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定年男性の新形態、パソコン前で「お地蔵さん」現象はなぜ起こる

文● 宮本まき子(ダイヤモンド・オンライン

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定年男性はどうしてパソコンの前で「お地蔵さん」化してしまうのか
定年男性はどうしてパソコンの前で「お地蔵さん」化してしまうのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

「団塊の世代」の男子らが定年を迎え、高齢者となった。彼らはかつての定年男性のように、熟年離婚を迎えたり、「お座敷豚」や「粗大ごみ」「濡れ落ち葉」となって妻や家族から嫌がられるようなヘタは打たない。その代わり、パソコンの前での「お地蔵さん」現象という「新形態」へと進化して、顰蹙(ひんしゅく)を買いつつある。(家族問題評論家・エッセイスト 宮本まき子)

定年男性の「外歩き派」が減り
「家庭回帰」が始まった

 戦後生まれの元祖ニューファミリー、「団塊世代」が2007年以降に順次定年となって10年が過ぎた。欧米文化に憧れ、新しい物好きで自由を謳歌(おうか)した世代760万人がどっと高齢者市場(シニアマーケット)に繰り出したのである。

 退職金や貯金で派手に消費して低迷しがちな景気を牽引してくれる、スポーツに趣味にと積極的に参加して従来の「高齢者」のイメージを一転させるとの期待は中途半端に終わった。一時的に旅行や家のリフォーム、新築などで消費が増えた後は、盛り上がりに欠けたからである。

 2017年の日本総研のデータによれば、食料や自動車関連、インターネットや携帯電話の通信費などの生活費は増加したが、旅行や教養娯楽、交際費などの「余暇を楽しむ支出」は減少しているという。

 一方、健康維持のための医療費、サプリ代、ジム等の会費は「孫経費」と並んで惜しまず出費されているから、「長生きして家族団らんを保ちたい」という欲求はある。70歳以上の世帯の8割が年金が主たる収入で、不足分は貯蓄を切り崩して生活しているという現状では、派手に余暇を楽しめないのかもしれない。

「粗大ゴミ」だの「濡れ落ち葉」だのと陰口をきかれた先輩たちの二の舞にならないよう、団塊世代のリタイアは注意深くソフトランディングしたようである。

 ちなみに「粗大ゴミ」とは家にいてすることもなく退屈し、存在を主張して居間を占拠して居座る夫を揶揄(やゆ)する言葉。「濡れ落ち葉」とは孤独が嫌で妻の行く先々にベッタリとひっついてくるのを比喩した流行語で、現役時代と異なる夫の退行現象に幻滅する妻の嘆きでもあった。

 妻の変化に無頓着で自己チューな「ガラパゴス世代」と違い、団塊世代男子は男女平等を教え込まれ、人数の多さゆえに他者との共同生活や距離感の取り方に長けているタイプが多い。

 彼らはまずリタイア後の居場所を見つけ、趣味、旅行、スポーツ、社会人向け公開講座、ボランティア活動、公民館講座、パートタイムジョブ、起業とフットワークがよく動き回っていた。

 しかし、ここにきて遊び飽きたか、息切れしたか、男性72歳の健康寿命通りか、はたまた資金が尽きたか、理由は不明だが「外歩き派」が減って「家庭回帰」が始まったのである。

 もちろん四六時中近くにいられてハッピーでラブラブという熟年夫婦もいるが、中には「地雷を踏むまい」と緊張感が漂う夫婦もいるから居宅対策は必須だ。

 例えば、夫婦のおのおののスケジュール表を玄関に貼っておき、「どこに行く?何時に帰る?」など、いちいち聞くようなプレシャーをかけない。

 夫用、妻用の鍵のかかる個室で寝起きし、掃除、洗濯、朝食、昼食、は各自で済ませ、夕食で合流するまでは原則自由行動とする。

 狭いマンションでは生活音に要注意。トイレやシャワー、キッチンは相手の留守時を狙ったり、時間差で使う配慮もする。自炊を覚え、総菜弁当などの中食やコスパのいい外食を探し、「俺のメシは?」等の虎の尾を踏むまねをしない。

 このように、老後貧乏へまっしぐらの熟年離婚より「卒婚」というシェアハウス状態を選んだという話もチラホラ聞く。

定年男性の「新形態」
「パソコンの前のお地蔵さん」現象

 男のメンツよりストレス回避を、花より実をとった団塊世代定年男子はおかげでテレビの前の「お座敷豚」にもソファの上の「粗大ゴミ」にもならずに済んだのだが、ここで定年男性の「新形態」が発生している。

 それは「パソコンの前のお地蔵さん」現象である。

 この「パソコンの前のお地蔵さん」は、自他共に想定外だったのではないだろうか?

