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「異常気象」が世界経済の最大かつ恒常的なリスクになり始めている

文● 末澤豪謙(ダイヤモンド・オンライン

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溶けて割れた氷
Photo:PIXTA

「今冬は暖冬か、厳冬か?」。この質問に対する、答えはどうなるだろう。

 北日本に住んでいる人は、「今年の冬は寒かった。過去最強クラスの大寒波も来襲したし」と答えそうだが、西日本、特に、九州・沖縄・奄美の人は、「今年は暖冬。記録的な暖かさだった」と、答えるかもしれない。

 実際、気象庁の発表でも、昨年12月や今年の1月は、北日本を除けば、全国的に気温は平年に比べて高めとなっているが、2月初旬には、記録的な寒波が到来、全国的に気温が低下した。

 それが、今週になると気温が一気に急上昇するなど、変動の大きい天候が続いている。

寒暖差や地域差
世界的な「異常気象」

 寒暖差、ボラティリィティーが大きいのに加えて、地域間での差が大きいのが、今冬の特徴だ。

 北海道では、連日、大雪のニュースが報じられているが、東日本から沖縄・奄美にかけては、昨年12月に続き、1月も平年に比べて高い気温となり、特に沖縄・奄美では相当な暖冬となっている。

 気象庁が発表した「全国3ヵ月予報(2月から4月までの天候見通し)」でも、こうした地域によっての差が大きい状態が続く見通しだ。

 こうした「異常気象」は、世界的にもみられている。

 今冬は、米国の中西部が大寒波に襲われる一方、オーストラリアでは猛暑により、2019年1月は観測史上最も暑い月となるなど、それぞれの地域によって、これまでとは違う異変に見舞われている。

 WMO(世界気象機関)によると、世界の2019年1月の平均気温は1981年から2010年の平均よりも0.4度高かったが、特に高かったのはオーストラリアで、中東や東部シベリア、モンゴル、中国の北東部でも高かった。

 オーストラリアでは熱波に襲われ、アデレードで1月24日に最高気温46.6度を記録。一方で降水量は平年の38%にとどまり、南部タスマニア州で山林火災が多発、4万ヘクタール以上が焼失した。

 一方、気温が平均以下の地域は北極海周辺の広い地域でみられた。

 北米では北極の寒気が気流の変化により流れ込んだため、米東海岸やカナダなど広い地域で低温となった。米中西部ミネソタ州では1月30日、氷点下53.9度の猛烈な寒さを記録した。

背景に地球温暖化
平均気温は過去5年が上位

 こうした異変がなぜ起きているのか。

 WMOのペッテリ・ターラス事務局長は、レポートで「北極地方で大量の氷や雪が融解していることが、北半球の気象パターンに影響している」と、コメントしている。

 地球温暖化で、北極海の氷が融解しているが、それによって起きる極渦(北極及び南極の上空にできる大規模な気流の渦、周極渦)の蛇行が今年は著しく、北米や北海道を襲っている大寒波の要因になっているというわけだ。

 つまり、「異変」の背景には地球温暖化があるだけでなく、温暖化が異常気象やさらに自然災害を招く要因になっているという。

 最近でもさまざまな国際機関が、地球温暖化の加速を指摘している。

 NASA(米航空宇宙局)は2月6日、2018年の地球の平均気温が1880年以降の観測史上4番目に高かったと発表した。

 1951年から1980年までの30年間の平均気温に対し、2018年の平均気温は、華氏1.5度(摂氏0.83度)高まったとのことだ。

 過去最高は2016年で、次いで2017年、2015年、2018年、2014年の順となり、上位5位を2014年以降の5年間が占める。(図表1)

 ニューヨークにあるNASAのゴダード宇宙科学研究所(GISS)のディレクター、ギャビン・シュミット氏によると、1880年代から、世界の平均表面温度は、華氏2度弱(摂氏1度)上昇した。

 こうした温暖化は、二酸化炭素と人間の活動に起因する他の温室効果ガスのさらなる放出に主に起因しているとのことだ。

 また、気象庁が2月4日に発表した2018年7月の世界の平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)の基準値(1981~2010年の30年平均値)からの偏差は、+0.31℃(確定値)で、1891年の統計開始以降4番目に高い値になっているという。

 国連のWMOも6日、2018年の世界の平均気温が産業革命前に比べておよそ摂氏1度上昇し、過去4番目に高かったと発表した。

 過去最高は強いエルニーニョ現象が発生した2016年で、産業革命以前のベースラインに対し摂氏1.2度上昇。2017年と2015年は産業革命以前に対し摂氏1.1度上昇した。

 また温暖化は、北半球の高緯度地域(北緯23.6~90度)と熱帯地域(北緯23.6~南緯23.6度)と南半球の高緯度地域(南緯23.6~90度)を比較すると、過去50年ないし100年単位でみると、北半球の高緯度地域の気温上昇が最も著しい(図表2)。

 これは、海洋よりは陸地の気温上昇が著しく、北半球では陸地の占める割合が高いことと関係している。

 地球全体の海洋と陸地の面積比は、71%対29%だが、北半球では陸地の面積が約4割に対し、南半球は2割弱に過ぎず、陸地は北半球に集中している。

 また、北半球は南半球と比較すると、北半球は温帯地域に陸地が多いことも特徴だ。北半球の北緯30~40度と、南半球の南緯30~40度の地域は、同じ温帯地域だが、陸地面積比は、前者が約4割であるのに対し、後者は約1割と小さい。

