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イニエスタ、ポドルスキ、ビジャでも勝てないヴィッセル神戸の理想と現実

文● 藤江直人(ダイヤモンド・オンライン

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イニエスタ,ビジャ
J1開幕戦を戦うイニエスタとビジャ Photo:SportsPressJP/AFLO

2019シーズンのJリーグが開幕した。FWルーカス・ポドルスキ、MFアンドレス・イニエスタに加えて、スペイン代表史上で最多ゴールをマークしているFWダビド・ビジャも獲得。世界も注目する豪華布陣を完成させたヴィッセル神戸はしかし、22日の開幕戦でセレッソ大阪に0-1で苦杯をなめさせられた。かつて一世を風靡したFCバルセロナに倣い、三木谷浩史オーナーの大号令下で壮大なイノベーションを断行しているヴィッセルの現在地を追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

3人の「超大物」が共演するも
ヴィッセルはセレッソに完封負け

 ワールドカップ優勝を経験した、世界に名だたるビッグネームをそろえるだけでは勝てない。パスを回し続け、試合を支配する時間で対戦相手を圧倒しても然り。2019シーズンのJ1開幕戦には、サッカーというスポーツが持つ面白さと奥深さが凝縮されていた。

 フライデーナイトJリーグと銘打たれ、他の8カードに先駆けて22日に対峙したセレッソ大阪とヴィッセル神戸。前売り段階でチケットが完売した、ヤンマースタジアム長居のスタンドを埋めた4万2221人の大観衆のほとんどが、ホームのセレッソよりもヴィッセルへ熱い視線を注いでいた。

 元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキ(Lukas Podolski)、稀代の司令塔として一時代を築き上げた元スペイン代表のアンドレス・イニエスタ(Andres Iniesta)に、スペイン代表で歴代最多の69ゴールをあげたダビド・ビジャ(David Villa)が新たに加わった。

 3人のファミリーネームの頭文字を組み合わせて、いつしか“VIPトリオ”と命名された超大物が日本国内で初めて共演。2大会連続でワールドカップに出場したMF山口蛍、常勝軍団・鹿島アントラーズの最終ラインを支えたDF西大伍もヴィッセルへ新天地を求めた。

 結果から先に言えば、ドリームチームに映るヴィッセルは一敗地にまみれた。期待のビジャは3本のシュートを放つも不発。両チームともに無得点で迎えた後半32分に、セットプレーから献上した先制点を取り返せないまま、0-1の完封負けを告げるホイッスルを聞いた。

 終始試合を支配したのはヴィッセルだった。しかし、60%を超えたボール保持率がセレッソに脅威を与えていたかと言えば、残念ながら答えはノーとなる。試合後の取材エリアで、韓国代表に名前を連ねるセレッソの守護神キム・ジンヒョンはこんな言葉を残している。

「相手はほぼ横パスばかりになっていたので、そこまで危ないシーンはなかった。縦パスみたいなものがもっと入ってきていたら、もうちょっと怖かったかな、と思いますけど」

スペイン人リージョ監督の招へいで、
ヴィッセルは「バルセロナ化」へ

 スペインの名門、FCバルセロナひと筋でプレーしてきたイニエスタを、32億円を超える年俸とともに迎え入れたのが昨夏。世界中の注目を集めた補強をターニングポイントとして、ヴィッセルが目指すスタイルは「バルセロナ化」へと大きく舵が切られた。

 改革が加速されたのは昨年9月。スペイン人のフアン・マヌエル・リージョ新監督を電撃的に招へいしたヴィッセルの三木谷浩史オーナー(楽天株式会社代表取締役会長及び社長)は、相思相愛の恋人と出会ったと言わんばかりに、興奮気味に言葉を弾ませている。

「ポゼッションサッカーの開拓者であり、世界のサッカー界では誰もが知っているイノベーター。我々が目指しているポゼッションサッカーに合う、経験値が高くて、インテリジェンスのある監督を探していた中で、まさかオファーを引き受けてもらえるとは思わなかった」

