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社長はAIで代替できるのか?

事業創造の本質を問うアフター・シンギュラリティの興味深いテーマ

連載
アスキーエキスパート

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国内の”知の最前線”から、変革の先の起こり得る未来を伝えるアスキーエキスパート。KDDI総合研究所の帆足啓一郎氏による人工知能についての最新動向をお届けします。

 今なお活発に行なわれているAIが仕事を奪う/奪わないについての議論。だがその中で、企業の創業者・経営者が議論の対象として挙がることはほとんどない。

 事業創造には、AIが容易に代替できない仕事としての共通認識がある。これは現状のAI関連技術が不得意な「高い創造性」と「人間との高度なコミュニケーション」という能力が、経営者には不可欠だからである。しかし、AI関連技術が究極に発展すると、経営者の人格をデジタル世界でシミュレートできる世界が訪れるかもしれない。

 そのシミュレートされた経営者の人格に、高度なコミュニケーション機能が備わった場合、AIは経営者の仕事をも奪うことになるのだろうか。本記事では、長期的な未来について想像を馳せながら、「AIが経営者の代替になりえるか?」……という問いについて考察する。

大学の講義からの問題提起

 筆者が通っている東京理科大MOTにて、本年度から始まった新カリキュラムにおける目玉科目の1つが「実践リーダーシップセミナー」である。この科目では、毎週、さまざまな企業の経営者がゲストスピーカーとして招待される。

 ゲストスピーカーによる講話と質疑応答後に、5~6名程度のグループに分かれて、当日の講話の内容に基づき、登壇者が発揮したリーダーシップなどについてさらに深掘りするためのディスカッションが行なわれる。この講話とグループディスカッションから構成されるセッションを3回実施したのち、当該期間の3名に関するディスカッションから得た学びを各グループがまとめ、最終プレゼンにて発表するといった構成の講義である。

 講義を通じ、さまざまな業界・企業における経営体験を直接聴けるだけでも、筆者にとっては大変貴重な機会である。多様な議論をグループで短期間にまとめ、最終プレゼンとして仕上げなければならないため、単位取得だけを考えると効率的な科目とは言いがたいが、実際にリーダーシップを実践するための心がけなどについて深く考えさせられる機会として、楽しみにしている講義の1つである。

大学での講義風景(イメージ)

 前置きが長くなったが、今期の「実践リーダーシップセミナー」の最終プレゼンの中で、とあるグループが「リーダーがとるべきコミュニケーション」をテーマとして取り上げたプレゼンを行なった。詳細な内容は割愛するが、要約すると、その週までに登壇した3名のゲストスピーカーの講話の内容から、それぞれの経営者のコミュニケーションスタイルに関する比較と考察をまとめた発表だった。

 このプレゼンの質疑応答の中で、聴衆にいた学生の1人から、以下のような質問が出た。

 「将来、シンギュラリティが実現されると、経営リーダーの脳がデジタル世界でシミュレートできる可能性がある。その場合でも、リーダーとしてのコミュニケーションは必要になるのか?」

 AIに関する議論の場であればともかく、経営学講義のなかの質問としては、かなりトリッキーな内容であり、登壇者も想定外の質問に戸惑いながら回答していた。最終プレゼンの場では、これ以外にも数多くの質疑応答があり、この質問に特化した議論の深掘りはなかったが、その後も一部の先生や学生の間で話題になるなど、考えさせられる質問であった。

 そこで、本記事ではこの質問を契機に、「AIは経営者(リーダー)の代替になりえるか?」という問いについて、筆者なりの考察を示す。これまで、本連載では現実的なビジネスや技術の動向を中心とした記事を寄稿していたが、今回は趣旨を変え、現時点では実現性がまったく見えていない技術を含めての議論となる。したがって、細かいレベルではツッコミどころの多い内容になるが、思考実験の一環としてご笑覧願いたい。

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