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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第34回

手嶌葵やポリーニのショパンなどを紹介

2019年2月の高音質盤、ノルウェー2Lの最高峰音源「LUX」などに注目

2019年02月09日 12時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK(ASCII)

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 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。音楽の秋に合った優秀録音をまとめました。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

『Cheek to Cheek~I Love Cinemas~』
手嶌葵

特選

 独特なハスキーボイスの手嶌葵、映画音楽カバーアルバム第4弾だ。タイトル曲の「Cheek to Cheek」(映画「トップハット」)、ディズニーアニメの「Kiss The Girl」(映画「リトル・マーメイド」)や、ラナ・デル・レイの「Young and Beautiful」(映画「華麗なるギャッツビー」)……と、幅広い時代やジャンルから、「今、手嶌葵が歌いたい映画音楽」の10曲が選択されている。

 かすれがちな声質が実に蠱惑的だ。暗いなかの明るさ、明るいなかの暗さという、感情の深みとアンビバレント性が、味わいを深くしている。Cabaret(映画「キャバレー」)も古風な雰囲気だったが、マリリン・モンローで有名なDiamonds Are a Girl's Best Friend(映画「紳士は金髪がお好き」)は、手嶌の持つ気だるい気分にベストフィットしている。Cheek to Cheekの冒頭のHEAVENの擦れ声と囁きが耳の快感。大きなヴォーカル音像に抱擁されるのも快感だ。duet versionでは後半に平井堅が参加しているが、比較するといかに手嶌葵の表現力が素晴らしいかが分かる。ヴォーカルとバンドの一発録音。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
VICTOR STUDIO HD-Sound、e-onkyo music

『New Year's Concert 2019 / Neujahrskonzert 2019 / Concert du Nouvel An 2019』
Christian Thielemann & Wiener Philharmoniker

特選

 もの凄い早業だ。1月1日にレコーディングし、7日にはもう配信がリリースされた。CD発売より、16日も早い。プレス工程と流通過程がない配信の大メリットだ。クリスティアン・ティーレマンは、ドレスデンでオペレッタものを数多く手掛けており、ニューイヤー・コンサートへの登場も遅すぎた感がある。ティーレマンは輪郭を過度に立てずに、音の内実を濃密に描くタイプの指揮者であり、豊潤なウィーン・フィルとの相性はたいへんよい。重厚さと、細部への気配りの細やかさが融合した素晴らしいワルツだ。軟らかく、潤いのある会場の響きと、絶妙にミックスし、歌いの振幅の大きさが素晴らしい。ムジークフェライン・ザールの華麗で豊潤なソノリティは十分に感じられるが、それに耽溺せず、オーケストラサウンドは意外なほど明瞭だ。2019年1月1日、ウィーン、ムジークフェラインザールでのライヴ・レコーディング。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

『LUX』
Nidarosdomens jentekor & TrondheimSolistene、Anita Brevik

特選

 ハイレゾの元祖、ノルウエー2Lはひじょうにソノリティ豊かな音場録音をレーゾンデートル(存立理由)としている。これまでも傑作を数多くものしていたが、主宰のモートン・リンドベルグによると、「LUXは私の最高傑作」という。 『LUX』とは「光」のこと。トロンハイム大聖堂所属のニーダロス大聖堂少女合唱団が、イギリス生まれでノルウェーで活動する作曲家、アンドルー・スミス Andrew Smith(1970~)に委嘱した作品。 少女合唱に管楽器とオルガンを加えたレクイエムだ。

 モートンが自画自賛しただけあり、素晴らしい音響だ。カノンの輪唱が、教会の広い会場に広がり、音の重なりが、さまざまな文様になり、空気を震わせていく。オルガンの低音のオスティナートに乗り、少女合唱団の透明で無垢な声が、空中を幾重にまざわりながら飛翔していく。サックスと合唱の絡みが、不思議な音色感を引き出す。数多い2L録音でも最高傑作というだけあり響きの深さ、空気の透明感、弱音の美しさ、強音の音の多彩さに感動。音色のパレットが華麗だ。2017年10月、2018年5月 ニーダロス大聖堂(トロンハイム、ノルウェーにてDXD(24bit/352.8kHz)録音。

FLAC:352.8kHz/24bitほか
2L、e-onkyo music

『ショパン:ピアノ・ソナタ 第3番、他』
マウリツィオ・ポリーニ

特選

 ショパンの作品55~58を収録した。まさに威風堂々の大ショパンだ。雄大なスケールと細部への細やかな切り込み、そして感情のダイナミック・レンジの大きさが、ポリーニの芸術を物語る。最新録音だけあり音の新鮮さと、切れ味の鋭さがひしひしと伝わってくる。特にピアノの音色の盤石的な安定感、どこまでも伸びているDレンジ感、音の色の華麗さは心に染みいる。音楽的な素晴らしさとに加え、現在のポリーニの地平を見事に描ききった高水準な録音も本アルバムの価値だ。2018年5月、ミュンヘンで録音。

FLAC:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

『コンプリート・シングルA面コレクション』
天地真理

特選

 ハイレゾで綴る70年代のJ-POPは遂に天地真理まで来た。ここにきて、ソニー・ミュージックは特に天地真理をフューチャーしており、昨年末には『私は歌手』というCD5枚(100曲)+DVD1枚(18曲)+歌詞ブック(84ページ)という大ボックスアルバムをリリースしている。同時期に全シングル23曲を収録した『コンプリート・シングルA面コレクション』のハイレゾ配信がスタート。

