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「キャッチボール」は球をつかむ!意外に通じないスポーツ英語の数々

文● まついきみこ(ダイヤモンド・オンライン

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スポーツ英語、特に野球に関する英語は、実は和製英語が非常に多く、外国人には伝わりません。
スポーツ英語、特に野球に関する英語は和製英語が非常に多く、外国人には伝わりません Photo:PIXTA

2019年9月に始まるラグビーワールドカップを皮切りに、日本では2020年の東京オリンピック・パラリンピック、2021年にワールドマスターゲームと国際的なスポーツイベントが3年続けて開催される。海外から注目のスポーツ選手が続々と来日し、さまざまなスポーツが盛り上がることは間違いないこのスポーツイヤーズに、せっかくなら通じる言葉で応援し、子どもたちの国際感覚をはぐくむ機会にできるのではないかと、子どもの本のジャーナリストとしてのこだわりを語ってみたい。

日本人にしか通じない残念な
スポーツ用語をどうする?

 私は子どもの本や教育環境のジャーナリストで編集者だが、悩ましいのが和製英語への対応だ。特にスポーツを題材にした物語を日本語にする場合、舞台が外国という臨場感を出すため、英語をそのまま使ったほうがよいのか、それとも日本で使われている和製英語に訳すのか、戸惑うことがたまにある。

 逆もしかりで、日本の児童書を英語にする場合も、和製英語のほうが日本らしいこともある。読み手にとっては、どっちでもいいことかもしれない。でも、子どもたちにどうやって言葉を伝えるかを日々考える私には、重要な問題だ。

 例えば、「ファイト」は日本のスポーツ応援でよく聞かれるが、「ファイト」は本来、けんかのような争いの時に相手をけしかけたりするために使う言葉で、「とっちめてやる」的なニュアンスが強い。ボクシングのような格闘技ならよいが、普通のスポーツ応援には違和感がある。

 高校の陸上部で「先輩!頑張れ~!ファイト~」という女子部員がハートの目をして応援するシーンが描かれたマンガを英訳する時、そのまま「Fight~」とするか、「Come on~」のようなネーティブが普通に使う言葉にするかといった場合、「でも、やっぱり日本では、スポーツの頑張れは『ファイト~』なんだよね」と、日本文化に精通する海外の編集者から言われたこともあった。

 他にも「ゲームセット」「ゴーサイン」「トップバッター」「ピンチ」「デッドヒート」「オールラウンドプレーヤー」「ハイタッチ」などもよくスポーツで使われるが、全て和製英語である。「ガッツ」「ユニホーム」「ゴールイン」「チアガール」「バトンタッチ」「フライング」などは、もはや日本語の領域かもしれない。これを子どもの本でどう扱うかは、物語の持つ世界観で判断していくしかない。

野球は和製英語の宝庫
「フォアボール」って何だ?

 とりわけ野球には、意味不明な和製英語が多い。「フォアボール」をはじめ、「ナイター」「ノーコン」「オーバースロー」「アンダースロー」「サイドスロー」「フルベース」などは、英語圏では全く通じない。「キャッチボール」はボールを投げ合うではなくつかむという意味になるし、「タッチアウト」は「触れると終わり」ということからやけどを意味し、「バックホーム」は家へ帰れとなり、「デッドボール」はなんと試合終了、もしくは中断になってしまうらしい。

 こう書くと私が野球に詳しいようだが、実は日本の高校野球を舞台にした児童書の書評を海外向けに書いているうちに、野球が他のスポーツに比べ和製英語が多いことに気が付いたのだった。

 どうして多いのかについては諸説あり、あくまでも私見だが、野球は日本に輸入されてからの歴史が長く、独自の表現が育ちやすかったことに加え、戦時中に英語の野球用語が日本語に置き換えられ、戦後にそれが謎の英語になったのではないだろうか。例えば、「フォアボール」は四球、「デッドボール」は死球という関係などから推測できることだ。

