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毛玉取り器シェアNo.1企業が語る「ニッチだけど市場を伸ばせた理由」

2019年03月28日 06時00分更新

文● 松嶋千春(ダイヤモンド・オンライン

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服を着たまま毛玉カットが可能な商品が人気です。
毛玉のできやすいファストファッションの洋服も、毛玉取り器があれば延命が可能。今やセーターを着る冬場のみならず、サマーニットの流行によって、夏でも売れるようになっている

この季節になると家電量販店でよく見かける「毛玉取り器」。かつてはハサミやブラシを使用し、長時間かけてちまちま毛玉を取っていたものだが、このツールの登場で大幅な時短を実現。ニッチなニーズをがっちり捉えてシェアナンバーワンを誇る泉精器製作所に、毛玉取り器の開発秘話を聞いた。(清談社 松嶋千春)

服を着たまま使える
特許技術を開発

 泉精器製作所は、長野県松本市に本社を置く業務用電設工具や家庭用電気製品の製造販売会社だ。長年培ってきた独自の精密加工技術を生かした電気シェーバーは、同社の代名詞ともいえる。

 今やメジャーな家電メーカーからも発売されている毛玉取り器だが、最初に製造したのは同社だという。その誕生は30年ほど前にさかのぼる。

「もともと扱っていた電気シェーバーの構造や機能がヒントになっています。『電気シェーバーの外刃の網目をもうちょっと大きくしたら、これで毛玉もカットできるんじゃない?』という、女性社員のアイデアから生まれました」(商品企画部 後藤啓之さん)

 当初はOEM供給からスタートし、約20年間製造を続けた。供給先の会社の家電事業撤退を機に「毛玉とるとる」を自社ブランドとして引き継ぎ、約10年たつ。

「OEM先のシェアを引き継ぐかたちでしたが、そこからデザインや色も変更し、徐々に数字が上がっていきました。大きな転換期だったのは、特許取得技術を搭載した2014年モデルの発売ですね」(後藤さん)

 刃の回転方向を変えることによって、着たままでも生地を傷めず毛玉をカットできる「ケアモード」搭載モデルが登場したのだ。

「作りだした当初は、『生地に穴が開いた』というクレームが多かったです。『生地を平らなところに広げて優しくあててください』と使い方を案内するのですが、やっぱり加減を間違えると生地が刃の中に入って傷んでしまう。それを軽減するために、『どんな使い方をしても生地が破れない』ということをずっと目指してきました。『着たまま使えたらいいのに』というお客様の声も生かすかたちで、刃の駆動の開発と特許の取得に至りました」(後藤さん)

ファストファッションの衣類も
毛玉を取れば“延命”できる!

「開発の際、社内に呼びかけてセーター、トレーナー、ジャージーなどを100枚ぐらい集めて刈り続けたそうです。自社ブランドに転換し、2011年からシェアナンバーワンになって軌道に乗り始めたところに、『ケアモード』という新たな機能が加わりました。名実伴い、より自信を持って勧められるようになりました」(商品企画部 塩原夏奈さん)

売上高ナンバーワンのモデル

 商品企画部が具体的な市場調査を始めたのは2011年からだという。ニッチな市場と対峙するうちに、ファッションとの関連性が見えてきたそうだ。

「ファストカジュアル店や量販店のニット、セーター、フリースなど手に取りやすい価格帯の衣服は、普段家で着ている頻度が高いですよね。素材としても比較的毛玉ができやすく、1シーズンもてば上々。そんなふうに思われていた衣服も、毛玉取り器で手入れすれば、延命してまた着られるようになります。ファストファッションの台頭と時を同じくして我々の商品の販売数も上がっていったのは、そういうことかもしれません」(後藤さん)

 また従来、毛玉取り器は冬季以外の売れ行きは落ち着いていたそうだが、最近は状況が異なるという。

「2017年の夏にサマーニットが流行したあたりからは、夏でも毛玉取り器が売れるようになっていますね」(塩原さん)

「毛玉というとセーターのイメージが強いですが、トレーナーも、ジャージーも、靴下も…繊維のものは、なにかしら毛玉ができる傾向にあります。家電量販店やホームセンターでも、年中棚に置いていただいています。そういったところでは、今までは冬の商品だったのが、年中使う商品というふうに世間の認知も変わりつつあるのかなと思います」(後藤さん)

毛玉取り器に
おしゃれ家電の波が来た?

 2018年9月、フランスに本社を置く「T-fal」が毛玉クリーナーを発売した。海外の有名ブランドの参入については、どのように見ているのか。

インテリアや寝具の毛玉もカットできる大型モデルもある

「毛玉取り器は女性の方が購入される比率が高いので、そういった意味ではT-falさんのブランドの認知度の高さは、すごいアドバンテージだと思います。カラーリングも高級感がありますし、好調というお話を聞いています」(後藤さん)

「ただ、『着たままカットしてもいいですよ』というのは、弊社製品以外の商品では少ないんですよね。30年間で培った技術はダテじゃないので、自信を持って良い商品を作っていると言えます。ですから、市場がどんどん膨らむのは大歓迎です」(塩原さん)

 デザイン面でも、時流に合わせて数年ごとに改変しているそうだ。

「2014年は、もともと市場を握っていた女性が手に取りやすいものを目指して鮮やかなカラーが多かったのですが、その次のリニューアルでは『いろんな方に手に取ってもらいたい』という思いから、グレーや茶色などのニュートラルカラーを増やしました」(塩原さん)

 また、Loftと東急ハンズ限定で展開しているモデルは、黒いボディーに角ばったロゴ、専用ケース付きで通常品とは差別化されている。

「これらの雑貨店には、家電も生活用品もモノトーンで統一したい、シンプルにまとめたいというライフスタイルの嗜好を持った人が好みそうなものがたくさんあります。そういった人たちに向けて、企画しました」(塩原さん)

手芸店でも販売
親和性のあるチャネルを求めて

 家電量販店や生活雑貨店のほかに、新たな市場も開拓しているそうだ。

「家電とは違ったアプローチで、手芸店のトーカイさんにご提案したら、全然家電製品は置いていらっしゃらないんですけれど、『あ、いいですね』と言ってもらえて、2年前から展開させていただいています」(後藤さん)

 今後、狙っている市場はどういったところなのだろうか。

「ホテルなどの身だしなみが重視される場所や、スポーツ用品店や紳士服もいいですね。スーツは、脇やカバンと擦れる部分など、意外と毛玉ができますからね。あと、子どもは転げ回りますから…子ども服店などにもアプローチしていきたいですね」(後藤さん)

「お子さんで思い出しましたが、手伝いでお子さんに毛玉を取ってもらう、という社員も多いですよ。幼い頃から商品に親しみを持ってもらえたらうれしいですね」(塩原さん)

 服を手軽に手入れできる選択肢が増えるのは喜ばしいことだ。いろんなチャネルと興味深い糸でつながっているこの市場の勢力図が、今後どうなっていくのか見守っていきたい。

〈関連リンク〉
・株式会社泉精器製作所HP https://www.izumi-products.co.jp


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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