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「ゴーン会見」を阻止した再逮捕に日産がほくそ笑む理由

文● ダイヤモンド編集部,千本木啓文,土本匡孝,浅島亮子(ダイヤモンド・オンライン

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カルロス・ゴーン氏が再逮捕で再び収監されることになり、一番得しているのは誰か――
カルロス・ゴーン氏が再逮捕で再び収容されることになり、一番得をするのは誰か 写真:AFP=時事

 日産自動車が中東オマーンの販売代理店に支出した資金の一部を不正に流用した疑いがあるとして、東京地検特捜部は4日、日産前会長のカルロス・ゴーン被告を会社法違反(特別背任)の疑いで再逮捕した。特捜部が動く事件(いわゆる特捜事件)で、保釈後の被告が再逮捕されるのは異例だ。

 すでに同法違反(特別背任)の罪などで起訴されていたゴーン被告の逮捕は4回目。3月6日に保釈されるまで、100日余りの長期にわたって勾留されていたゴーン被告は再び身柄を拘束されることになった。

 ゴーン被告は再逮捕後、代理人を通じて「常軌を逸しており、恣意的だ」と特捜部に抗議する声明を発表した。ゴーン被告の長期勾留は、海外メディアなどから「人質司法」と批判されてきたが、非難の声が再燃しそうだ。

 そもそも保釈前も、「再逮捕」が勾留の延長理由に使われていた。3回目の逮捕があった昨年12月21日の前日、東京地裁はゴーン被告の勾留延長を認めない決定をしており、再逮捕がなければゴーン被告はもっと早く保釈されると見られていた。

異例の保釈中再逮捕

 特捜事件で、保釈後の被告が再逮捕されるのは確かに異例だ。

 ただし、保釈許可の主な条件は、証拠隠滅、口裏合わせなど、既に起訴された事件に関して今後予定されている公判への支障がないかどうか。起訴された事件以外は“無罪放免”というわけではない。起訴された事件とは別の容疑があり、逃亡、証拠隠滅の恐れなど再逮捕の必要があればあり得る。

 過去には大阪地検特捜部が2007年、談合罪で起訴されて保釈中だった元警察官を、収賄容疑で再逮捕したケースがある。そもそも特捜事件の絶対数が少なく、「異例」な点のニュース性は低かろう。

 では、なぜ「在宅のまま追起訴」(つまり逮捕をせずに、任意の事情聴取で証拠を固めて公判請求)ではなく、逮捕に至ったのか。

 ゴーン被告の弁護人である弘中惇一郎弁護士は保釈決定のあった3月5日、「(今後任意の事情聴取の要請があっても)応じないですね」と発言。この全面対決姿勢に、東京地検特捜部は「全容解明には強制捜査が不可欠だ」と判断したのかもしれない。再逮捕の方針が報道された4月3日夜、弘中弁護士は「内容と条件によっては(ゴーン被告は事情聴取に)応じる」と態度をやや軟化させていたが、“時すでに遅し”だったようだ。

口封じだったのか

 では再逮捕は4月11日にゴーン被告が予定していた会見の“口封じ”だったのか。

 あるいは、否認事件では異例の保釈に対する特捜部の“意趣返し”だったのか。

 今回の逮捕容疑である中東関係の疑惑は、保釈前から報道レベルでは浮上していた。当然、特捜部も保釈前から動いていたはずで、「起訴後勾留中に任意聴取で証拠固め→追起訴」という算段だったに違いない。

 勾留中の調べは「任意捜査が建前」(刑事事件に詳しい弁護士)とは言うものの、「密室故に捜査員は言葉巧みに聴取に応じさせることがある」(同)からだ。だが、保釈されれば文字通り任意捜査となって、特捜部にとって形勢は不利だった。

 口封じについては、これまで起訴された事件、今回の事件いずれも民間人参加型の裁判員裁判対象事件ではないので、ゴーン被告が会見でどのように世論誘導しようが、公判は裁判官の下で開かれる。捜査機関は通常、裁判員に予断を与える世論誘導を非常に嫌うが、裁判官に会見の影響があるとは考えにくい。

幸運がもたらされた日産

 このタイミングでの再逮捕が“口封じ”という意味合いになることを喜んでいるのは、特捜部ではなくむしろ日産自動車だろう。

 前述のように特捜部は保釈前も保釈後も粛々と捜査を進めていたとみられ、「異例の保釈に対する意趣返し」という見方も少し無理がありそうだ。

 実際に、特捜部と日産の両者が協力し合っているのかどうかの真偽はわからない。それでも、特捜によるゴーン被告逮捕によって、西川廣人・日産自動車社長ら日産経営陣に幸運がもたらされたことだけは確かである。

 どういうことか。

 いまや幻となった「ゴーン会見」は、4月11日に予定されていた。

 ちょうどこの期間は、ガバナンス改善特別委員会からの報告書を受けて発足した「暫定指名・報酬諮問委員会」が、日産の取締役会メンバー候補者を選定する作業がヤマ場になるタイミングだ。

 日産経営陣は、暫定指名・報酬諮問委員会からの助言を受けて新しい取締役会メンバー候補者案を決めて、6月末の定時株主総会で付議する予定で進めている。

 つまり、ゴーン会見予定日と重複する「4月中旬」は、日産にとって、首脳人事を決める重要な時期だと言える。

 ゴーン被告は、今回の逮捕前日に、「何が起きているのか、真実をお話しする準備をしています」とツイッターで予告していた。その“真実”とは、「西川社長を個人攻撃すること」(日産幹部)だったに違いない。

 日産や特捜部がこぞって情報を流してきたゴーン被告の不正事案に、「実は西川社長による何らかの意思決定が関与していた」とゴーン被告が証言したならば、一連の経営責任の矛先は、ゴーン被告のみならず、西川社長ら経営陣にも向かうだろう。

 そうなれば、日産経営陣が温めた新しい首脳人事案、新しい経営体制案などいとも簡単にひっくり返ってしまう。

 ただでさえ、第三者的な立場にあるべき榊原定征・ガバナンス改善特別委員会共同委員長(東レ特別顧問)が日産取締役会議長へ“横滑り”する人事案が取りざたされており、「ケチがついている」(日産幹部)薄氷の人事案である。

 だが、ゴーン氏は逮捕された。特捜部による“強力なパス”によって、日産はゴーン被告の発言の機会を制することに成功し、西川社長は“鉄壁の守り”を築いたかのようにみえる。

 だが、ゴーン被告側は、会見の代わりとなる「動画メッセージ」の公開を近く予定しているという。ほくそ笑む日産だが、思わぬ時限爆弾が用意されているかもしれない。

(ダイヤモンド編集部 千本木啓文、土本匡孝、浅島亮子)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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