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イレズミが日本でNGなのはなぜ?明治以前は一般的だった意外な歴史

2019年02月28日 06時00分更新

文● ジョージ山田(ダイヤモンド・オンライン

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タトゥーやイレズミに批判的な目を向けるばかりでは、訪日外国人に対応できません。
1960年代以降のヤクザ映画の影響で「イレズミ=ヤクザ」というイメージが染み付いてしまったが、かつては女性の結婚の印だったり、火消しや飛脚たちの身体装飾だった時代もあった Photo:PIXTA

2018年8月、タレント・りゅうちぇるがタトゥーを公表したことが物議を醸した。「子どもができたら彫ることを決めていた」と、タトゥーは決意の証しだと説明したりゅうちぇるだが、ファンからはネガティブな声が多く集まった。日本では否定的な意見が多いタトゥーだが、その背景には、映画などのエンターテインメントが少なからず影響しているという。文化人類学者の山本芳美さんに話を聞いた。(清談社 ジョージ山田)

日本ではイレズミに否定的だが
海外の若者にタトゥーは大流行中

 関東弁護士連合会が、2014年にとった国内アンケートによると「イレズミをしている人をどう思うか?」の問いに「どちらかといえば許せない」「絶対許せない」と回答した人は、合わせて52.3%にのぼった。また、「イレズミやタトゥーと聞いて何を連想するか?」の問いには47.5%の人が「犯罪」と答えている。

 日本では過半数の人々がイレズミに対して否定的な見解を持っているのだ。

 その一方、海外ではタトゥーが大流行している。米世論調査会社ハリスインタラクティブの2015年調査によれば、2008年に14%、14年は22%だったタトゥー人口は、15年に29%と急増。また、仏世論研究所が2010年におこなった調査では、フランス人の約10人に1人、18歳から24歳に限れば、およそ4人に1人がタトゥーを入れているという。

 海外では、著名人にもタトゥー愛好者が多い。デビッド・ベッカムは2013年の時点で32個のタトゥーが確認されており、ジョニー・デップやアンジェリーナ・ジョリー、最近ではスウェーデンのサッカー選手イブラヒモビッチの上半身にびっしり彫られた50ものタトゥーなども有名だろう。

 もちろん、大浴場やプールへの入場を禁止する日本のように、タトゥーに対して否定的な見方を持つ国も少なくない。

 中国では公的にタトゥーのテレビ放映を禁止しており、アラブ首長国連邦ではイレズミ保持者は入隊できない。また、タトゥーに寛容なイメージのあるアメリカですら、2014年の意識調査では「タトゥーのある人は反逆的、反抗的な印象を与える」と49%が回答しており、海外でも決してイメージがいいわけではないようだ。

沖縄や北海道でもポピュラーだった
イレズミが嫌われるようになった理由

 タトゥーの歴史については諸説あるが、特定の起源があるわけではなく、成人や地位の証し、霊力の証し、魔除けとして世界各地に自然発生的に広まったとされている。1769年タヒチに上陸したキャプテン・クックは、現地のイレズミ文化を記録した航海記に、『男女とも体に「タタウ」なる模様がある』と記述しており、これが「タトゥー」の語源となった。

「タトゥーを彫ることは痛みを伴うため、入れることは強さの証しとなり、そのコミュニティで一目置かれる材料となりました」

 こう解説するのは文化人類学者で『イレズミと日本人』などの著書を持つ、都留文科大学の山本芳美教授。イレズミを入れることが、コミュニティにおける1つの儀礼となっていたのは、日本も例外ではないという。

「沖縄や北海道のアイヌ民族には通過儀礼的なイレズミの慣習がありました。沖縄やアイヌの女性にとってイレズミは女性や結婚の印とされ、より美しくなるために施すもの。沖縄では年をとるにつれて手の文様を徐々に拡大し、イレズミがなければ、あの世に行けないと考える女性たちもいたといいます」

 16世紀の文献には、沖縄において主に指背から手甲、さらに肘にかけてイレズミを入れる習慣があったと記されている。それでは、いわゆる日本本土(本州と九州)ではどうだったのか?

「江戸時代には刑罰として顔面や腕に刻まれることもありましたが、徐々にイレズミはとびや火消し、飛脚など肌の露出が多い職人に好まれる身体装飾となっていき、数度の規制にもかかわらず、幕末には大流行します」

 そんななかで、日本のイレズミ規制が強化されたのは「開港以降、旅行や仕事などさまざまな目的で来日した外国人による評判を明治政府が気にしたこと」に端を発するという。

「規制の対象になったのは、明治以降に日本の一県となった沖縄も例外ではありません。政府はもともと沖縄にあった伝統的なイレズミ文化を否定。女性たちがイレズミをすることは禁じられ、本州よりも厳しく取り締まられました。沖縄では逮捕者が続出しました。もともと根付いていた沖縄ばかりでなくアイヌのイレズミの文化も、政府は法的に抑圧していったのです」

日本独自の
「イレズミ=ヤクザ」の図式

 時代と共に政府による規制が厳しくなり、徐々にイレズミ=マイノリティという図式が形成されていったわけだが、日本におけるイレズミの“悪イメージ”を決定づけたのは、任侠・ヤクザ映画のブームだったという。

「1960年代以降のヤクザ映画の影響で、イレズミと犯罪を結びつける考え方が加速したのではないでしょうか。60年代から70年代にかけて量産されたヤクザ映画や任侠映画では、登場人物の多くが刺青を施していたことが、イレズミ=ヤクザ、アウトローのイメージを大衆に植え付けたと考えられます」

 確かに、ひと昔前の任侠映画にはイレズミを強調する作品が多く、その影響もあるのかハリウッド映画でも必ずといっていいほど「YAKUZA」キャラには立派なイレズミが入っている。エンターテインメントの文脈で、日本人のイレズミ=悪というネガティブイメージが浸透してしまったのは、日本ならではの図式かもしれない。

山本教授の著書『イレズミと日本人』
3月30日13:00~16:45​、東京・西新宿 にて、国際シンポジウム「イレズミ・タトゥーと多文化共生――『温泉タトゥー問題』への取り組みを知る」が開催される。詳細は公式サイトを確認ください。

 もっとも、冒頭の国内アンケートにおいて、「イレズミを入れた人から実際に被害(暴行・強要・脅迫など)を受けたことがありますか」という問いに「ある」と答えた人は5%にも満たなかったという。あくまで「イレズミ=犯罪」はイメージが先行しているようだ。

 山本氏は世界的なタトゥー流行を受けて、今後はタトゥー文化に理解を示す努力も必要なのではないかと語る。

「日本では不良文化として捉えられているタトゥーですが、最近はおしゃれのためや、何らかの記念にワンポイントで彫る人がほとんど。ラグビーのW杯、オリンピック、万博を控え、タトゥーのある訪日外国人の温泉やプール、ジムなどでの受け入れはどうするのか?タトゥーやイレズミに批判的な目ばかり向けているのは、経済的にも損失でしかないと思います」

 最近はタトゥーOKの温浴施設や海水浴場などをまとめたサイトも誕生している。日本独自の任侠映画によって根付いたイレズミと犯罪のイメージは、今後どのような変遷をとげるのだろうか。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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