 53歳のリージョ監督には、バルセロナを含めたビッグクラブを指揮した経験はない。それでも常に一目置かれる存在であり続けた理由は、バルセロナに黄金時代をもたらし、現時点で世界最高の指揮官の評価を得ているジョゼップ・グアルディオラ監督が“師”と仰いでいるからだ。

 就労環境が整ったリージョ監督が指導を開始したヴィッセルは、それまで5連敗を喫する泥沼状態から上向きに転じてJ1残留を果たした。同時進行で新シーズンの新戦力として、アメリカでプレーしていたビジャに白羽の矢を立てた。

 ベガルタ仙台をホームのノエビアスタジアム神戸に迎えた昨年12月1日のJ1最終節。バルセロナでプレーした経験を持つビジャを招き、ハーフタイムにはファンやサポーターへお披露目させた三木谷オーナーは、37歳になるベテランを獲得した理由をこう説明している。

「リージョ監督ともよく相談をさせていただき、我々が追求している新しいスタイルに最も合うストライカーとして、ビジャ選手の名前が挙がりました」

 昨シーズンのヴィッセルはポドルスキ、ブラジル人のFWウェリントン、夏場にJ2のFC岐阜から加入したFW古橋亨梧の5ゴールが最高だった。どんなにパスをつなぎ、試合を支配してもゴールネットを揺らさなければ、必然的に試合に勝つ確率は低くなっていく。

 ポゼッションスタイルを、勝利へと昇華させる役割を託されたのがビジャだった。さらには来日直前で名門ユベントス入りが決まって破談になったものの、同じくバルセロナでプレーした経験をもつウルグアイ代表のDFマルティン・カセレスの獲得にも動いていた。

バルセロナ化で直面する問題
「メッシなし」で最適化は可能か

 グアルディオラ監督に率いられるバルセロナが眩い輝きを放った2008-09シーズンを境に、バルセロナの強さに憧れ、スタイルを倣うチームが世界中に出現した。ヴィッセルもそのひとつに数えられるが、ほんのひと握りの例外を除いて、実はほとんどが失敗に終わっている。

 例外とはグアルディオラ監督がその後に指揮を執ったバイエルン・ミュンヘンであり、今現在も率いるマンチェスター・シティとなる。莫大な資金力を誇るブンデスリーガの名門とプレミアリーグの強豪は、グアルディオラ監督の指導力と融合させることでイノベーションに成功した。

 ならば、バルセロナを追いかけた他のチームに共通している事情は何なのか。同じスペイン人指揮官で、ヴィッセルを撃破したセレッソを今シーズンから率いるミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は開幕前の時点で、一般論として「バルセロナ化」が直面する現実をこう看破していた。

「理想とする超一流の選手たちがそろっていた上で、リオネル・メッシが違いを作っていたからだ。プレー内容に関しても結果に関しても、ほとんどの試合でメッシが決定的な選手になっていた」

 クリスティアーノ・ロナウドと並ぶ世界最高のストライカー、メッシが驚異的なペースでゴールを量産したからこそ、バルセロナは対戦相手を畏怖させてきた。ただ、メッシの代わりは存在しない。難解なアプローチをいかに最適化させるか、という点でリージョ監督の采配は注目された。

 果たして、セレッソ戦で先発としてデビューしたビジャは、90分間の大半で左タッチライン際を主戦場とした。対照的に右タッチライン際にはポドルスキが張りついている。そして、真ん中のやや下がり目を基本ポジションとして、自由自在に動き回ったのがイニエスタだった。

 センターフォワードを置かない戦術は「ゼロトップ」あるいは「偽9番」と呼ばれる。グアルディオラ監督がメッシを介して具現化させ、一世を風靡した戦法のキーマンを、リージョ監督はビジャではなく、本来は黒子としてパスの供給役に徹するイニエスタに託した。

