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著者に聞く『ダークウェブ・アンダーグラウンド』木澤佐登志さん:

ダークウェブよりヤバい「普通のウェブ」

2019年03月26日 09時00分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)

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 ダークウェブというのはギャングの資金洗浄や盗品売買、殺人請負などがまかりとおる危険な場所だと思っていました。しかし木澤佐登志さんの『ダークウェブ・アンダーグラウンド』を読んだ後、印象はかなり変わりました。ダークウェブにギャングはほとんどおらず、殺人請負サイトはあってもブラフばかり。通信の自由や表現の自由を標榜する、思想的な犯罪者が集まっている印象でした。

 逆に、ダークな印象が強まったのは普通のウェブです。特に闇が深いのは本の後半でとりあげられる「新反動主義」。新反動主義はリベラルな考え方や民主主義制度そのものを否定する、インターネット生まれの考えです。大企業のCEOのような強者が君臨する封建主義国家を理想として、「オルタナ右翼」と呼ばれるドナルド・トランプ大統領の支持層にも影響を与えているといいます。

 いまウェブが抱えている闇と、ウェブの闇が現実に与えている影響について、著者の木澤佐登志さんに聞きました。


●書籍紹介──
ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち
著:木澤佐登志
アメリカ西海岸文化から生まれたインターネットの思想的背景を振り返りながら、ダークウェブという舞台に現れたサイトや人物、そこで起きたドラマの数々を追う。自由の理念が「オルタナ右翼」を筆頭とした反動的イデオロギーと結びつき、近代の枠組みを逸脱しようとするさまを描き出す。(イースト・プレス)

■インターネットがつまらなくなった

── どんな動機で本を書こうと思ったんですか?

 なぜインターネットはつまらなくなったんだろうと思ったんです。1988年生まれで、インターネットにふれたのは1998年から2000年くらいから。そのころのインターネットはダークでアナーキーでした。インターネットサーフィンという言葉がありましたけど、当時はリンクからリンクへ飛んでいって新しいものを見つけていくような、新しい驚きがつねにあった。一方、いまは(SNSのような)プラットフォームに定住して、一歩も外に出ないようになってしまいました。遊牧民から定住民に変わったみたいに、インターネットから外部が消えてしまった。あやしい部分が消えて既知のものしかなくなってしまっているなと。

── いまのインターネットはグーグル、フェイスブック、アマゾンをはじめとするプラットフォームを運用する巨大企業が覇権を握っています。

 ニック・スルニチェクが「プラットフォーム資本主義」という言葉を作りましたが、プラットフォームが広告利益を得るため定住させるような構造になっていますよね。最近もフェイスブックの個人データ流出問題が話題になりましたが、個人データを収集してビッグデータとして解析して、ターゲティング広告をつくって、収入を得るという循環があります。

── 一方で利用者はプラットフォームの外側を見づらくなってしまったと。

 最近気になったのはYouTubeの「エルサゲート問題」。海外で、小さい子ども向けの動画に「The Finger Family Song」という指を使った数え歌があるんです。指をディズニーキャラクターにしたものなど、似たような動画が数十万本も生成されていて、再生回数が2000万再生などになっている。

 動画を作る目的は広告収入ですが、動画を見るのは子どもです。YouTubeには自動再生機能がついていて、コンテンツを選ぶ能力がない小さい子どもは関連動画を見続けることになるんですが、中には生身の人間が演じるスパイダーマンやエルサなどが登場する暴力的な動画も入ってきます。子どもは何もしていないのに、アルゴリズムのせいで自動的に変なものに流れてしまう構造になっているわけです。

 動画を作る側も、子ども向けというよりアルゴリズムに向けて作っていることでそんなことになってしまっている。プラットフォーム資本主義の地獄があらわれた構造になっているんですよ。

── どんどん自由がなくなっていくインターネットに対し、ダークウェブには「インターネットはもともと自由だったはずだ」という考えがあるというのが新鮮でした。ダークウェブのもとになっている暗号通信技術も本来は政府から干渉を受けずに自由に通信するために開発されたところがあったんですよね。

 そういう問題意識からダークウェブを調べていくうちに、ダークウェブで共有されている一種のリバタリアニズム(自由至上主義)に興味が出てきました。

 (ダークウェブの闇市場)シルクロード運営者のドレッド・パイレート・ロバーツは典型的なリバタリアンで、自己所有権という観点から闇市場の運営を自己正当化しています。つまり、自分の体は自分のものなんだから、ドラッグを摂取するのも自分で管理している限りは自由だろうと。

 そういう自己責任思想の観点から「ドラッグの自由」を擁護していたわけです。ほかにも児童ポルノフォーラムのペドエンパイアは「児童ポルノをアップロードするのも情報発信の自由だ」という擁護をしていた。「なぜダークウェブにはそういうリバタリアン的な思想が根づいたんだろう?」という興味が生まれました。

 新反動主義も同じようにサイバーリバタリアンから始まった思想なので、これはどこかでダークウェブのリバタリアンともつながっているなと思ったんです。

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