 今の時代、マラソンなどで使われる「トップランナー」という和製英語は「フロントランナー」に正してもよいかなと思ったりする。

 地面の上を走るランナーは横移動しているのだから、上を意味する「トップ」ではなく、ネーティブは前を示す「フロント」と呼ぶ。この語感に子どもの頃から触れると、英語を概念的に学ぶ上で役立つ気がする。まあ、1896~1932年の夏季オリンピックの体操競技種目「綱登り」や、富士登山競走のような速さと高さを競うような競技であれば、「トップランナー」でも間違いないかもしれないが…。

 同じ理由で、「ナイスプレー」や「ファインプレー」というおなじみの用語も、ネーティブが普通に使う「グッドプレー」にしたほうがグローバルレベルかもしれない。

シーズンオフは英語では
オフシーズンだった!

 参考までにネーティブには通じるらしいが、ちょっとニュアンスの違う和製スポーツ用語も面白いので紹介しよう。

「マネージャー」は選手のお世話係ではなく、英語では指揮官のチームコーチや監督を指す。「オーバータイム」は、英語では時間外労働の意味。これはまあ厳密には間違いではない、オーバータイムの延長戦を「選手が時間外労働中です」と脳内変換すると楽しい。

「ジャッジ」は日本のスポーツでは審判員と理解されるが、英語では裁判官となる。

 審判員は野球、テニス、バドミントン、卓球、クリケットでは「アンパイア」と呼ばれ、サッカー、バレーボール、アメリカンフットボールでは「レフェリー」だ。だから「ジャッジ」を審判という意味で「アンパイアがジャッジする」と言えば理解可能だそう。

 単語を略した結果、通じなくなった「ドンマイ(元はドント・マインド)」は結構知られる用語だが、他にも「スタメン」「スタートライン」「コースアウト」などがある。また、語順をひっくり返して残念な結果になった「シーズンオフ(オフシーズン)」「フルベース(ベースズフル)」「スタートダッシュ(ダッシュ・スタート)」がある。

「これはOKなの!?」と
驚く用語もある

 一方で、「これは英語で通じるんだ!?」という和製英語の顔をした用語もあったりする。「スーパースター」「エース」「スマッシュ」「ルーキー」「タフ」「ラインアップ」「エラー」「タイゲーム」「ラストトライ」「ラストチャンス」「ピンチヒッター」などだ。

「ピンチ」が危険という意味では、ネーティブに理解されなくても「ピンチヒッター」は分かるというのがややこしい。スポーツ用語の多くは輸入。だから外国語扱いのカタカナになっているだけで、実はとても複雑な日本語と英語の融合形成が保たれている。

ブログ「アンちゃんから見るニッポン」や書籍『ペットボトルは英語じゃないって知っとうと!?』が話題のアンちゃん。写真はTEDxFukuokaTED(2018年1月)に出演した時

 これを日本で暮らすネーティブはどう思うのか?来日16年のアメリカ人で、言語学が専門の北九州市立大学准教授アン・クレシーニさん、通称アンちゃんに聞いてみた。

「私は、7年間くらい大学教員として和製英語を研究しているけど、スポーツの和製英語はすごく興味深い。そもそも、和製英語というネーミングが正しくないと思う。和製英語はすてきな日本語だからだ。日本語だから、日本では日本人同士で楽しく使ってほしい。ただ、英語圏に行って、相手が理解できなかったら、コミュニケーションは崩れるかもしれない。だから、その区別が分かるようになるのはいいことバイ!」

 しかも、スポーツも和製英語も大好きなアンちゃんは「オリンピックはいい機会!」という。それは、スポーツ用語の中にある、日本と外国の違いを知ることで、国際コミュニケーションにつながるからである。

 結論から言えば、和製英語は日本の文化ということだ。だからそれを無理に矯正する必要もない。そして、子どもたちに教えてあげたいのは、自国と他国の言葉から文化を相互理解する楽しさである。アンちゃんの言う通り2020年の東京オリンピックを目指して、和製スポーツ用語に笑って突っ込みを入れながら、日本の外にある国に思いをはせながら応援することは悪くない。

(まついきみこ@子どもの本と教育環境ジャーナリスト/5時から作家塾®)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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