の肝であり、同社の将来を左右する取締役人事で、新たな“火種”が発生している。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

「あれって『アリ』なんですかね?」(日産自動車幹部)。

 4月8日、カルロス・ゴーン日産元会長の取締役解任などを目的として臨時株主総会を開催した日産。株主からは、「現経営陣にも社会的、道義的責任がある。総退陣すべきではないのか」「ゴーン氏の手口が巧妙だったにしても、なぜ長く不正に気付かなかったのか」といった厳しい声も飛んだが、ゴーン元会長を追放するという最大の目的は無事達成した。

 かくして、次の焦点は、新たな企業統治(コーポレート・ガバナンス)体制を構築するべく、6月の定時株主総会までに社内外の取締役の選定をいかに穏便、かつ思い通りに進めるかに移った。ところが、この日産の将来を左右する決定を前に、またもや“火種”が燻っている。

 着火寸前の議論の的とは、ずばり取締役会議長の人選だ。現在、榊原定征・東レ特別顧問(日本経済団体連合会前会長)を据える人事案が浮上しているのだが、これに日産社内外から冒頭のような疑問の声が噴出している。

 当ポストは、独立性を有する社外取締役が務めるべきだとして人選が進んでいる。ゴーン元会長に権力が集中したガバナンスを改めるため設置された、独立した第三者による「ガバナンス改善特別委員会(特別委)」の提言を踏まえてのことだ。

 榊原氏は特別委の共同委員長だっただけに、ただでさえ自分で自分を選んだような、違和感のある人事と見られがちだ。

 だがここに来て、さらに重大な問題が勃発している。榊原氏の出身会社である東レが、日産に自動車向けの素材を納入する利害関係者であることに、各方面から疑義が唱えられ始めているのだ。

 特に日産は今、関係がこじれたルノーとのアライアンスを、経済合理性を追求して収益拡大を目指すという、本来の形に急ピッチで戻していく必要に迫られている。

「そんな重要な局面で難しい差配を求められる議長職が、そもそも社外の人間に務まるのか。おまけに榊原さんは取引先の出身じゃないですか。日産の意見に口を挟まない“お飾り”の議長になるのが目に見えている。榊原さんは、そんなに『ポスト』がほしいんですかね」。産業界では、こうした手厳しい意見が専らとなっている。

 さらに、榊原氏の出身母体である東レの社内からも、「榊原人事に懸念を抱く経営上層部が出てきた」(取引先関係者)という。

 東レが拒絶反応を示すのも無理からぬ話だ。東レが製品を納入する自動車会社は、トヨタ自動車やホンダなど、日産だけではないからだ。

 同業の素材メーカー幹部も、「自動車各社はライバル意識が強いから、このままだと日産と手を組んだと見られて日産以外の営業に影響が出かねない」と心配の目を向ける。

 東レ幹部はかたくなに口をつぐむが、実際、このままでは実ビジネスへのリスクは回避できそうにない。「東レも、もはや日本の産業界を揺るがす大問題にまで発展した日産のガバナンス改革にあからさまに水を差すわけにはいかないでしょうが、榊原さんに苦言を呈するくらいのことはするんじゃないですかね」(同)。

日産人事めぐり水面下で動く
経産省―官邸筋

 実は、榊原氏の議長案は、必死なる検討をへてようやく行き着いた苦肉の策だ。

 日産は4月1日に、指名委員会等設置会社移行の準備段階として「暫定指名・報酬諮問委員会」を設置。臨時株主総会では、すでに国内外約100人を取締役の候補として選出していることを明らかにした。

 こう表明すると、あたかも日産だけで事が進められているかに見えるが、現実は違う。榊原氏を含めた議長人事の裏には、ルノーの筆頭株主であるフランス政府を納得させようと、かなり前から経済産業省―官邸筋が水面下で動いているのだ。

 しかし、政府の力をもってしても人選は難航を極めた。候補には岡素之・住友商事元社長や長門正貢・日本郵政社長など、財界の“上がりポスト”に就く複数の重鎮が検討されたものの、ことごとく断られたといわれる。

 日産を潰すわけにはいかないと経営介入までした政府サイドにしてみれば、榊原氏はようやく見つけた火中の栗を拾う“重鎮”なのである。

 もっとも、榊原氏本人だけはやる気満々だ。「日本のためにも受けなければならない。東レの営業に影響が出るのが不安なのであれば、内山田会長(内山田竹志・トヨタ会長)のところにでも、章男社長(豊田章男・トヨタ社長)のところにでも、私から説明に行く」と周囲に語っているという。

 ただ、日産にとって、ルノーとのアライアンスを再構築するための最適な議長は本当に社外の人間なのか。それは、取引先にビジネス上のリスクを負わせてまで推し進めるべきものなのか――。

 成長への最短距離を選ばず、ほころびが隠せない議長人事を行おうとする日産に、真のガバナンス刷新は望めない。日産の“復活”には時間が掛かりそうだ。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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