「バルセロナでもスペイン代表でも、ビジャがプレーしていたのは常にあのスペースからだった」

 奇策でも何でもなく、ビジャが最も得意とするプレースタイルを取らせたと、試合後の公式会見でリージョ監督は説明した。実際、右利きのビジャは左サイドから何度も中央へカットインし、華麗なテクニックでスタンドを沸かせている。冗舌な素顔を持つ指揮官が続ける。

「チーム全体として目指していたのは、ビジャとポドルスキで相手の5人を引きつけた上で、イニエスタを相手のセンターバックからより遠くでプレーさせることだった」

 わかりやすく言い換えれば、セレッソは昨シーズンまでの4バックを3バックに変えて開幕戦に臨んできた。最終ラインの3人と左右のウイングバックの計5人を、ビジャとポドルスキが放つ脅威を介して左右に大きく広げさせる。必然的にイニエスタの周囲には、スペースが生まれ続ける。

「イニエスタに対する相手の対応を見ながら、他の日本人選手がプレーするのが今日の狙いだった」

 ビッグネームで形成された変則3トップの背後にいる山口や三田啓貴、左右のサイドバックから内側に入ってくる初瀬亮や西がイニエスタを追い越して相手ゴール前へと迫る。相手GKにキャッチされたが、失点する直前の後半30分には初瀬のクロスから西がヘディング弾を放っている。

 しかし、スタンドのため息を誘うような上手さを何度も魅せても、セレッソ守備陣に怖さを与えることはできなかった。全体的なコンビネーションもまだまだ熟成途上だ。前出の守護神キム・ジンヒョンは、ビジャが左サイドに張りついていたことで助けられた部分が大きいと試合後に明かしている。

「ゴールにつながることが多いので、真ん中で動かれた方がやっぱり怖かったと思う」

180度転換のイノベーションは
一朝一夕では成し遂げられない

 ロティーナ監督が前面に打ち出した現実主義がリージョ監督の理想を封じ込めた構図の中で、ビジャも後半途中から運動量が激減した。イニエスタは5月に35歳、ポドルスキは6月に34歳になる。37歳のビジャを含めて、高温多湿の夏場に顕在化してくる年齢的な問題も抱えている。

 セレッソ戦で送り出した布陣が現時点におけるベストなのか。ビジャを真ん中で起用し、ポドルスキをその背後でイニエスタと並べる形も考えられる。しかし、その場合は両タッチライン際で相手に与える脅威が消滅し、目指しているポゼッションスタイルから後退しかねない。

「築き上げてきたスタイルに磨きをかけて、強いだけではなく、お客さんを魅了するサッカーを追求していきたい」

 今シーズンの目標をこう掲げていた三木谷オーナーはセレッソ戦後に、厳しい表情でロッカールームへ直行した。25日には6人目の外国籍選手として、ブラジル人のDFダンクレーの加入が決まった。昨シーズンからの懸案だったセンターバックの補強も終えた点からも、本気度が伝わってくる。

 もっとも、リージョ監督の経歴を見れば、ここ20年間は就任から短い期間で解任される軌跡が繰り返されていることが分かる。理想を追い求めるあまりに結果が伴わず、業を煮やしたチーム側と衝突を繰り返してきたからだろう。

 スタイルを180度転換させるイノベーションは、一朝一夕には成し遂げられない。難易度が極めて高い「バルセロナ化」となれば、なおさら我慢を重ねる時間も必要となる。チーム全員の思いを代弁する形で、ビジャもセレッソ後にこう語っている。

「僕たちは多くの時間でゲームをコントロールする展開を前提として、チームを構築している。自分たちのアイデンティティーやサッカーの姿勢は、このまま信じるべきだと思っている」

 他のJクラブの追随を許さない莫大な先行投資の下で、新生ヴィッセルは船出した。これからも理想と現実の狭間で航路が揺れるだろう。その時に目の前の結果に一喜一憂することなく、いかにして前者へ舵を切っていけるか。三木谷オーナーをはじめとする、クラブ全体の覚悟が問われてくる。


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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