 温暖地域で陸地が北半球の方が多い結果、現在の世界人口約76億人(推定)の9割超は北半球に居住し、そのことがまた、北半球の温暖化をより進めたと考えられる。

 特に、1990年以降、人口の多い中華人民共和国(現在約14億人)やインド(約13億人)等の新興国で、経済成長が進展、化石燃料などのエネルギー消費が爆発的に増えたことも一因と考えられる。

 地球温暖化が異常気象を招く要因になっている以上、過去30年間の世界の平均気温の推移で、2014年以降の過去5年間が上位5位を占めていることを勘案すると、今後は「異常気象」が恒常的に発生する可能性に留意する必要がありそうだ。

「グローバルリスク」で
3年連続「1位」

 さらにこうした異常気象は、中長期的には世界経済にとっても大きなリスクとなる可能性が高い。

 1月22日から25日までの日程でスイスのダボスで年次会合、いわゆる「ダボス会議」を開催した世界経済フォーラム(WEF)は 1月16日、2019年版の「グローバルリスクレポート」を発表した。

 14回目となる2019年版のレポートでは、今後10年間に世界が直面するリスクに関して、「発生する可能性の高いリスク」の第1位に「異常気象現象(Extreme weather events)」が挙げられた。

 ここでも、地球温暖化に加え、温暖化と近年、米国などを襲っているハリケーンや山火事の被害、アジアの台風被害などの関係が意識されたようだ。

 一方、「影響が大きいリスク」の第1位に挙げられたのは「大量破壊兵器(Weapons of mass destruction)」だった。

「発生する可能性の高いリスク」として異常気象現象が、「影響が大きいリスク」として大量破壊兵器がそれぞれ第1位を占めたのは、2017年版以降、3年連続だ(図表3)。

 先の図表では、オレンジ色は「地政学的リスク」、緑色は「環境リスク」、青色は「経済リスク」、ピンク色は「社会リスク」に分類される。

 2015年版ではオレンジ色の「地政学的リスク」が上位を占めていたのに対し、2016年版では緑色の「環境リスク」とピンク色の「社会リスク」が上位を占め、2017年版では全体の半分が緑色の「環境リスク」で占められている。

 2018年版及び2019年版では「環境リスク」は全体の6割に達した。

 WEFは近年の環境リスクの急激な高まりを指摘するとともに、気候変動等が紛争や移住といった他のリスクと強い連関を持っていることも強調している。

 たとえば、シリア内戦→難民の移動の背景に同地域の気候変動も影響していると考えられる。

 シリアでは2006年以降、厳しい干ばつが続いた結果、農村から都市に大量に人が移動することになった。それが部族間や宗教間の対立激化の遠因になったが、干ばつは地球温暖化で悪化したと見られる。

 このように、環境リスクの高まりが社会リスクや地政学的リスクを増大させることにもつながっている。

 2016年末にパリで開催された「COP21」で「パリ協定」が採択され、2016年11月に発効したのも、そうした危機感の表れといえそうだ。

自然災害による損失額
18年は世界で1600億ドル

 現実に、温暖化の伴う自然災害の多発で、各国は巨額の損失をこうむり、世界経済にとっても大きなリスクになり始めている。

 2017年秋にはラニーニャ現象が発生、ハリケーン被害や猛暑や大寒波等が問題となった。米海洋大気局(NOAA)によると、ハリケーンや竜巻、大雨、洪水、干ばつ、山火事等、気象災害による2017年の米国での被害総額は3062億ドルにのぼった。

 被害額はハリケーン「カトリーナ」が上陸した2005年(2148億ドル)を上回り、史上最高になった。

 また再保険大手のミュンヘン再保険によると、2018年の自然災害による世界全体の損失額は1600億ドルに及んだ。

 前年の3500億ドルからは半減したとはいえ、過去30年の平均(インフレ調整後1400億ドル)を上回る。保険金支払額も800億ドル(前年1400億ドル)と、30年平均(インフレ調整後410億ドル)を大きく上回ったという。

 このうち、2018年に最も損失額が大きかった自然災害は、米カリフォルニア州で生じた山火事の「キャンプファイア」で、165億ドルの損失(保険カバー額は125億ドル)となった。

 次いで、損失額が大きかったのは米国南東部を襲ったハリケーン「マイケル」の160億ドル(同100億ドル)。さらに米国東部を襲ったハリケーン「フローレンス」の損失額140億ドル(同50億ドル)が続く。

 なお、カリフォルニア州全体の山火事による損失額は240億ドルに達したという。

 また欧州では干ばつ被害で39億ドルの損失(保険カバー額は2億8000万ドル)が発生した。

 日本でも、台風21号によって125億ドル(同90億ドル)の被害を受け、7月の西日本豪雨では95億ドル(同24億ドル)、大阪と北海道の2つの地震で計90億ドル(同20億ドル)の被害を出した。

 WEFの指摘のように、「異常気象」が中長期的には、世界経済の「最大の」しかも「恒常的な」リスクとなる可能性は十分に想定されそうだ。

(SMBC日興証券金融経済調査部金融財政アナリスト 末澤豪謙)


※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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