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ビジネスマンに簿記は不要!「会計」は歴史を学べばスラスラ分かる

文● 村田孔明(ダイヤモンド・オンライン

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ファイナンス思考を持っていたマイケル・ジャクソン
あのビートルズの楽曲権利を130億円で購入したマイケル・ジャクソン。偉大なスターは、ファイナンス思考の持ち主でもあった Photo:Reuters/AFLO

会計を歴史から学ぶ異例の本がヒットしている。昨年9月に上梓された『会計の世界史』(日本経済新聞出版社)は、会計分野では異例の5万部を突破し、現在も版を重ねている。著者の田中靖浩氏に、「なぜ会計を理解するために歴史を学ぶべきなのか」を伺った。(清談社 村田孔明)

歴史は会計ジャングルで
迷わないための羅針盤

 会計は世界共通のビジネススキル。英語と同様に重要性は年々高まっているが、数字が苦手なビジネスパーソンにとって、会計の知識を身に付けるのは、なかなかにハードルが高いイメージがある。

「会計を勉強しようと書店に足を運べば、棚にはカラフルな簿記検定対策本、その横には財務会計、管理会計、後ろの棚は法人税。何から勉強すればいいのか迷っていると、ファイナンスの棚まで発見してしまう…これはもうジャングルですよ」

 そう話すのは、『会計の世界史』(日本経済新聞出版社)の著者で、公認会計士の田中靖浩氏だ。

「そもそも日本人は誰もが暗算が得意で、おつりの計算もすぐにできる。これは世界的にも珍しい。それなのにビジネスになった途端、数字に苦手意識を持ってしまう。決算書が読めないのは、数字に弱いからではなく、ただ“会計ジャングル”の中を迷っているだけです」

 田中氏は「会計を理解するためには、まずは簿記の勉強からという日本の風潮にも一因がある」と指摘する。

「公認会計士、税理士という会計のプロになるには、資格試験の必修科目である簿記の勉強は欠かせません。そういうプロに会計の勉強法を聞けば、自らの成功体験から、まずは簿記の勉強を勧められます」

「簿記は役に立つが、面白くない」と田中氏。簿記の勉強が退屈で会計を諦めた人も多いのではないか。

 会計を学ぼうとする多くのビジネスパーソンは、経理のプロを目指しているわけではない。営業には交渉のための会計が必要であり、経営者には会社のかじ取りのための会計が必要となる。

「簿記から学ぶ必要はない。じゃあ、何から学ぶべきか?長年悩み続け、私は歴史だと確信しました。簿記、会計、ファイナンスは成り立ちが違うので横に並べても本質は理解できない。そこで縦に並べてみようと考えたんです。会計を理解するために歴史から勉強するのは、遠回りに見えて絶対近道になります」

『ヴェニスの商人』で
バランスシートを学ぶ

「簿記と銀行がイタリアで生まれた。この意外な事実をほとんどの会計プロも知りません。この歴史背景を知ればバランスシートがすぐ理解できます。実はシェイクスピアの『ヴェニスの商人』で説明できるんです」

『ヴェニスの商人』の舞台は、東洋貿易で栄える中世イタリアの都市・ベネチア。船を所有する商人が、自らの肉1ポンドを担保に、ユダヤ人の高利貸しから借金をしてしまうというストーリーだ。

「リスクの語源にもなっている船乗り(リズカーレ)。彼らが活躍したのが中世イタリアです。一度の航海で莫大な富を得られましたが、航海にはお金がかかるので、自己資金だけでは足りない。そこでお金の調達が必要になり、イタリアで金融業と簿記が発達したのです」
 
 バランスシートの右はお金の「調達」、左は「運用」に分かれている。

「商人の自己資金とユダヤ人から借りたお金がバランスシートの右、それが船や香辛料・茶・陶器の貿易品といったバランスシートの左の資産に形を変えていきます。バランスシートは右のお金の調達から左の運用へ――この基本は、いまも昔も変わるところがありません」

 手に汗握るスリリングな展開の名作『ヴェニスの商人』。田中氏の手にかかれば、会計初心者がつまずきやすいバランスシートの見方がスッキリと頭に入ってくる、最良の題材になるというわけだ。

マイケル・ジャクソンは
ファイナンス思考!

歴史に名を残す偉人たちから会計を学べる「会計の世界史」

 歴史から学べば、会計とファイナンスの違いもはっきり分かる。なんと田中氏はビートルズを用いて説明する。

「ビートルズの楽曲権利は、若き日のジョン・レノンとポール・マッカトニーが契約書を読まずにサインしてしまったために、『ノーザンソングス』という会社が持っていた。そのことを2人はずっと後悔していたが、ジョンが亡くなった翌年の1981年、ついに自分たちの楽曲の権利を買い戻すチャンスが、ポールに巡ってきます」

 そこでポールは、ジョンの代理人を務めるオノ・ヨーコに一緒に買い戻そうと提案した。

「当時のレートで約90億円。でもヨーコが難色を示し、なかなか話はまとまりません。その間に、ポールがかわいがっていた弟分のマイケル・ジャクソンが、さらに高額の約130億円でビートルズの楽曲権利を購入したのです」

 このオノ・ヨーコとマイケル・ジャクソンの考え方の相違が、会計とファイナンスの立場の違いだと田中氏はいう。

「ヨーコは『コスト』を意識したのでしょう。自分たちの曲を買うために、どうして90億円も払わなければならないのか納得できなかった。一方のマイケルは『リターン』に注目しました。ビートルズの曲が将来にわたって、どれだけ稼ぐのかを考えていたのです」

 過去から現在までのコストを重視する伝統的な会計が「ヨーコ的思考」で、バランスシートの上に表れない未来の数字を計算しようとするのが「マイケル的思考」。マイケルは直感的に、企業価値を重視するファイナンス思考を身に付けていたようだ。

「この結果、ポール・マッカトニーは、自ら制作した映画のなかで『イエスタデイ』を歌うために、マイケル・ジャクソンに1ポンドを払わなければならなかったのです」

 過ぎ去った日々を嘆く『イエスタデイ』だが、はたしてポールはどんな気持ちで歌ったのだろうか。

『会計の世界史』には、シェイクスピアやビートルズのほかにも、レオナルド・ダ・ヴィンチ、カール・ベンツ、マッキンゼーなど会計の数字の裏に隠されている偉人たちのエピソードが満載。これまで厳しい表情で眺めていた決算書も、思わずほほ笑みながらスラスラ読めるようになるかもしれない。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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