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「中国以外の市場で成長が速い」と担当幹部、AI・IoT分野の「フルスタック」戦略などを語る

「2年で2倍」の成長ペース、ファーウェイ法人事業が次に狙うもの

2019年03月25日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 ファーウェイ・テクノロジーズ(Huawei Technologies)と言えば、スマートフォン/PC端末や通信キャリア向け機器のビジネスで知られるが、現在、そこに“3つめ”となる事業の柱を育てつつある。法人向けのICTソリューション事業だ。

 今年2月末にスペインで開催された「MWC Barcelona 2019(旧称:Mobile World Congress)」では、ファーウェイの法人事業部門が初めて展示ブースを設置し、最新のオールフラッシュストレージなどの製品を披露した。会期中、グローバルマーケティング担当プレジデントを務めるチウ・ハン氏が、ファーウェイが持つAI関連技術や無線接続技術(Wi-Fi 6、IoT)について説明した。

ファーウェイ法人事業部でグローバルマーケティング担当プレジデントを務めるチウ・ハン(Qiu Heng)氏。日本に住んでいたこともあり日本語も話せる

AI戦略:省電力/高性能なAIチップ「Ascend」を基盤にフルスタックで提供

 法人事業はファーウェイにとって急成長中のビジネス領域だ。ハン氏によると2014年から2018年にかけて売上高は2年間で2倍のペースで成長し、2018年には100億ドル(約1兆1000億円)に達した。それでもハン氏は「これはまだ『0が1になった』段階に過ぎない。われわれはこの1を2へ、2を4へと伸ばしていく」と強気に語る。2年で2倍の成長ペースは、今後も2023年まで維持するつもりだという。

 実績も着実に積み重ねている。特に大企業において浸透率が高まっており、Fortune Global 500のうち211社が、Global 100のうち48社が同社の製品を導入しており、特にフォーカスしているのは政府、財務、エネルギー、製造、運輸、教育、ISPの7産業。またSAPやマイクロソフト、アクセンチュアなど提携ベンダーも拡大しており、グローバルでソリューションパートナーは1000社以上、チャネルパートナーは2万社以上、サービスパートナーは3600社以上を数える。

 そんなファーウェイの法人事業が昨年からフォーカスしているテクノロジー領域が「AI」だ。

 まず、昨年にはAI SoCチップである「Ascend 310」を発表した。エッジコンピューティング環境向けに開発されたAscend 310はすぐれた電力効率と処理能力を有しており、さまざまなIoTデバイスや携帯端末への組み込みが可能だ。たとえば、デバイスに組み込まれてリアルタイム映像処理を行うAIアクセラレーターモジュール「Atlas 200」や、Software-DefinedなAIカメラ(SDC)などの製品に搭載されており、今回のMWCでは新たに、Ascend 310を搭載したデータセンタースイッチ「CE 16800」も披露されている。

ファーウェイのAI戦略で鍵を握る省電力/高性能なAIチップセット「Ascend」。下に並ぶモジュールや製品に組み込まれている

 ファーウェイのAI戦略の特徴は、Ascendチップを土台として「フルスタック」を揃えたことだとハン氏は説明する。標準的なAIフレームワークであるPyTorch、TensorFlowなどをサポートするだけでなく、自社製のフレームワーク「MindSpore」も提供して「AI開発者が必要なものをすべて備える」という。上述したとおり、開発したAIはデータセンターやクラウドだけでなくエッジコンピューティング、コンシューマーデバイス、産業用IoTデバイスと「あらゆるシナリオ」で利用可能だ。ハン氏は「ファーウェイにはAI分野をリードできるポートフォリオがある」と強調した。

ファーウェイのAI関連ポートフォリオ。Ascendチップだけでなく、フレームワークやAPIまで「フルスタック」で備え「あらゆるシナリオ」に適合すると述べる

IoT戦略:チップ、モジュール、軽量OSのフルスタック提供と幅広い接続技術

 ハン氏はもうひとつ、IoTやWi-Fi 6などの無線通信技術やソリューションを紹介した。

 IoT分野でもやはり「フルスタック」が特徴だ。まずデバイス側に、IoTデバイス開発用のチップセットやモジュール、さらに軽量/低消費電力のリアルタイムOS/ミドルウェアである「Huawei LiteOS」も提供している。LiteOSはオープンソース版コードもGitHubで公開している。