 真里ちゃんには大ヒット曲以外にも「恋人たちの港」「恋と海とTシャツと」……など佳曲が多い。当時から半分裏声のようなユニークな声質が評価されていたが、国立音楽大学付属高校の声楽科出身ならでのアルトの裏声が、当時のアイドル歌手としては珍しかったのだろう。リマスタリングの音調は、ハイファイ調に帯域を拡げずに、当時のシングルレコード的な雰囲気だ。私は津田塾大学のコード進行の授業で「水色の恋」を分析している。クリシェ、ツーファイブ、セカンダリー・ドミナント、サブドミナントマイナー……と、胸キュン・テクニックが満載だからだ。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Direct、e-onkyo music

『ダグリ』
峰厚介

推薦

 わが国、ジャズサックスの最高峰、峰厚介のハイレゾアルバムを2作、ご紹介しよう。まず、1973年録音の『ダグリ』。峰の代表作として有名な作品だ。今、70年代の「和ジャズ」に対する評価が世界的に高まっており、当時の中古レコードが世界で人気を博している。本作は高円寺の中古レコード店、Universoundsの尾川雄介氏監修による『DEEP JAZZ REALITY』シリーズの一点。1/4インチのマスターテープからハイレゾ化した。マスタリングしたビクタースタジオ川﨑洋氏は「当時のエンジニアがしたかったことを、今の音にマスタリングした」とコメントしている。当時の日本ジャズシーンの熱気が熱く感じられる、躍動の演奏であり、音だ。たぎる熱気とエモーションを聴く。アナログ的な抱擁力の大きさと、空気の厚み、突進感が快感だ。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
VICTOR STUDIO HD-Sound、e-onkyo music

『Bamboo Grove』
峰厚介

 こちらは最新録音。峰厚介、8年振りの新作だ。74歳の今のデジタル録音。タワーレコードのDays of Delightレーベル制作。解説に「録音はセパレートブースを使わず、ワンルームでの一発録りにより、ライブ演奏のグルーヴとダイナミズムを凝縮」したとあるが、まさに最新録音ならではの、鋭い切れ味、音の飛翔感、音の凝縮と爆発感が体感できる。ブースを使わずとも各楽器はとても明瞭だ。アナログの『ダグリ』からは46年を経過し、音のエネルギッシュさ、強靭な進行感、明晰な音色感はさらに磨きが掛けられた印象だ。音の生命力が満喫できる。、録音ディレクションはヴィンテージ機材を使用した録音には定評がある、ジャズベーシストの塩田哲嗣氏。(2018年8月20、21日新宿御苑のStudio Greenbirdにて録音。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
TOWER Records Japan、e-onkyo music

『In Search Of Mona Lisa』
サンタナ

推薦

 2016年のアルバム『サンタナIV』から約3年ぶりの新作EP『In Search of Mona Lisa』。ハイレゾ配信の世界にも「EP」という概念があるのが面白い。『In Search of Mona Lisa』はパリのルーヴル美術館のモナ・リザから本5曲を発想したことに由来する。サンタナというと懐かしいイメージだが、いやいや、これは最新録音である。まずは先行EPアルバムとして5曲がリリースされ、のちほどフルアルバムに進む予定という。サンタナらしい、音の輪郭が明確で、切れ味が鋭く、同時にセクシーでグロッシーな音色は健在。Do You Remember Meのむせび泣きとラテンリズムの躍動感との融合が素晴らしい。録音は特上級。Lovers From Another Timeの泣かせるストリングスと、WEEPするギター、ピアノが感動的。

FLAC:44.1kHz/24bit
Concord、e-onkyo music

『Imagine: John Lennon 75th Birthday Concert[Live]』
ヴァリアス・アーティスト

推薦

 2015年12月5日に米ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデン・シアターで開催されたジョン・レノンの75歳の誕生日を祝うオールスター・コンサート「Imagine: John Lennon 75th Birthday Concert」。ライブ収録は、ライブらしい臨場感や熱気は味わえるが、音のバランスや明瞭さに欠けるものも多い中で、本アルバムは、そうしたライブらしさと、録音作品としての完成度がバランスしている。細部までの描きや、ヴォーカルと楽器のバランスがとてもよい。なので、コンサートのドキュメンタリーというだけでなく、広く日常的な鑑賞にも充分耐える。ピーター・フランプトン(「ザ・ハード」のヴォーカル)のNorwegian Woodはヴォーカルとアコースティックギターの質感が素敵だ。ウィリー・ネルソンImagine は、艶と伸びを堪能。15組で朗々と謳われるAll You Need Is Loveは、本アルバムの白眉。

FLAC:44.1kHz/24bit
Universal Music、e-onkyo music

『一人が好き (PCM 96kHz/24bit)』
遠藤響子

推薦

 シンガー&ソングライター遠藤響子のピアノ弾き語り集。深く心に染みいる歌詞と歌声。日本語の歌詞としっりとした旋律が合わせ技として、聴き手にさまざまな思いを想起させる。リバーブが豊かで、グロッシーな音調だが、遠藤のヴォーカル・ピアノの音は、とても明瞭だ。大きな会場で、響きの中で聴く雰囲気ではなく、眼前でふたつの直接音と間接音を同時に聴取しているような感覚だ。響きの豊かさと、ダイレクトな明瞭さが両立するのが、深田晃録音の美質であろう。。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
Pure Mode Records、e-onkyo music

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