 思えば壮年期に手書き→ワープロ→パソコンと早いテンポで切り替わり、過渡期の順応に四苦八苦した世代である。その反動でリタイア直後は額に汗して動くアナログな世界に浸った人が多い。そして10年後にひっそりと自室に戻って「仕事抜き」でパソコンと再会したらハマってしまったらしい。

 例えば、団塊の世代の男性らは定年後にこぞってFacebookを積極的に始めた。もともとFacebookは若者たちが同世代のコミュニケーションで盛り上がっていたのが、リタイア組が大量流入した後は中高年のグルメや旅の記事があふれた。その量の多さにしらけたか、若者たちは退散しつつあり、SNSの主流はインスタグラムに移行しているとか。

 そんな異変にもお構いなく、オジさんらは相変わらずFacebookで知人、元同僚らを見つけては「自分が孤立していない」ことを証明するための記事や情報を流し続ける。

 合間に新聞や雑誌のオンラインサイトをのぞけば、図書館で新聞や週刊誌の取り合いをすることもない。大型の液晶ディスプレーなら音楽、映画、テレビ番組もイヤホンをつけて楽しめるし、家族とテレビのチャンネル争いもしないで済む。

 ネットサーフィンやり放題、無料のゲームにも熱中する。もっとおもしろいことを追求できるのではと、時間を忘れてパソコンに向き合ううちに、「石のお地蔵さん」のようにパソコンの前で動かなくなってしまったのである。

はたから見たら
「引きこもり」

 はたから見たら「引きこもり」なのだが、問題は本人も家族もこの「省エネ」状態には、悩んでも困ってもいないことだろう。

 社会生活や人間関係を未経験の若者の引きこもりは長引くと深刻で、心身や家族関係に表れるが、定年男子はもろもろ経験済みの後の「自主的引きこもり」。

 ある意味、「ご隠居の道楽」である。「どこが悪いか?」と開き直られれば返答に窮してしまう。妻たちにすれば初めのうちこそ自室にこもってくれて手もかからず、出費もネット等の通信費だけで済むと安易に考えていたふしある。

 だが「お地蔵さん」は見えないところで変身していたのである。

 毎日の日課となった長時間のパソコン操作や多数の見えない相手とのやりとりは、仕事に復帰したような錯覚を起こさせるし、おびただしいネット検索を繰り返すうちに、自分は知識豊富で有能で、人を思い通りに動かせると思い込む「万能感」を育てた可能性もある。

 最近、高齢者ケアの関係者が最も警戒するのが、「預けた親の介護生活を隅々までチェックして、クレームをつける定年男子」だという。メディアやネットを駆使して、「自分の親」だけに最高にして最良のケアを要求する詳細な資料を次々に出してくる。

 やんわり断れば労働の効率化やカイゼン案、はては経営方針の転換まで、まるで仕事相手に対するように迫るらしい。多くはネットからのコピペだが、時間がたっぷりあるから対応する方も大変で、「その時間と熱意を親との会話やスキンシップに使う方が親孝行では」とぼやきたくなるそうである。

 もし定年男子が「パソコン万能感」で理論武装し、家庭内で管理職手腕を発揮して、妻に効率化やカイゼンを迫ったらたまったものではない。

 元来、日々の暮らしはあやふやで予定通りいかない超アナログなものである。目標を立てて完遂を目指すより、日常の場面でコミュニケーションし、感情を交わすことに意味があるのは「勝敗にこだわるより参加することに意義がある」五輪精神に似通う。

「人生百年」時代の団塊世代の妻たちにとって、まだまだ続く夫との生活を「パソコン命」で振り回されるのはごめんである。

夫の居宅対策の見直しは
「逆濡れ落ち葉」作戦

「夫の居宅対策の見直しは『逆濡れ落ち葉』作戦をしてみよう」と指摘する宮本まき子さん
宮本まき子さんは「夫の居宅対策の見直しは『逆濡れ落ち葉』作戦をしてみよう」と提案する

 そこで夫の居宅対策の見直しに、「逆濡れ落ち葉」作戦をしてみよう。

 データによれば団塊の世代が敏感に反応するのは「健康」と「グルメ」である。

「エコノミー症候群の予防にプールで泳ごう」とか、「夜のウオーキングに用心棒でついてきて」とか、「おいしいランチの店に連れてって」とか「食材の買い出しに行くから荷物を持って」とか言いくるめて、ともかくパソコンの前から引き離そう。

 キーボードから離れた指と手をつないで歩こう。シニア割引の映画館でいっしょに泣いたり笑ったりしよう。孫育てに引き込んで「すてきなイクジイ」と褒めそやそう。

 そうやってディスプレーから出てこない五感をフルに使わせれば、いずれ「笠地蔵」のように歩きだしてお礼を言われるかもしれない。くれぐれも地蔵化防止の時機を逸しないようにすることが肝心である。

◎宮本まき子(みやもと・まきこ)
1947年生まれ、津田塾大学アメリカ研究科卒。22年間にわたり電話相談室勤務。子育て、家族問題、心理、医療、教育関係を担当し、自身で2万件の相談を受ける。現在はフリーライター、エッセイスト、家族問題評論家として新聞、雑誌、テレビ出演等で活躍中。『輝ける熟年』(東京新聞出版局)、『団塊の世代の孫育てのススメ』(中央法規)、『孫ができたらまず読む本』(NHK出版)など著書多数。www.makikomiyamoto.jp…ホームページ www.miyamotomakiko.jp…ホームページ&オンラインサロン

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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