 IoTデバイス向けの無線通信技術はNB-IoT(Nallow Band-IoT)をはじめ、eMTC、eLTE(enhanced LTE)、自動車に特化したC-V2X(Cellular V2X)などをサポート。これから5Gの商用化が本格化する中では、もちろん5Gもサポートしていく。ハン氏は「IoTではシナリオに応じて必要な接続技術が異なるが、ファーウェイはあらゆる接続技術をサポートする。これは他社にはできないことだ」と強調する。

 そしてIoTデバイスと接続技術のレイヤーの上にはデジタルプラットフォームが載る。ファーウェイのデジタルプラットフォームは、AI、ビッグデータ、動画などさまざまな機能が組み込まれており、取得したIoTデータをさまざまなかたちで処理できる。こうしたアーキテクチャによって、ファーウェイのIoTシステムは「インテリジェント」「既存システムとの統合が可能」「さまざまな技術との統合が可能」という3つの特徴を備えると、ハン氏は説明する。なお、IoT分野におけるファーウェイの役割はあくまでも「ICTインフラの提供」であり、具体的なデバイスやアプリケーションの開発はパートナーの役割だと強調する。

IoT分野ではデバイス用チップ、軽量OS、接続技術、デジタルプラットフォームといった、IoTサービス実現のための“インフラ”提供に力を入れる

 Wi-Fi 6は、2018年秋に名称が発表された次世代のWi-Fi規格(IEEE 802.1ax)だ。ファーウェイはMWCで、世界初のWi-Fi 6対応アクセスポイント4機種を披露した。Wi-Fi 6規格によって広帯域/低遅延の無線LAN通信が可能になるが、ファーウェイ独自のポイントとして、無線基地局向けに開発されたスマートアンテナ技術などを取り入れることでカバーエリアを40%拡大し、同時接続数も従来比4倍の240に向上した。低遅延/広帯域のWi-Fi 6規格によって、遅延も30ミリ秒から10ミリ秒と3分の1になるという。

 ハン氏は、無線通信の遅延が大幅に短縮されることで、VRデバイスや、自動運転されるさまざまな機器/装置との無線接続にも用途が拡大できると期待を語る。

業界初の商用エンタープライズWi-Fi 6製品となるアクセスポイント(上から時計回りに「AP8760-XO」「AP6760-50」「AP8760-XOT」「AP6760-10」)

オールフラッシュストレージ「oceanstor dorado 18000 v3」も展示。700万IOPS、遅延は0.5ミリ秒、99.9999%の可用性をうたう

 AIやIoT分野での導入事例もいくつか紹介してくれた。

 たとえば世界中で1日に10億人を“上下に運ぶ”スイスの大手エレベーター/エスカレーターメーカー、シンドラー(Schindler)では、ファーウェイのIoTインフラやエッジコンピューティング、管理プラットフォームといったテクノロジーを利用して、エレベータの可用性やユーザー体験の改善を図っている。遠隔でのモニタリングやビッグデータに基づく予測メンテナンスを実現しており、万が一の故障時にエレベーターの中にいる人とビデオでやり取りができるサービスも開始した。結果、サービスの中断時間(ダウンタイム)は90%改善し、一方で運用コストは50%以上削減できたという。

 物流業界では中国のジョインタウン(Jointown)が「Huawei Cloud Enterprise Intelligence(EI)」を採用し、梱包や物流などの業務を改善した。AI技術を適用しているのはオーダー分析、インバウンド/アウトバウンドの最適化、ピッキングの最適化、OCRによる請求情報の取り込みといった業務だという。

 ヤフーなど、日本国内においてもファーウェイの法人向けソリューションの採用事例は増えている。ハン氏によると「売上の60%は中国市場からだが、中国市場の成長を上回るペースで他国市場が伸びている」。日本市場については「企業がITを理解しており、潜在的な市場規模も大きい。ファーウェイにとっては良い市場だ」と語った。

 米中間で生じている“貿易戦争”の影響について、ハン氏は法人事業においても「わずかだが影響は感じる」と語る。ただし、報じられるようなファーウェイ製品に対する懸念は「政治的なものだと理解している」と述べた。2019年の成長率についても、通常ならば30%の予想ができるところだが、「製品の安全性をさらに強固なものにするための投資を増やす」方針をとるため、20%程度を予想すると語った。

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